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狩り人91

パエリアも炊き上がった様で芳醇たる芳香を撒き散らし始める。

欠食童子の如くカリンの目が炊き上がりを待つフライパンへと。

思わず苦笑いを浮かべながらダリルが蓋としていた皿を退ける。

すると、ふんわりと湯気が立ち上り…

更なる放香が辺りを漂い香気を撒き散らす。

「うわぁ~

 良い匂いだよぉぉぉっ」

涎をジュルジュルと。

女の子に有るまじき醜態とも言えよう。

口での訴えよりも、より明確に主張するは腹の虫と言うヤツであろう。

クルクル、キューキューと賑やわす。

しかし料理に魅了されしカリンは、最早空腹により腹の虫が鳴ろうと関せずと言ったところか。

そんなカリンに呆れつつ、パエリアを皿へと盛る。

う~む。

お焦げが実に香ばしい香りをば。

皿へと盛り付けたパエリアの上へソテーした切り身を乗せる。

そして刻み香草を振り掛けて完成へと。

その頃には串刺しした切り身が焚き火前で炙られ脂を滴らせている。

串下の熾火に脂が滴り落ち、ジュワァ~ジュワァァァッと煙を上げている。

その薫煙が切り身へと掛かり串刺し切り身の味を高めている。

その串を取り串の持ち手に草を何重にも巻いて持てる様に。

スープも器へと注ぐ。

準備を終えた料理がカリンの前へと。

「もう食べて良い?

 食べて良いっ?」

懇願するが如く。

困った妹を見るかの様に優しい目でカリンを見やり…

「ああ食べて良いぞ」

そう許可を。

待てと命ぜられていた犬が如く、猛烈な勢いで料理へと挑み始めるカリン。

「こらこら。

 もっと、ゆっくりと食せ。

 消化に悪かろう」

その様に。

「ふほはぁひ」

口をモゴモゴさせ応える。

そんな彼女をダリルが叱る。

「こら。

 口に物を入れた侭で告げるヤツがあるか。

 幾らなんでも行儀が悪過ぎるぞ」

困った子を見る様に。

流石に恥かしかったのであろう。

カリンの顔が見る見る内に真っ赤に変わって行く。

少しは恥じらいが残っていると見える。

しかし…

確かに身を守る為に男装が必要だった事は分かるが、女性としての恥じらいまで捨て去った感じが。

カリン自信が悟ってはいない初恋とはいえ、この侭では成就は危うかろう。

そんなカリンは恥じらいを見せはしたが、直ぐに料理へ意識が奪われてしまう。

正に花より団子状態であろうか。

だが、それも無理は無いのやも知れぬ。

ダリルが獲った魚の身が放つ香りは素晴らしく、食欲を増進して止まない品と言える。

この魚は雑食であり、小魚も食べるがプランクトンや水草に水苔をも食す。

小魚を食べる事で良質な蛋白源を得て身を大きく育てたのだが…

水草や水苔が肉食に有り勝ちな臭みを流し去り、水菓子い香りを身へと纏う事に。

水菓子…つまり果物の様な香りなのだが、スイカと言えば宜しいか?

いやいや、メロンとでも?

口の中で、ふわりと花開き薫るのである。

白身の淡白そうな身はホッコリ、ホロリと砕ける様に柔らかい。

だが決して淡白ではなく、非常に脂が乗っていて旨みが素晴らしい。

それでいて脂々しておらず、サラリと潔く口内より流れ去る。

流れ去るのだが…

その蹂躙するが如く濃厚たる味が過ぎ去った後に口内へ残る余韻が、また素晴らしい。

思わず、陶然としてしまう程なのだが…

そんな事は残された料理が放つ放香が許す筈も無い。

嫌でも料理へと挑まざるを得ない状態へと。

余韻を味わいたいが料理を進めたくもある。

なんとも矛盾、なんと言う葛藤よ。

食す苦悩を味わいて、困惑しつつも至福顔のカリンであった。

そんな至福の時間も、やがては終わりが来るもので…

「あ、ああ、あぁあぁぁぁぁっ。

 無くなっちゃったぁ~」

ジィィィッと料理の無くなった皿と器に串を眺めるカリン。

諦め切れない様に、串をシャブリ始める。

そこまでは許容したダリルであるが…

流石に皿を舐め様とし始めたので。

「こらっ!

 意地汚いにも程がある。

 行儀が悪い。

 止めんかぁっ!」

その様に一喝!!

「うひゃぁいっ!」

大きな怒声に首を竦める。

「だってぇぇぇっ、美味しかったンだもん」

少し拗ねた様に小声で。

そんなカリンより食器を奪う様に取る。

「あ、あああっ!」

名残惜しそうに食器へと手を彷徨わせる。

呆れた様にカリンを見遣った後でダリルは調理具と食器を持って川へと。

それらを洗浄しているとカリンが指を銜えて、その様子を見るのだった。

そんな事はあったが、カリンは鍛練の再開へと。

ダリルは再び蔦を伝って洞窟の外へと。

外へと出たダリルはボアングを穴へと誘導する想定ルートの整備へと戻る。

木の上より確認できた5ルートを全て整備し終える。

その後で蔓草を編んでロープを複数作成。

それを木の枝へと結び穴の途中へと垂らす。

ロープの強度は結構な物で、ダリルが飛び付いても切れる事は無い。

ダリルの作戦は単純な物だ。

ボアングを此処へと誘き寄せ、ダリルは穴へとダイブ。

無論、落下すればダリルの命は無い。

故に幾重にも木より垂らした蔓草のロープへと捕まる事に。

そしてボアングだが、突進するヤツは草に隠れ見えぬ穴が突如現れる事で落ちる事になるであろう。

穴の底である洞窟したには瓦礫を敷いている。

無論、尖っ方を上になる様に配置。

此処へと落下すれば助かるものではあるまい。

準備を終えたダリルは、一度崖下へと。

弓矢を装備して再び崖の上へと上がる。

一度周囲を確認するために木へも続いて登り枝の上へと。

辺りを睥睨して確認。

すると近くに鹿の姿が。

此処ら辺に生える下草に誘われる様に広場へと。

ダリルの存在には気付いてはいない。

(試してみるか)

ダリルはスルスルと木より降りると迂回して鹿の後方へと。

気配を消し風を読みながらの移動は流石だ。

全く鹿に気付かれてはいなかった。


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