狩り人99
結局、1日では全ての解体を終える事が出来なかった。
故に傷み易い部位のみを取り去り加工して行く。
ボアングの小腸も長く柔軟性に富んでいる。
それを使い内臓を使った腸詰めを造っていく。
各部位毎や、部位を混ぜ合わせたりと工夫を。
臭みを消す為に香草や香辛料を混ぜ合わすのも忘れない。
此処や洞窟上には、それらが存在しており、それを採取しての作業だ。
無論、全ての香辛料が存在する訳では無いが、代替えとなる品などが存在したりするのである。
ただ扱いに注意は必要だ。
不要部位を丁寧に除去せねば毒性を持つ物や、1度は炒ってからでないと使用不可能な品。
煎じた汁がでないとダメな品などなど、扱いに留意せねばならぬ品も多い。
修行時代に扱いを叩き込まれたダリルであるからこそ、使い熟せると言えよう。
とても素人が手を出せる代物では無いのである。
カリンも初めて見る遣り方に興味津々ではあるが、ダリルは決して手を出させない。
そんなダリルの対応が不満なのだろう。
拗ねた様にカリンが告げる。
「ちぇっ。
オイラにも、させてくれても良いじゃん」
そんなカリンへダリルが困った様に。
「あのなカリン。
これらは扱いを間違えると毒性を含む品なのだ。
死ぬ事は無いが…
痺れたり腹痛でのた打ち回る事になっり、下痢や頭痛に悩まされたりする事になるからな」
深刻そうに。
「そうなの?」
驚いた感じでダリルを見る。
「ああ、間違い無い」
そう断言し…
「何せ修行時代には何度も経験した事だ。
処理に失敗すると酷い目にあうからな」
当時を思い出したのであろうか、少し遠い目で告げるダリルであった。
一応、ダリルの師であるゼパイルは扱い方を教えてはいる。
だが香辛料代わりに扱える状態に処置するのは難しい。
それを体得するには、己の身を削る必要があると言える。
些細なミスが食材を台無しとするのだ。
それが己が食す食材ならば良かろう。
だが納品すべき商品であったならば笑えない。
増してや、今処理しているのは稀少食材であるボアングの内蔵なのだ。
それが無為になるなど有り得ないと言えよう。
ダリルの説明を受け、流石にカリンも諦めた。
いや、ダリルが告げた症状になるのであれば、敢えて挑戦するつもりにはならぬであろう。
考え直したと言うよりは、怖じ気付いた様に…
「や、やっぱ…
オイラ、良いやぁ~」
ピュゥ~っと逃げ去る様に。
どうやら内臓の処置へと戻ったと見える。
まだまだ処置していない内臓があるのだ。
それなのに、処置を終えた部位の加工をダリルが始めると、その対応に興味を示し寄って来たのである。
「仕方の無いヤツだ」
呆れた様に告げるダリルであった。
昼は、処理したボアングの内蔵を用いた料理を調理し食す。
その料理はカリンが感動で身を打ち振るわせる程の代物であった。
ロアンデトロス食材に勝るとも劣らない食材なのだから当然とも言えよう。
しかも、あのロアンデトロスよりも討伐難度は遥かに上だ。
北の地では王侯貴族であっても、滅多に口には出来ぬ品なのである。
そして討伐難度もだが、その味たるや極上と言える。
本来は肉食獣の味は濁っており臭いも臭いと言われる。
ボアングは雑食である為に肉も食す。
だが草なども食すのである。
特に、ある種のの茸や苔類に目が無い。
この茸や苔を大量に食したボアングの肉は更に極上…いや究極にて至高、そして至福たる品へと昇華するのだとか。
それは、この洞窟に生える茸であり苔である。
この洞窟の上部は穴が空いており、地上へと通じている。
その為、此処の食材は地上にも存在するのだ。
いや逆か?
洞窟上部が崩落し穴が空いた為、地上より茸や苔、木々や草花が進入したと言った方が良いのであろう。
つまり地上にも高級茸や薬効茸、薬効苔なども存在しており、倒したボアングは、それらを食していた訳だ。
なんと贅沢な餌であろうか。
肉を食らう事で豊富な栄養を得、更に芳醇な薫りを放つ食材にして薬効にて不純物を身より排出したその身が不味い筈も無く…
しかも内臓と言う物は滋養の塊とも言うべき品である。
旨味も肉の部位に比べ凝縮されていると告げて良い程に濃い。
そんな部位を丁寧に下処理して香草や香辛料にて臭みを消し去っているのだ。
旨味のみが際立つと言うよう。
更には、その食感が曲者とでも言うべきか。
コリコリ、クニュクニュ、トロォ~リィトロトロ…
様々な食感が。
臭み消しの香草や香辛料に混じり、内臓その物が放つ芳香が。
肉食獣では有り得ない、雑食にて芳香を放つ食材を食した故に放たれる清浄と薫る、それ。
旨味とのコラボにて相乗効果を生み、更なる高みへと味を引き上げる。
余りの美味さにカリンなどは、無言で頬張りながらポロポロと涙する程だ。
彼女の脳裏には…
(美味いよぉ~、美味いよぉ~、コリコリ、トロトロ、クニュクニュ、ザクザクぅ~
旨っ!
旨っ!
美味いぃぃっ!)
そんな語彙しか生まれず、また、そんな語彙に思考は支配され、何も考える事など出来ない。
正に旨味に支配されるが如くである。
これを用いて洗脳などすれば、容易く洗脳できるのでは?
そう思わせる程に旨味に思考を奪われるカリンであった。
それも致し方ない事やもしれぬ。
カリンは旨味と言う物に対して耐性が無い。
いや、この世界の者達の大半と告げて宜しいか?
そんな者達に、我々でさえ旨味の洪水に圧倒される状態を経験させたのだ。
無理も無いと言えるであろう。




