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魔道士なんて聞いてない!  作者: 香月千夜
異世界へ
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終わりと始まり

初投稿です!

思いっきり自分ワールドではありますが、お目汚し頂ければ幸いです。

「なんだこの点数は」


乾いた音を立て、目の前に放られる書類。智鳥ちどりは虚ろな目でそれを見やった。

時刻は午後十一時三十七分。薄暗いリビングで、智鳥はスーツ姿の男と対峙していた。

男が眼鏡の奥で、鋭く双眸を眇める。


「お前は自分の立場がまだ理解出来ていないようだな。どれだけ俺の顔に泥を塗れば気が済むんだ?」

「……すみ、ません」


頭がボンヤリする。ふらつきそうになる体を必死で抑える。男――高島行雄たかしまゆきおは、わざとらしい溜息をついた。薄明りの中で、白髪混じりの髪が鈍く光る。


「高島家には、こんな低俗な成績はふさわしくない。引き取られて育ててもらっている身なら、もう少し貢献しようと考えられないのか。塾にも通わせているというのに、お前ときたらまるで進歩しないな。学校と塾に呼び出される母さんの気持ちがわからないのか」


毒針のような言葉だ。智鳥の体に刺さり、心臓に毒を注がんとするような。

智鳥は、表情の一切を変えないまま、口を開いた。


「……すみません」


嘲笑が聞こえた。「それしか言葉を知らんのか」と、吐き捨てる声も聞こえた。だが、もうそれに反応できるほどの体力が残っていない。今はただ、眠りたかった。


「今度また同じことをしたら、施設に入れてやるからな」


そう言い残して、行雄はリビングから出て行った。しばらくして、浴室でシャワーの音が聞こえだす。智鳥は大きく息をついて、ノロノロと立ち上がり、二階へ続く階段を上った。暗い廊下を歩いて、小さな自分の部屋に帰る。部屋というより物置に近いそこが、この家にある智鳥の唯一の居場所だった。着替えもせず、薄い布団に倒れこむ。目を閉じれば、睡魔はすぐにやってきた。眠りに落ちる前、数時間前に言われた塾講師の言葉が蘇る。


『君みたいに出来の悪い子は初めてだよ――』


(……どうせ私はダメな子だ)


何度呟いたか知らないセリフを胸中で繰り返し、智鳥は意識を手放した。



――高島智鳥、十七歳。

幼いころ交通事故で両親を失い、父の兄である行雄家族に引き取られた。もともと由緒ある家の出だった父だったが、高島家ではかなり疎まれていたらしい。母との結婚が、主な理由らしかった。

行雄は反対に、高島家で最もと言っていいほど期待された人間で、才能や成功に恵まれていた。

大きな家に、学歴のある妻。有名大学に通う息子と娘。

そこに、弟の娘である智鳥が転がり込んで来た。一族の中でも引き取り先がなかなか決まらず、半ば強引に押し付けられたような形だった。

高島家に来てから、智鳥は本当に厳しく育てられた。

高島家として、せめて学歴だけはと、行きたくもない塾にいくつも通わされ、無理をして有名高校に入った。行雄の息子と娘が出た高校の、一つ下のランクの高校だった。

智鳥は、高島家が望んだような才能を持ち合わせていなかった。

勉強もこれと言って特筆出来ることはなく、運動においては以ての外だ。つまり、典型的な『ダメな子』なのだった。

身の丈に合わない高校に入ったばかりに、成績も伸び悩む。周りの視線は、いつしか冷やかになっていった。


毎朝薄暗い時間に起きて、重い足を学校に運び、孤立感の中で授業を受け、学校が終われば塾に通い、夜中まで残る。帰ってくれば他の者はもう就寝しているか、偶然顔を合わせて、眉をしかめてから寝に行くかだ。


毎日が、灰色だった。

ありがとうございました!

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