狩り人93
食材の加工。
では、どの様に行うかであるが…
ダリルは洞窟内に加工に適した場所を複数見付け目星を立てていた。
その案を実行へと移す事に。
まずは鹿の小腸を利用した小腸の肉詰めである。
内臓や肉を、それぞれ香草や塩などと共に混ぜ合わせ鹿の小腸へと詰め込む。
いや、内臓と肉を混ぜ合わせた物も。
組み合わせは様々。
その際、脳味噌なども処理する。
脳と言うのは河豚の白子と譬えられる程の品なのだ。
忌避される部位ではあるが、ダリル達の世界にその様な考えがあろう筈も無い。
全てや部位を種類別毎に処置した物、組み合わせ混ぜ合わせた物と、複数種類の腸詰を造り出している。
更には様々な茸や水草に藻と苔などを合わせた物も…
この様に大量の腸詰めを造り出し、それらを次の工程であるボイル加工へと。
この加工には温泉の熱湯を使用し湯で揚げている。
この茹で上げる作業なのだか、大量の熱湯を使用する為に容易くは行えぬ加工なのだ。
特に施設の無い野外では諦めざるを得ぬ作業なのである。
だが此処では温泉の熱湯が湧き出しており、容易く行う事ができる。
嬉しい誤算とでも言うべきか?
ボイル加工の工程を終えたダリルは、次の工程へと進める事に。
その工程を進める場所として、蔦が張る壁面とは別の壁面に空いた穴を考えている。
その穴なのだが、程良い広さと高さがあり、横木を通すには丁度良い小穴も無数に存在するのだ。
この小穴が選定の決め手となったと告げても過言ではあるまい。
この小穴を流用して横木を通し、その横木へと腸詰を吊るすのだ。
燻す物を置く仕組みを1から造り出すには、結構な労力と時間が浪費される事となろう。
だが破竹で造った横木を小穴へと差し込む事で簡単に干し棚が構築可能へと。
これは嬉しい。
その選定した穴であるが、そこは風の通り道となっているのか適度な風が常に舞い込んでいる。
そして穴へと舞い込んだ風は穴の内部を舞う様に流れた後で勢いを消して消え去る。
他にも、この壁面には同様に風が舞い込む穴は存在したが、矢張り棚が楽に造れる穴は少なかった様だ。
これらの穴だが、穴の入り口にて火を焚けば適度に新鮮な風が焚き火へと流れるのだ。
さすれば新鮮な空気が焚き火へと供給され薪を絶やさねば燻す煙が絶えぬ事に。
そして焚き火より煙る薫煙は穴の内部を満たし素材を燻すと言う訳だ。
天然の薫煙機といった所であるろうか。
無論、腸詰以外の肉も、此処にて燻す事になる。
この工程が終われば加工としての処理は終わる。
次は保存としての工程へと移るであろう。
それは燻し終えた腸詰や肉を岩塩が取れる岩塩窟へと保存する工程である。
何せ量が量である。
なんとか腸詰を造りとボイルは終えたが、燻す工程までは進めるとしても後の工程は食後と明日以降へと回す考えである。
そんな膨大な食材加工作業もカリンと2人で行えば多少は早く進んでいる。
矢張りダリル1人と拙くはあってもカリンの手伝いにて2人で行う作業では、差が歴然となる様であった。
(ふぅ。
カリンが手伝わねば、とてもでは無いが燻し作業まで工程を進めなかったな)
そう沁み沁みと鑑みる。
だが作業を優先した影響はあった。
そう、その為に夕食は遅くなってしまったのだ。
致し方ないと言えよう…
無論、急激に胃を拡張されたカリンである。
作業疲れも空腹を増進させる調味料へと。
クルクル、キューキューと主張の激しい腹が鳴る。
勿論、カリンの顔は真っ赤っか。
(もぅっ!
鳴り止んでよぉ~)
困り顔にて俯く。
そんなカリンを見兼ねたダリルが仕方なしに鹿肉を焚き火にて炙り始めた。
破竹材にて造りだした棚には腸詰めと蔦縄に結わえられた鹿肉が吊されている。
その工程を終えたので、今は燻す為の焚き火を焚くだけである。
しかし大量の煙りを穴へと送り出し食材を燻す為、焚く焚き火は1つでは無く複数用意する予定だ。
今は1つ目の焚き火へと火を点けた所であり、これから残りの焚き火の構築に取り掛かる所だったのだが…
(肉を炙る程度は良かろう)
無論これはカリンが食す分のみだ。
塩を塗した鹿肉を洞窟より取り出し蔦縄より外す。
そして適度に削ぎ切りにして残りは再び蔦縄にて縛り穴の中へと戻し吊る。
削ぎ切りに切り出した鹿肉を擦り叩きながら表面へと塗さるた塩を、それぞれの削ぎ肉へと。
その様に処置した肉を枝串へと突き刺し焚き火へと翳す。
炙る肉からは肉汁が浮き出し滴り落ち始めた。
肉が炙られ香ばしい香りが漂い始めるが…
(あれぇ?)
カリンが首を傾げる。
「ほれ」
軽く炙った鹿肉をカリンへと。
焼き過ぎては固くなる。
故に適度に炙って渡した鹿肉をカリンが受け取る。
「有り難ぉ~」
嬉しそうに告げて、早速齧り付くが…
(あれぇ~?)
思ったより美味しく無い。
鹿肉とは言え肉は貴重品であり贅沢品である。
カリンは数度しか鹿肉を食べた事が無い。
その記憶からは御馳走との判断なのだが…
固く獣臭い。
味も単調に感じるのだ。
これならばロアンデトロスの干し肉の方が万倍美味かろう。
そう思い、ハッと気付く。
(そうかぁ~
今迄が贅沢だったんだぁ~)
そう。
ダリルと出会ってから彼が獲た食材にて調理された品々を食して来たカリン。
知らぬ知らぬ内に舌が肥えてしまっていたのだった。




