狩り人85
ダリルは衣服を纏った侭で川へと。
岸部にて鎧を外し川岸の岩場の上へ。
此方は金属も含む為、後で整備が必要であろう。
剣も外し岩へと立て掛ける。
ナイフだけは持ち濡らさぬ様に気を付けながらの移動を。
川の中腹にてナイフを川から迫り出した岩へと。
続いて衣服を脱ぎ去る。
下穿きも取ると石鹸して下穿きと衣服を洗い清める。
ある程度にて納得した様にナイフを置いた岩へと広げて置いた後、今度は自分の身を清め始める。
石鹸にて布を泡立たせ身を擦る。
この際に岩場へと登り、そこで清めている。
衣服も半身を川へと浸けながら此処で洗ったため、洗った石鹸が流し切れずに少し残っている。
その為、多少滑るので留意が必要となっていた。
まぁバランス感覚に優れたダリルは物ともせず身を清めていたが…
暫くは濡れ布にて拭うだけの生活だったため、一度では汚れが落ちなかった様である。
故に何度か身を清めては川へと浸かり汚れを流す。
そんな事を繰り返していると…
「むっ?」
ダリルが何かに反応。
川には魚の気配もあり、水棲生物が住まう環境である事は察知していた。
だが温度の高い場所には生息しておらず、ダリルが身を清める周辺には気配は無かった。
だが下流には存在する様で、後で確認が必要と思っていたのだが…
「今のは…
あれか?」
ダリルはロアンデトロスの骨より削り出した小さな銛を掴む。
小さなと言ってもダリルの肘から先以上の長さはあるが…
剣の鞘に添える様に数本ほどを括り付けて持ち運んでいた1つだ。
川へと浸る前に取り外し、護身用に身近へと保持していた。
それを携え下流へと足を運ぶ。
やがて、その姿が目視可能に。
「矢張りか。
コイツがなぁ~」
何やら満足そうに。
そして徐に銛を何かに突き刺し仕留める。
愚鈍に見える姿に見合わぬ程に暴れはしたが、やがて静かに。
そして持ち上げた銛には何やら突き刺され息絶えた代物が…
大山椒魚。
その姿はグロテスクと言っても良い姿である。
知らぬ者ならば絶対に食材として扱わぬ代物だ。
だが…
その身はスッポンとフグを併せたかの如き味である。
その身を裂いた際には山椒の如き香りが、ぷうんと薫り名を体現するが如しとか。
捕らえるのは容易い割には美味いのだとか。
ダリルも以前に何時か食しており、好物の1つとなっている。
川の流水にて洗いつつ血抜きした血を流す。
川砂を塗し滑りを拭い解体を。
それを銛へと突き刺すと、熱湯が吹き出す場所へと突き出し身を晒す。
軽く霜降り状態へと。
その状態に処理した身を岩へと乗せ、程良い湯加減の場所へと移動。
湯へと身を浸け身体を弛緩させる。
「ふぅ」
思わず声が。
サラサラと揺蕩う水面に身を任せ、流れ去る水に疲れを乗せ剥がすか如しである。
身を愉楽に任せ湯を楽しむが、少々茹だり始める。
さすれば位置を湯が温き場所へと。
身が冷め暖が欲しく感じたならば、再び暖かい場所に。
時には熱き場所や冷たき場所にも。
存分に湯を楽しむダリル。
完全に湯処を満喫している。
存分に湯を楽しんだ後に岸へと。
衣服や下穿きを纏めて岸へ運んだ後で、大山椒魚の肉も運ぶ。
そして毛布にて身を包むと荷を持って焚き火の側へと。
焚き火は消え掛け、辺りは少々肌寒くなって来ている。
温泉が熱源となり外よりは暖かいが、天井に空いた穴から冷気が降りて来ているとみえる。
此処数日過ごした河原より標高が高い山の上だ。
小高い程度とは言え気温は下より下がるとみえる。
焚き火の火を絶やすのは拙かろう。
ダリルは焚き火へと薪を焼べ、火勢を取り戻させる。
パチパチと爆ぜる薪の音。
なかなかに風情がある。
そんな音を聞きながら、ダリルは衣服や下穿きを乾かす。
そして調理へと。
大山椒魚の尾は脂の塊と言って良かろう。
この脂を鍋へと。
熾火を使った釜へと鍋を掛け、肉を軽く炒める。
これへ香草や野菜、塩などの調味料を。
炒め終えた品は皿へ。
続いて水筒より鍋へ水を惜しげ無く注ぐ。
炒めた具材より出た旨味と灰汁が浮き出す。
その灰汁を掬い棄て、山椒魚の身と皮を一口大に切って投入。
暫くは山椒魚だけで煮立たせる。
灰汁を掬い野菜を加える。
煮過ぎて硬くならない様、たまに火から鍋を退けながらの調整を。
やがて腹の虫を刺激する薫りにてカリンの鼻を擽り始める。
ダリルが湯に浸かり戻らぬ故に待ちきれず眠りへと誘われたカリン。
深き眠りより薫りにて釣り上げられたとみえる。
「う、う~ん…」
唸りながら…
「うわぁ~ん!
オイラのだよぉ~
待ってよぉ~」
ガバッと飛び起きる。
「あ、あれぇ?」
寝ぼけ顔で辺りをキョロキョロと。
何の夢を見ていたのやら…
「良く眠れたか?」
優しく告げるダリル。
既に衣服は着用済みである。
別にダリルは見られても構わぬが…
恐らくはカリンが拒絶するのではとの判断だ。
ま、殆ど乾いてから着用したので問題は無かったが…
ダリルに声を掛けられたカリンは…
「ア、アレェっ?
オイラの料理はぁ?」
キョトキョトと。
まだ夢と現実を混同しているとみえる。
「まだ寝ぼけているのか?」
呆れた様に。
「あ、あれぇっ…
ゆ、夢…夢だったんだぁ~」
残念そうな、良かった様な…
困ったダリルが尋ねる。
「どんな夢を見たのだ?」
そう尋ねられ。
「ご馳走を食べようと思ったら、急に宙に浮かんで飛び始めさぁ~
オイラから逃げ始めるんだよぉ~
酷いよねっ!」
プンっと拗ねるカリンであった。




