狩り人73
翌朝。
カリンが目覚める前に起き上がったダリル。
川岸にて身を清め、その後で鍛練を始める。
日が明けきらぬ薄暗い中、剣と槍の型稽古を。
一通り熟すと汗を拭い朝食の支度へと。
だが、その前に食材の確保だ。
川へと分け入りるダリルの手には巨大な石が。
それを勢い良く川中から頭を出している岩へと叩き付ける。
ガィィィン。
金属質な音を響かせる岩。
鉱石分が高かったのだろうか?
その発せられた音と衝撃が水中へと伝わる。
岩下には身を隠す様に岩へと身を寄せていた魚達が。
身を休めていた己を守る守護者たる岩から、突如放たれた凶悪な衝撃波。
身を貫くソレにて意識を持って行かれる。
そうして気を失った魚達がプカプカと水面へと。
そう、ガチンコ漁…石打漁法である。
此方の世界では禁止されている漁法ではあるが、ダリル達の世界では関係ない。
原始的な漁法ではあるが、有用な漁法には間違いないのだ。
ダリルは浮かんだ魚を捕まえ川岸へと。
食べられる水草も回収。
沢蟹や川海老も得る事が出来た様だ。
魚へ薪から削り出した串を打つ。
それを焚き火近くへと刺し炙り焼きへ。
沢蟹と川海老は炒めた後で水を張った鍋へと。
炙ったロアンデトロスの骨を砕き、コレも鍋へと。
此方は晩用のスープ作りだと言うのだから恐れ入る。
焼いた魚の内の何匹かをスープへと解し入れてもいる。
そんな事をしていると、魚が焼ける匂いとスープの香りに誘われる様にカリンが目を覚ました。
「ふぁ~あっ。
ダリル兄ィ…おあよ」
寝ぼけ眼にて頭をボリボリと掻きながら身を起こす。
低血圧気味なのだろう。
ぼぉ~っとして動き出す気配は無い。
そんなカリンへ。
「ほら、シャンとしろ、シャンと。
川で顔を洗って来い。
朝飯にするぞっ!」
告げられたカリンは朝飯の言葉にピクリと反応。
のそのそと起きて歩き出す。
川にて冷たい水を浴び…
「冷たっ!
これ、冷たぁっ!!」
飛び上がっていた。
どうやら目は覚めた様である。
朝食は焼き魚のみと。
肉続きの後での焼き魚。
塩の実を擦り潰し塗した魚は香ばしく焼けていた。
程良い塩気が魚の淡白な身を引き立てる。
それに塩の実は岩塩とは違い、純粋な塩では無い。
実自体にも味があり、それが食材の味を引き立てるのだ。
得るのが大変ではあるが、料理の味に深みを持たせる食材として人気な逸品。
料理人達垂涎の品とも言えるが…
先日に大量に採取したダリルは、惜しげも無く使っている。
っと言うのもだ。
塩の実を見付けた時には、これを換金メインと考えていた。
だが現在、ロアンデトロス素材に香木が荷として追加。
逆に塩の実が荷物を圧迫している感が。
少しでも荷物へ余裕を生む為にも、ガンガン塩の実を投入している。
それも種をも擦り潰し使用。
此方の味は淡白。
故に調理に使用される事は稀である。
だが余り知られて無い事だが、食欲増進とスタミナ回復促進と増進など。
劇的では無いが効能が認められている。
とは言え1つの塩の実から得られる効能などは無いに等しい。
だが複数の塩の実を使用した場合は別だ。
これはカリンの修行には、劇的な効果を齎す事であろう。
その様な使い方をしていると料理人達が知ったら卒倒しかねないが…
とは言ってもダリルは、その効能を狙って行った訳では無い。
料理人達は塩気を薄め無い為にも種を除くのだが…
この作業が実に面倒臭い。
故に、その手間を惜しんだに過ぎない。
怪我の功名とでも言うヤツであろうか。
朝食ではカリンが実に実に嬉しそう。
「にゃぁ~っ!
なんで、何で唯の焼き魚が、こんなに美味いのさっ!
脂が乗った身がホックリホロホロってさぁ。
魚の旨味がダイレクトなんだよなぁ~
脂…身もかな?
仄かに甘いよっ?
素材の甘さなのかな????
単に焼いただけで、こんなに美味しくしちゃうなんてさぁ。
ダリル兄ィ、天才じゃん!
ハンターじゃ無くて料理人目指した方が良くない?」
テンション、アゲアゲである。
そんなカリンへダリルが苦笑して告げる。
「いや、俺の腕では無いな」
「またまたぁ~」
そんなカリンへ困った様に。
「食材が良かっただけだ」
素っ気なく。
「そんな筈ないよ。
オイラも魚を焼く事はあるもん。
でも、こんなに美味しく焼けた事なんて無いからねっ!」
自慢気に。
いや、自慢する事か?
「ふっ」
「あっ、笑われたぁっ!!」
カリンがムクレる。
「いやな。
流石に唯焼いただけでは無い。
塩の実を擦り潰して塗してあるからな」
告げると、カリンが固まる。
しげしげと焼き魚を見詰め…
「オイラ達さぁ…
昨日から贅沢して無い?」
呟く様に。
「気にするな」
ダリルが理由を説明。
カリンを納得させつつ朝食を終える。
その後はカリンには薪集めと野菜などの食材集めを頼む。
ダリルは再び燻製作業の再開である。
カリンは戻ると修行へと。
食べて鍛えて食べての繰り返し。
無論、夕食には煮込んだスープが。
沢蟹と川海老、ロアンデトロスの焼き骨から濃厚たる出汁が。
ダリルが採取していた根菜類やカリンが採取して来た野菜や香草類も旨味を促進。
無論、燻製肉が旨味を増幅させたのは言うまでもあるまい。
昨夜と同じくマッサージされつつ寝落ちたカリン。
ダリルは移動の準備だ。
明日は此処を発ち、町を目指す事になるであろう。
置いて行く骨や香木を河原へと埋める。
石を除き地を穿つ。
ある程度を掘り下げてから素材を投入。
上から土と石を。
そしてケルンが如く石を積み上げる。
別に登山道標では無いが目印にはなるであろう。
そして辺りから花を摘み飾る。
墓標か?
いや、そのカモフラージュは如何かと。
作業を終え、ロアンデトロスの革にて荷を包み持てる様に。
明日の準備を終えたダリルが横になったのは深夜である。
明日、移動だが…
なんともタフな男であった。




