狩り人94
鹿の炙り肉を齧り飢えを癒すカリン。
何時もと劣る味に戸惑いつつも急場を凌ぐ。
ダリルも鹿肉を齧り作業を続けている。
こちらは味の想像が出来ていたため、こんな物と納得しつつ作業を進めている。
とは言え、多目の薪を工夫して組みつつ容易く火が絶えぬ様にした焚き火を増やすだけだが。
穴の中は濛々たる煙が充満している状態となっている。
虫などが存在していても燻され死滅している事であろう。
生憎な事に香木は存在していなかった為に香木香は肉へ移す事は叶わなかったが。
いや、本来は香木などは容易く手に入る物では無い。
それを用いて干し肉を造るなど、本来はおかしいとも言える行為である。
ロアンデトロスの干し肉を造った時は気付かず薪へ香木を投じた事。
ロアンデトロス自体がレア素材であった事。
品質の低い香木が多く得れた事。
これらの状況があった故に燻し薪へ香木を使用したのだ。
なので今回の鹿肉などに香木を燻す為に使用する事などは有り得なかった。
その香木で燻したロアンデトロスの干し肉と比較しては、新鮮な炙り肉と言えど勝てる筈も無い。
味と言う物には香りも付随されて評価される物なのだ。
更にロアンデトロスの肉の旨味は鹿肉を凌駕する。
更に燻し水気を抜き味が濃縮されており、少々時間が経った為に熟成も進んでいる。
干し肉と言う事で新鮮な鹿の炙り肉より劣る印象をカリンは持っていたが、トンでも無い事だと言えよう。
とは言え、大振りな鹿肉を炙り食した事により腹はそれなりに熟れた様だ。
先程よりは餓い感じは失せている。
だが満腹とまでは言えない状態であろう。
カリンは気付いて無いが、実は彼女にとっては非常に不味い事態とも言える。
今まで我慢に我慢を重ねる事で空腹感を鈍化させていた。
故に食費は抑えられていたのだ。
逆に言えば最低限の栄養しか摂取できずに成長が阻害されている状態に陥っていたのではあるが…
だが孤児であるカリンの実入りは少ない。
もしダリルと別れる事になれば、忽ち飢える事となるであろう。
しかし逆も、また真なりと言える。
摂取量が少なく栄養が得られなかった体へ豊富な栄養が。
しかも摂取と共に鍛練にて体への負荷が与えられる。
急激な負荷による超回復に伴い成長も促進され、更に栄養が体へと供給される…
彼女の体は成長へ向けて肉体が芽吹き始めているのであった。
その為か、時々体の節々に痛みが走る事が。
理由が分からず、秘かに不安に思っている様であるが問題はない。
急激な成長が始まった事に伴う成長痛である。
促進される成長に肉体の追随が間に合わずに起る現象と言えば良かろうか。
とは言え、数日で目に見える程に成長する物では無いが。
さて、穴へ燻す煙を送る作業を終えたダリルは夕食の支度を行う事に。
カリンには茸と苔に野菜や香草、木の実の採取へ向かわせる。
ダリルは鍋で煮出している鹿の骨の状態確認を行った後で、川へと。
ザリガニの様な海老と小型の川海老に沢蟹と貝を。
それを捌いてから煮出している鍋へと投入する。
そうこうしている内にカリンが戻ってくる。
まぁ何度かカリンと共に採取した事もあり、何が何処へあるかはカリンも把握している。
故に採取は簡単に終える事が出来た様だ。
そんなカリンが戻った頃、ちょうどダリルが焚き火前より出掛ける所であった。
「あれっ?
また行くの?」
調理後らしき状態より、一度はダリルが戻っている事を察していた。
そのダリルが腰を上げ出掛け様としている。
そんなダリルへカリンは興味を持った様である。
「うむ。
近場に美味い食材が獲れるのでな。
ちょっと狩って来ようと思っている」
その様に告げる。
それを聞きカリンが興味を持った様だ。
「へぇ~っ。
それってさぁ、どんなヤツなの?」
軽い興味と言った風に尋ねたのであるが…
「ああ、昨夜食したヤツだぞ」
軽く応えたダリルにカリンが反応。
「えっ!
それって、昨日食べた美味いヤツの事ぉっ!
オイラも行くぅっ!
あんなに美味いヤツって、どんな形してるのか知りたいもんっ!」
興味津々である。
ダリルは一瞬困った顔に。
昨夜は態々川で解体して大山椒魚の姿をカリンに見せない様にしていた。
流石に大山椒魚の姿はグロテクスと言えよう。
その様な食材を見せた場合に、果たしてカリンが食せるか…
そう懸念しての事だ。
故に、昨夜は食べたとは言え狩の現場へ連れて行くべきか…
そう悩む彼へカリンが告げる。
「オイラもハンターだもん。
狩れる獲物の種類と見分け方や狩り方は、少しでも覚えたいよ」
そう頼んで来る。
確かにそうだ。
彼女は身を守る術を学ぶためにダリルへ同行しているが…
身を守ると言う事を拡大解釈すれば自分で糧を得る事も含まれると言えるやもしれぬ。
そう己を納得させたダリルが同行を許可。
2人で大山椒魚狩りへと向かうのであった。




