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狩り人86

一瞬、カリンが何を告げたのか理解できなかったダリル。

目を(しばた)き反応できなかったが…

「くっ、くくっ。

 はーははははっ!」

滑稽な夢を真顔で腹立たしそうに告げるカリンに、思わず…

「酷いやぁっ!」

益々拗ねるが…

「済まん、済まん。

 いやぁ~

 飯の支度が、そろそろ終えるタイミングで腹の音が鳴ったら、声を上げて飛び上がるのだからな。

 正直、驚いていたら…

 ぷっ。

 りょ、料理に飛んで逃げ…られ…た…クッ…と?」

飛び起きた時の必死さと、その切羽詰まった顔を思い出し…

「酷いやっ!!」

益々拗ねるカリンであった。

そんなカリンへ。

「いや、本当に済まんって。

 ほら。

 煮えたから食え」

誤魔化す様に、煮えたスープと炒め物をカリンへと。

カリンはダリルをジト目で見ると。

「何時も食べ物で誤魔化されるって思わないでよねっ!」

そう[立腹してます!]っといった風に。

そしてダリルから料理とスプーンに串を受け取り、徐にスープから口へと…

すると。

「へっ?

 ふ、ふまぁ?

 う、ぅ、美味いっ!

 何、これ、何、これぇっ!!

 えっえぇっ!!

 美味過ぎっしょっ!」

最近は少し慣れ始めていたロアンデトロスの肉。

あれは、あれで非常に美味だと言える、

それに間違いは無い。

だが、どの様な美食であろうとだ、続けば舌は慣れ感動は薄れるものだ。

贅沢と言われ様が、人とはその様な存在である。

無論、飽きたなどとは考えた事も無かろう。

それでもだっ!

系統の違う旨味を含む新たな料理。

その新たなる旨味との出会いは新たなる感動へと。

濃厚で深みのある野生味溢るる肉の旨味が凝縮した感のあるロアンデトロスの肉。

淡白では無く肉の脂も、その旨味の立役者だと言えよう。

それに比べ、此方のスープは非常に淡白な味。

いや。

味の深みと濃厚さは負けてはいない。

脂も皆無では無い。

いや。

十分な油脂が含まれてはいる。

なのに非常にアッサリ、スッキリとスルスル口から喉へと。

余りの美味さに、思わずジィィィ~ンッと。

ロアンデトロスもご馳走であった。

それは間違い無い。

だが彼方は無我夢中にてガツガツと貪り喰らう味わいとでも告げれば宜しいか。

それと対比するが如く、此方は静々と食を淡々たる繰り返しにて進める形へと。

ゆっくり、ゆったりと味わい…味の事のみ思い、味に捕らわれ…

そしてスプーンが、それを掬いて口へと。

「ふぉぉぉっ!

 ふほはぁっ!?

 くにゅくにゅ、コリコリ、だ、よっ?」

山椒魚の皮の部分だ。

ゼラチン質の皮は適度に湯がけば、その旨味を引き立たせるであろう。

骨からの出汁もコラーゲンを、ふんだんに含んでおり味わい深い。

そのスープと皮との味が交わい合わさる。

まさにマリアージュとでも言わしめる程にマッチした味と。

骨にへばり付いた肉を骨ごと煮てもいる。

これを骨から刮げる様に食べるのも、また愉しいものだ。

炒めた肉も香ばしく、また違った味わいを醸し出す。

スープも捨て難いが、炒め物も放ってはおけぬ。

別々に食す事は無論ではあるが、炒め物を食べた後にスープを口へて含んでも…

これが…これが、また、味わいが変わるのであるから面白い。

逆も、また然り。

スープを含み、炒め物を口へとねじ込む。

スープを口より零さぬ様に心掛けねばならぬが…

此方は此方の味わいが…

その味に魅了され、静々と、粛々と。

そんなカリンを満足そうに見やりながら、ダリルも存分に味わい尽くすのだった。

そんな食事を終え、満足そうにするカリン。

暫くは食べ過ぎにて動けまい。

いや。

腹が朽ちた事により眠りへと誘われたとみえる。

コクリ、コックリと首が傾き船を漕ぎ始めている。

深い眠りの海へと船出を。

それも仕方有るまい。

朝から重い荷を担いでの登山。

漸くの休みにはボアングに襲われ、更には見知らぬ洞窟の探索へと。

深層へと辿り着けば、ダリルに剥かれて身を暴かれる。

その後は慣れぬ入浴を、更にはダリルが裸身にて近場にて入浴だ。

鍛練疲れと緊張に継ぐ緊張にて肉体も精神も疲れ果てていた。

(焚き火前ならば構うまい)

その様に考えたダリルは、カリンをその侭に。

食器を回収した後で毛布を掛ける。

その後で食器や調理器具を川で洗い、次には武具の手入れへと。

そんな事を行いながら考える。

(晶武器があれば、事は容易いのだが…)

無い物は仕方ない。

ダリル1人ならば村へと立ち返り、晶武器を村長より借り受けて戻る事だろう。

運べぬ荷は此処へ隠匿しておけば良い。

討伐したボアングを村へ卸す事を約定にするならば、晶武器を借り受ける自信はある。

だが問題はカリンだ。

ダリルと共に行く事は不可能であろう。

少女であるカリンを放置して村へ向かうのは(はばか)れる。

さすれば、村へと戻る手は使えまい。

そうなると、別の手を考えねばならぬ。

己が腕ではボアングに立ち行く事は能わず。

なれば罠か…

罠と言っても…

そう、禄な機材も手元には無いのである。

手造りなどでは時が掛かり過ぎる。

迂遠と言えよう。

何か手は無いのか…

悩みは深い。

そんなダリルが、ふと天井を仰ぎ見る。

そこには洞窟に空いた穴が。

壁沿いには穴まで蔓草が伝っている。

思った以上に頑丈そうだが…

(明日にでも確認してみるか)

何かを思い付いた様だ。

その成果に思いを馳せながら、ダリルも半覚醒ながら眠りへと。

さて、何を思い付いたのであろうか?

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