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狩り人77

食休みを終え出立へと。

カリンは途中から崖際を彷徨いている。

小高い山とはいえ山である。

絶景ポイントは断崖絶壁の崖上。

落ちでもしたら一溜まりもあるまい。

好奇心に駆られて彷徨くカリンが危なっかしい。

思わずダリルが諫める。

「おい、カリン。

 余り崖際に近寄るなよ。

 危ないぞ」

その様に。

整備された足場では無い。

何かが原因となり足場が崩れたら滑落する事も。

自然は人の油断に対し許容などしないものだ。

突如として牙を剥くことも有り得るのだから…

そんなダリルの心配を余所に、カリンは四つん這いとなり崖下を覗き込んでいる。

落ちたら助からぬ高低差によるスリルでも味わっているのだろうか?

(仕方のないヤツだ)

困った様にカリンを見やり告げる。

「そろそろ行くぞ」

それを聞きカリンが応じる。

「うん、分かったよ。

 でも、此処って凄いよね」

そんな事を。

「崖下が、そんなに面白いのか?」

ふと不思議に思い尋ねる。

「う~ん。

 景色もだけどさ。

 降りれそうな場所が在るんだよ。

 それが何処へ繋がっているのか気になっちゃって」

えへへへへっと。

「ほおぅ」

興味を引かれたダリルが、一旦、荷を降ろして崖際へと。

カリンが覗き込んでいた箇所を確認する。

すると、飛び降りたら降りれそう高さに棚が。

(ほぅ)

興味を惹かれたダリル。

「少し見てみるか」

急ぐ旅でもない。

少し位の寄り道も許容範囲内である。

その様に判断したダリルは眼下の棚へと。

「えっ!?」

驚くカリン。

流石にダリルが、その様な行動をとるとは思わなかったのだ。

無論、棚へと跳び降りた訳では無い。

崖を伝って棚へと降り立ったのである。

跳び降りた場合、脆い棚なら支えきれずに滑落するやもしれぬ。

そう考えたならば、無謀な試みへと踏み込めまい。

降り立った棚は結構な広さがある。

調べた限りでは十分な強度を保っている。

(ふむ。

 これなら跳び降りても大丈夫そうだな)

その様に感じるが、カリンが降りたら上がれ無いと判断。

彼を下ろす事は止めた方が良いであろう。

「おい、カリン」

「んっ?

 なぁ~にぃ?」

「少し先を見て来る。

 直ぐに戻るから待ってろ。

 それと降りるなよ。

 恐らく降りたら上がれんからな」

その様に。

「ちょっ!?

 ダリル兄ィ!」

告げるだけ告げて移動するダリル。

「行っちゃったよ。

 チェッ、つまんないのっ」

不満なカリン。

此処からは先が死角となり伺えない。

道とは言えぬが十分に移動可能な出っ張りが続いている。

こう言うシチュエーションに興味を唆られるもの。

なのに1人にて留守番である。

不満に思っても仕方あるまい。

そんなカリンを置いてダリルは先へと進む。

意外と足場はシッカリとしている様である。

行き着いた先は途切れており進めば滑落の危険も。

だが、そこへと行き着く前に、崖へ穴が穿たれていた。

(こんな所に洞窟か)

興味は引かれるが、流石に探索は断念する。

カンテラの用意もあるにはある。

だが未知の洞穴を不用意に進めば、どの様なトラブルに見舞われるか分かったものでは無い。

故に引き返そうと…

「ダ、ダリル兄ィィィィッ!?」

その時、カリンの悲鳴がっ!?

シマったっ!

山頂部が開けた場所であっても、決して安全な場所と言う訳では無い。

そこへカリン1人を残しての探索行。

迂闊と言えば迂闊と言えよう。

だがダリルとて若い。

16歳の少年なのだ。

判断ミスを犯す事もあるであろう。

慌ててダリルが戻ると、カリンがダリルと自分の荷を抱えて座り込んでいた。

どうやら崖上より飛び降りた様だ。

幸い怪我は無い様だが、無茶をしたものだ。

だが…

「むっ!」

崖上を見やり納得する。

【ブゴォ。

 プグフォ~

 グゴッ】

巨大猪が、興奮した様に崖下である此方を覗き込んでいた。

ボアング。

猪の亜種とでも言えば良かろうか。

その体は巨大。

犀や河馬の成体と同等…いや超えるか。

そう比較すれば、どれほど巨体か解ろうと言うもの。

しかも、その体皮は厚く堅い。

体皮を覆う剛毛も頑強であるが靭やかでもある。

その体毛がクッションとなり衝撃を和らげるのだとか。

更に皮下脂肪も厚く、ヤツの身を守るのだ。

その膂力たるや重機が如し。

その突進力は凄まじい。

巨木を押し倒す程と。

師ゼパイルより聞いた話である。

無論、ダリルは初めての遭遇となる。

南方の地に多く生息するが、稀に此方にも出没するらしい。

とんだ当たりくじである。

(拙いな)

内心にて苦慮するダリル。

まず、彼の持つ武器ではヤツにダメージを与えられぬ。

師達より贈られた槍と剣は、それなりに良い品と言えよう。

駆け出しハンターが持つとしたら過ぎた品とも。

だが所詮は鉄素材の武器である。

ボアングクラスともなれば役不足は否めない。

更に上のランク金属なりで造られた武器でないと戦えぬであろう。

または、戦えるだけの技量を備えるかだが…

(師匠ならば…)

そう、ゼパイルならば鉄製武器でも戦えたであろう。

だがダリルは、まだまだゼパイルが達した高見へとは達してはいないのである。

(これは崖上へと戻るのは無理か…)

ボアングの性質は粘着性。

なかなか諦めてはくれまい。

上へ荷とカリンを上げるのも容易くは無い。

だが、吹きっ曝しの此処へと留まり続けるのも得策とは。

故に風除けも兼ねて 、先程見付た洞穴へと赴く事にするのだった。

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