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狩り人75

河原を離れ森へと進む。

北の地の春は遅い。

だが流石に、この時期ともなれば春真っ盛り。

川の水は雪解け水が流れ込む事もあり、流石にこの季節でも冷たい。

だが清々しい春風は新緑の萌える様な薫りをも運ぶ。

これが近隣での散歩であるならば最高のシチュエーションと言えるであろう。

だが現実には、これは町へと向かう移動であり…カリンにとっては修行である。

持てるギリギリの重さとなった背嚢の肩紐が肩へと食い込む。

その重量に、へこたれそうになる。

歩くペースが上がれば、そうなるであろう。

だが…ギリギリ、そう絶妙な速度を保ち歩く。

いや、ダリルの先導の元にて歩かされる。

この草花の芽吹き息吐くよいな爽やかなる空気に浸りながら、それを感じる余裕も無く唯歩く。

まさに修行と言う名の苦行である。

そんな強行軍とも言う歩みも、偶に止まる。

それは野菜や木の実、果物などを見付けた時などだ。

カリンの知らぬ薬草や茸などの採取も行われる。

その際には素材の特徴や注意事項などをダリルがレクチャー。

カリンにとり有意義である時間となる。

特に休憩と言う意味で。

その休憩にて採取した木の実などを口に。

特にカリンへと食べさせる。

流石に河原での食事の様にはいかぬ。

歩きながらの調理などは不可能だからだ。

だが、この時期には食べられる木の実などの種類は多い。

それらは小粒でもあり、採取に手間も掛からない。

時期的に良く見掛ける品でもある為、見付けては採取してカリンへと。

ダリル的には、ゆるりと景色を愛でつつの移動。

確かに大量の荷は重い。

全く気にならぬかと問われれば、否と答えはしよう。

だがダリルにとっては日常的な事とも言える。

担ぐのが困難な品を引き摺り、背にも背負っての移動などは珍しくも無い。

拠点が在り、それが使用した場合は荷を拠点へと保管し、数度に分けて運んだりも。

無論、分けて運ぶとは言え荷を軽くはしない。

成る可く早く運ばねば荷の鮮度は落ち劣化するだろう。

そうなれば当然値も下がると言うもの。

なれば急ぎ運ばねばならぬ事に。

そうなれば一度に運ぶ場合より、遥かにキツい移動となる。

時には人を雇い運ぶ事も。

さすれば当然ながら費えが。

余分な出費が嵩めば当然実入りも減る事となろう。

それを鑑みれば、人を雇うのは得策とは言えぬ。

雇い入れた者は賃金に対し最低しか働かぬ。

無論、持ち荷を増やす様な強要などは出来る筈もない。

故に雇われた者より雇った者の方が大量の荷を持つ事に。

ジレンマではあるが、トラックの過積載を雇い主が行い、雇い入れたトラックには適正な荷を。

そう考えれば此方の者にも分かろうと言うもの。

そんな荷運びに慣れたダリルである。

この程度の荷運びにての移動などピクニックと変わらぬ。

故に存分に景色を楽しみ、採取可能な素材を確認しつつ余裕綽々と歩みを進める。

まぁ、カリンの状態を確認しながらであるが。

何とも疲れ方の差が激しいコンビであろうか。

そんな2人は小高い山を2つ越え、幾分か急な山道へと。

流石にキツい坂道にへこたれそうになるカリン。

そんな彼を宥め賺しながら、何とか山頂へと。

そこは開けた空き地になっていた。

(ほぅ。

 これは、ちょうど良いか)

その様に。

時刻は昼前。

昼は歩きながら干し肉を(シガ)むつもりであったが、辺りからは薪の調達も可能と思われる。

広さも十分。

水場は流石に無いが、炒め物ならば可能であろう。

消火手段としては砂を掛け埋めればと。

その様に判断したダリルが、当初の予定を変えて告げる。

「山頂に、この様な場所があるとはな」

疲れ俯き歩いていたカリン。

開けた山頂の景色には気付いて無かったとみえる。

そんなカリンがダリルの言葉にて顔を上げると…

「わぁ~

 凄いやぁ~」

感嘆の声が口より漏れる。

開けた場所は、そう広い訳では無い。

無いが…そこから見渡せる景色が素晴らしい。

高台からの見晴らしは、まさに絶景と言えよう。

疲れが吹き飛ぶ様な気分に。

そんなカリンを生暖かく見詰めた後で。

「崖付近ならば、火を焚いても大丈夫だろう。

 昼は歩きながら干し肉を食べるつもりだったが…

 此処で休みがてら調理しての昼食とするか」

そう提案を。

提示された案に、いきなり告げられた事もあって、最初は反応できなかったカリン。

内容を理解したカリンが…

パァァァっと笑顔に。

相当嬉しかった模様。

逆に言えば行軍とも言える移動が、それだけ辛かった裏返しとも言えるのだが…

「ダリル兄ィ!

 何処、何処で休むのっ!」

急に元気となった様である。

全く現金なものだ。

ダリルも苦笑しながら移動し、適度な場所にて荷を降ろす。

カリンも荷を降ろすが、降ろした瞬間にヘバったみたいに寝転がる。

(仕方ないヤツだな)

その様に思いつつ、大の字に寝転がるカリンを放置。

薪を集めに向かう。

昼食用を調理する量の薪があれば良い。

火口箱には火種も残っている。

発火し易い枯れ葉なども合わせて確保し戻ると…

息をゼェゼェと荒げていたカリンは落ち着いたのか、革水筒から直飲みにて水を煽っていた。

辺りに水を確保可能な場所は無い。

「ほどほどにな」

そう一言。

「うん。

 分かってるよ」

そう返し、名残惜しそうに水筒より口を離す。

そんなカリンに苦笑しつつ、火を焚き始めるのだった。

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