狩り人82
少々慌てて川から岸へと向かうダリル。
動揺しているのだろう。
途中にて川底の石にて足を滑らせる。
彼が、この様な醜態を見せるなど珍しい事だ。
余りの慌て振りに…
「クスッ」っと。
それにてカリンには多少の余裕が生まれた様だ。
無論、羞恥と動揺が去った訳では無い。
無いが、頭を働かせる余裕は生まれた。
そして思ったこと。
(ダリル兄ィにバレちゃったよぉう。
ど、どうしよう…
もう相手にされないかも…)
放心状態からダリルが見せた普段見せないギャップに笑いホッコリ。
そこから急にネガティブへと。
非常に目まぐるしい。
複雑な乙女心という所か。
カリンが女の子である事を告げ無かった事も悪いと言えば悪いとも言える。
だがダリルが強引に 脱がすという暴挙に出た方が本来は問題だ。
無論、女性が相手であったならばダリルも行わなかったであろう。
だが男ばかりのムサい猟師衆の中で育ったダリルである。
男同士にて裸の付き合いなどは当然。
その様に育って来た彼が男と思って弟分として鍛え始めたカリンと親しみを増す意味もあり、共に風呂を。
その様に考えても仕方有るまい。
まぁ、不幸な事故と言うヤツだ。
そう思うべきであろう…か?
そんなカリンには気付かず、ダリルは薪を集めて放置していたランプより火種を得て焚き火を。
だが、体を拭う布程度しか手元には無い事に気が付く。
カリンが男ならば気にもしなかったが、身を清め終えて川から上がった後に裸は拙い事に気が付いた。
とは言え、手元には無い。
洞窟の入り口へ放置した侭である。
(参ったな)
そう思いカリンへと告げる。
「荷を取りに行って来るからな」
カリンの方を見ずに告げる。
ダリルの声が聞こえ、慌ててダリルの方を見るカリン。
今の今迄、ネガティブ思考にて捕らわれ、頭の中にてグルグルと思考ループに捕らわれていたのだが…
ハッと気付いてダリルを見ると、焚き火を既に用意し移動を始めている。
「ちょっ!」
慌てるが…
服を纏って追い掛ける程の余裕は無い。
「もぅ、ダリル兄ィはぁ…」
身勝手に動いて放置して行く様に感じられ、少々ご立腹。
だが直ぐに、置いて行かれる不安と寂しさに。
うむ。
女心は、なかなかに複雑な様である。
だがダリルの姿が消え、ホッとしたのも事実。
気を取り直し服を洗い、身を清めるカリンであった。
一方ダリルだが…
一度通った道である。
迷う事も無く洞窟の入り口へと至る。
そこにて荷を纏め背負い、カリンの荷も抱え持つ。
安全な場所は、それにて進む。
不安定な箇所を通過する場合は荷を地へと下ろし、小分けにして運ぶ事を繰り返す。
少々手間が掛かり時間を食う移動となった。
だが地形を既に把握し危険も無い。
その状態の移動である為、安心して移動を行った。
まぁ…
ダリルが荷を回収に向かったのは、カリンが入浴を終えた際に対処する為であったのだが…
余りに長い放置にカリンは川から上がり、焚き火にて服を乾かす。
ダリルが何時帰って来るかとビクビクしながらの作業に。
川の中へと沸き立つ温泉は複数箇所より湧いており、泉質も温度もマチマチであった。
無論、川の水は冷たく水浴びには厳しいであろう。
それが温泉と混じり合い、程良い温度へと。
場所を移動する事により、適温を探し移動できる所も良い。
長い時を湯に浸かり過ごすには適した環境と言えるであろう。
そんな川へ浸るのも限界と言うものが。
元々この世界には湯に浸かる文化は無い。
カリンにとっては始めての体験と言える。
そんな彼女にとっては、長時間湯に浸かる事は出来なかった様だ。
身を清め服を洗うと、ダリルの姿が無い今がチャンスと焚き火へと。
肌着を纏い焚き火へ当たり服と肌着を乾かす。
髪と肌は布にて拭ってある。
この布も身に着けていた品だ。
故に共に泥だらけとなってはいた。
だが洗って絞り、拭いては絞って使う。
この布にて身に付着した水分を除去。
今は服と共に焚き火にて乾かしている。
まぁ…
ある程度乾くと、下着の水分除去へと。
なかなか乾く物ではなかったが…
そんな彼女の衣服が下着を含み乾き、身仕度が整って暫く後、漸くダリルが戻って来た。
まぁ漸くと言っても、2人分の荷物を1人で運んで来たのだ。
しかも足場は、決して良いとは言えぬ。
その様な状況下にて暗い洞窟を苦労して来た彼を責める訳にもいかぬであろう。
まぁダリルとしたら、既に川から上がったカリンを見て脱力する思いであったが…
荷を運び終えたダリルがカリンへと告げる。
「先程は申し訳なかった」
深々と頭を下げる。
土下座と言う風習は、この世界には無い。
だが、もし有れば土下座せんばかりである。
「も、もう良いよ。
オイラが女って教えて無かったのも悪いんだしさぁ」
そんな事を。
だが…
「いや、しかしだな。
無理やり服を脱がしたのは遣り過ぎだった。
本当に済まん!」
余りにも必死に謝るダリルに、思わずクスリと。
「もう良いよ。
ホント。
まぁ、無理やり服を脱がされたのにはビックリしたけどさ。
もうしないでね」
告げられ…
「無論だ。
弟達に水浴びさせる時と同じ様に扱ってしまったが…
もう2度とせぬ。
天地神妙へと誓おう」
それを聞きカリンが可笑しそうに。
「ダリル兄ィ、大袈裟なんだからぁ~」
そう笑う。
ダリルにとっては、笑い事では無かったのだが…
何とかカリンと無事に和解できた様である。




