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魔道士なんて聞いてない!  作者: 香月千夜
雲霞を裂く紺燕
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紺燕と獅子

差し込んだ朝日で、チドリはふと目を覚ました。

次の瞬間、ヒクッと喉を引き攣らせる。

目の前に、穏やかな表情で眠るレアンの顔があった。

藍白の光が降り注ぎ、一枚の絵画のように美しい。濃い銀色の髪が首筋に流れ、輝いている。同色の睫毛は長く、瞼に影まで落とすほどだ。薄い唇は淡い赤で、時には甘い言葉を囁き、時には獣のように自分を食らうことを知っている。見れば見るほど、まるで神様が殊更丁寧に作り上げたかのような美貌だった。

ふと、見つめていた端整な顔が微笑んだ。


「!?」

「そんなに見つめられては恥ずかしいですよ?」

「お、おお、起き、お、起きて……!?」

「チドリ様の熱い視線を感じましたので」

「あ、熱くなんか……っ!」

「でも見つめて下さっていたではないですか」

「そ、それは!あの、えっと……や、やっぱり綺麗な顔してるなあ、と思って……」

「……お好きなのは、顔だけですか?」

「違います!!」


思わず起き上がり、その拍子で捲れ上がった掛け布のせいで、レアンの上半身がベッドの上に晒されることになってしまった。


「うぎゃーっ!?す、すみ、すみません!!って、ていうかなんでまだ脱いだままなんですかっ!!」

「あのまま寝てしまいましたからね。直すのも面倒でしたので」

「そ、そういえばあの後私どうなっちゃったんですか?なんか、記憶がなくて……」

「覚えておられませんか?チドリ様は無意識に魔力を送り続けて、疲れて眠ってしまったんですよ」

「えっ」

「気づかなかった俺が悪いのですが……お体に何か不調はございますか?気分が悪かったりなどは?」

「いえ、そういうのは全く……す、すみません、全然覚えてなくて……」

「とんでもない。お蔭で俺の魔力も正常に戻りましたし、チドリ様から頂いた分で、何とか城でも過ごせそうです」

「そうですか……よかったです」

「俺としてはまだまだ物足りないのですがね」


言うが早いか、レアンの腕がチドリの腰に回った。そのままお腹にスリスリと甘えるように顔を寄せられ、チドリの体が硬直した。


「ふひっ!?で、でもほら、そろそろ戻らないと怪しまれたりするんじゃ……ひょっ!?」

「はあ……そうですね。流石に朝食の席にいなければ怪しまれるでしょう。まあ心底、面倒ですしどうでもいいのですが……実力行使で王族全員を縛り上げればいいのでは?その方が早いですし、当初の目的は達成できますよ」

「駄目です!!」

「うぅ……チドリ様がそう仰るなら仕方ないですね……」


項垂れながら起き上がり、レアンは渋々衣服を元に戻した。

ベッドから降り、ローブを羽織る。


「では、出来るだけ早くこの件が解決するよう、精々死力を尽くすといたしましょう。これ以上チドリ様と離ればなれでいるような状況が続くのは、耐えられませんからね」


そう言うと、レアンはまるで物語に出てくる王子様さながらにチドリの額に口づけを落とした。チドリの口から「ぴゃっ」と奇声が飛び出る。

チドリの反応に楽しそうな笑い声を零し、レアンは部屋を後にした。

入れ替わるように、恐る恐るエーデルが顔を覗かせる。


「……はよ。だ、大丈夫か?」

「…………ダイジョウブ」

「そ、そうか……朝飯あるけど、食べるか?」

「……タベル。アリガトウ」

「お、おう」


ギクシャクと動きだし、チドリは一先ず着替えようかと火照った頭でボンヤリ考えた。






「やっぱり、仕掛けるなら式の途中が一番いいと思うんだよな」


朝食後、二人でお茶を飲んでいると、そうエーデルが切り出した。


「式の途中?どうして?」

「アイツ曰く、逃げるんじゃなくて決別する形にしたいんだと。もう、全員を敵に回す覚悟は出来てるって言ってた。だから、この機に施設に捕らわれてる国民も全員逃がすってな」

「騒ぎに乗じてってこと?」

「そう。もうやるなら最後までやった方がいいと俺も思ってな。施設に捕らわれてるって言ったのは別に言葉の綾とかじゃねえぞ。ネフェロディスの国民はほぼ全員が月蝕会の経営する魔法道具製造施設で働かされてる。でも、そこがいくら低賃金で休みが無くても、アイツらにはそこしか働き口がないんだよ。家族を養うためには、そこで働くしかないんだ。だから逃げられないし、賃金を安くされれば自分だけじゃなくて働ける家族も一緒に働いてもらうしかなくなる。そうして、ほぼ監獄みたいに国民は施設に捕らわれていってんだ……まあ、その施設がぶっ壊れでもすれば、皆楽になれるだろ」

「ぶ、ぶっ壊れ」

「先の事も大事だけどな。今はまあ、なりふり構ってられねえんだ。先の事なんか考えてたら、死人が出るかもしれねえ」

「そ、そっか。わかった……それで、えっと、私は何すればいいの?その施設を壊せばいいの?」

「お前も大概ノリが良いよな……まあそうだな。お前が騒ぎを起こしてる間に、俺がエルローズの所に行く。まあ攫ったところで向こうが黙ってるわけもないからな。その後の一乱闘くらいは考えといてくれ」

「ひ、ひえ……乱闘……」

「……別に、お前なら大丈夫だろ」


顔を背け、エーデルがポツリと呟いた。心なしか、その頬が赤い。


「えっと……そ、それはどういう」

「言葉通りだよ。お前なら心配ないだろって言ってんだ」

「レ、レアンさんがいるから……?」

「……ちげーよ。それもあるけど……お前にはやれるだけの力があるだろって言ってんだよっ」


そっぽを向いたエーデルの口調は拗ねた子どものようで、チドリは思わず笑ってしまった。


「な、なんだよ」

「ううん。エーデルに正面から褒められたの、初めてだなあって思って」

「そ、そんなんじゃねえよ!俺はただ……!」


言いかけたまま、エーデルが言葉を濁す。


「俺はただ……お前と……その……いや、お前に……」

「何?どうしたの?」

「ああクソッ!何でもねえっ!!」

「え、なになに?何かあったの?」

「何でもないっつの!気にすんな!」

「気になるよ!」


やいやい言い合う部屋の外で、空は薄曇りの色を見せていた。

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