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狩り人88

香りに釣られ戻って来たカリンは、涎を垂らさんばかりである。

既に初恋の相手と言うよりは、完全に胃袋を掴まれた感じか?

男女が逆転している様に感じられるのは気のせいであろうか?

食い入らんばかりに料理を見詰めるカリン。

フォークとスプーンを片手づつにつ握り締め「早く、早く」と急かす幼子が如しである。

そんなカリンに苦笑しながら「落ち着け」と諭す。

そして盛り付けた皿と椀、スプーンと串を渡す。

受け取ると、待ち受けていたカリンは直ぐに料理へと挑み始めた。

「うまっ!

 今日も、うまっ!」

もう夢中である。

さもありなん。

この洞窟内は食材の宝庫でもある。

薬効茸や薬効苔は食材として扱われ無いのは、その薬効としての有用性と希少価値において食材とするには勿体ない故だ。

味は美味であり滋養に優れる食材でもある。

茸類は元来味が濃く出汁を得るのにも用いられる程の食材。

それが複数種類にて味を相乗的に高め合い、薬効苔が味を融和させる。

藻と破竹がアクセントを。

穀物らしき実は全ての食材より旨味を吸い取り、芳醇な味わいへと。

鳥の内臓と肉も負けてはいない。

自身の旨味を放ちつつ他の食材から旨味を吸収。

深みがあり諄さの消えた芳醇な(タエ)なる味へと。

そしてスープだ。

具が無いスープは素材の味がダイレクトに味わえるが、雑味が無いスッキリしサッパリとした味わいを。

その潔い味は旨味を主張しつつ口の中の旨さを浚い流す。

すると、少し諄さが残り始めた口内がリセットされ、再度旨味へ新鮮な心持ちにて挑む事が可能に。

昨夜とは違い怒涛たる旨味の嵐へと放り込まれ、旨味と言う暴風と荒波に翻弄されるが如しと。

最早完全に餌付け状態のカリンである。

この料理を食べてしまっては、ダリルへ依存するのも仕方ないのやもしれぬ。

とは言え、正直ダリルの調理技術の賜物ではない。

此処最近に得られた食材の質による影響が高いのであるが…

出会ってから食べさせた料理の質から、カリンに納得させるのは困難であろう。

そんな怒涛の食事を終え、ダリルは調理器具と食器の洗浄へと。

カリン?

食い過ぎにて倒れてます。

まるで陸に上がったトドかセイウチの様だ。

とても少女が行う仕草には見えないであろう。

なまじ美少女である故に…

うん、残念美少女と言った所か。

そんなカリンが腹を抱え寝転がり呻いていると、ダリルが処理を終えて戻って来た。

調理器具と食器を仕舞い、刈り取った破竹にて矢の篦を造り始めている。

薪や小枝より削り出すより遥かに楽に篦を造り出す事が可能だ。

この篦には鏃を付けずに矢羽根だけを付けている。

重さ調整の為か、鏃の代わりに石を取り付けた様だが…

この矢では獲物を狩る事など難しいであろう。

無論ダリルは、そんな事は重々承知の上で造っている。

何やら目的がある様だが…

そんな事をダリルが行っているとカリンが復活する。

ダリルの作業を興味深そうに見ているが…

「丁度河原がある。

 彼方の河原にて行っていた鍛練を始めろ」

淡々と告げる。

それを聞き、カリンが驚く。

「えっ?

 町へ向かわないのっ!?」

そんなカリンへ呆れた様にダリルが…

「あのなぁ。

 上にはボアングが陣取っているんだ。

 今の状態では、とてもでは無いが町へ向かうなど出来んぞ」

そう諭すのだが…

「でもボアングが去る迄、此処に居るの?」

辺りを見回し告げる。

確かに食べ物はある過ごし易いとも言えるやもしれぬ。

だが閉じ込められている事には違いは無い。

その観点から言うと、カリン洞窟より外へと出たい気持ちが強いと言える。

なので出来るだけ早く此処から出たいのが正直な気持ちでもある。

そんなカリンへダリルが困った様に。

「正直言うと、現在は手詰まりだな。

 荷を担いでの移動では、ボアングに遭遇したら逃げられぬ。

 山頂より去っていても安心とは言えぬだろう」

「じゃぁ、どうすんのさ?」

尤もな質問であるが…

自分でも少しは考えて欲しいものである。

そうは告げぬが、流石に呆れた様にカリンを見た後でダリルが告げる。

「今日は、あの上を確認しようと思っている」

ダリルが天井の穴を指差し告げる。

「えっ?

 だってさぁ、まだ猪が居るんでしょ?」

困った様に。

そんなカリンに苦笑したダリルが壁を指差し教える。

「何も出口が1つと言う訳では無い。

 あの蔦を伝えば上へ上がれるだろうさ」

ダリルが指差す方には、確かに蔦が壁を覆い天井に空いた穴の一部へと。

それを伝えば確かに上へと上がれ様が、その高さと勾配を考えると足が竦む思いだ。

途端にカリンが尻込みして…

「無理ぃ~っ!!

 オイラには無理だからねっ!」

力説する。

そんなカリンを呆れた様に見やり告げる。

「誰もカリンに登れとは言っておるまい。

 俺も荷を担いで登るのは、勘弁だからな。

 ただ上の状態によっては脱出の目処が立つやもしれん」

そんな事を。

ダリルの考えが理解できず、カリンがキョトンとダリルを見る。

そんなカリンへ。

「ほら、たったと鍛練して来いっ!」

カリンを追いやるダリルであった。

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