終わりと始まり(2)
ちょっと短いです。
いつも通りの教室だ。
生徒は、楽しそうにお喋りしながらお昼ご飯を食べている。智鳥は一人、自分の机で菓子パンを齧っていた。登校途中のコンビニで買ったものだ。いつも通り、味気ない。スポンジでも食べているような気分だった。
手元のプリントに目を落とす。
いくつもの英文が並んだそれは、つい最近あった小テストだった。暗記テストだったが、智鳥は不合格。クラスで一人だけ再テストを言い渡され、放課後までに覚えてしまわなければならないのだった。
ただ、文字の黒だけが目にこびりつき、一向に覚えられない。連日徹夜で課題に向かっていたせいもあって、頭が朦朧としていた。軽く吐き気すらしてくる。
食べかけの菓子パンをレジ袋に戻し、椅子に深く腰掛けた。
英文を目で追いながら、近くの女子生徒達の視線が気になった。智鳥のプリントを見て、クスクス笑っているように思える。錯覚かもしれないが、同じように、誰もが智鳥の惨めな姿を笑っている気がした。
頭がズキリと痛んだ所で、予鈴が鳴った。
――最悪の気分だった。
放課後、再テストに向かった智鳥は結局合格することが出来ず、加えて、教師の虫の居所が悪かったせいで、長い説教を食らう羽目になったのだ。いや、あれは説教というより、理不尽に怒鳴り散らされただけだろうか。また教師が職員室のど真ん中で騒ぐものだから、智鳥は職員たちの冷やかな視線にさらされることになってしまった。
学校を出た時にはもう既に暗く、しかも土砂降りの雨だった。
鞄から取り出した折り畳み傘をさすが、なんの効果もなかった。あっという間に足元がずぶ濡れになる。風も強く、顔に冷たい雨が打ちつけてきていた。
雨が傘を叩く音が、まるでマシンガンのようだ。
大量の教材が入った鞄を持ち直し、フラフラと歩く。目の前は疲労と雨で、霞んでいた。
(しっかりしないと……これから、塾に行って、明日の予習をして……ご飯食べてから、課題をして……あと、国語の小テストの準備も……)
信号機が赤く光っていたことに、智鳥は気づかなかった。
ふいに耳を劈いたクラクションの音。傘を吹き飛ばした強風。迫るヘッドライト。
「え……?」
すさまじい衝撃を受け、智鳥は自分の足が地面から離れたのを感じた。
痛みと雨の冷たさの中、最後に智鳥が思ったのは、「ああ、お父さんもお母さんも、こんな感じだったのかな」ということだけだった。
次回、いよいよ異世界!