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狩り人72

自分の限界を超える程に食したカリン。

お腹ボッコリである。

まるで妊婦だ。

男性だから良いが、女性だったら異性には見せられぬ姿であろう。

食べ過ぎで苦しそうに「う~、う~」唸っている。

そんなカリンを苦笑いしながら見ているダリルだが…

実は彼も食べ過ぎ気味である。

(流石は食材が違うだけある。

 俺の技量で、この味か…

 しかも限られた調味料でだ。

 王侯貴族のお抱え料理人達が、こぞって買い浚うとは噂にて聞いていたが…

 この味を知っては、普段の飯に満足できなくなるやもな)

その様な懸念を。

なんとも贅沢な悩みである。

寝転がり身動き不能にて唸るだけだったカリンだが、漸く口が利ける程には回復した様で。

「美味しかった…

 美味しかったよぉ~」

うん。

口は利けても、口より漏れる言葉は呟きのみ。

満腹の満足感を超える食べ過ぎによる苦しみよりも、食べたら料理の美味たる余韻に酔いしれる方が上とみえる。

まるで中毒者の様相を見せている。

ハッキリ言ってヤバいレベルとも。

そんな彼が落ち着き、漸くマトモに言葉を発する。

その言葉だが…

「ダリル兄ィ。

 猟師ってさぁ…

 何時も、こんなに美味い物を喰ってんだねぇ~」

夢現とも見える感じにて告げる。

流石にダリルは呆れ当惑し…矢張り苦笑い。

そして諭すが如く。

「そんな訳があるまい。

 本来は生活の糧たる納品物だ。

 内臓などの傷む部位は腐る故に食すが、他の部位が口に入る事など先ず有り得ないからな」

「そうなんだぁ~」

ガッカリした様に。

「俺もロアンデトロスを狩ったのは初めてだ。

 此処ら辺は、俺が住んで居た村の領域外でな。

 猟師はハンターと違い、属する領土内での狩りしか行え無いのだ。

 此方の領土でも、もう少し南方へ向かえば夏期に限りロアンデトロスが現れると聞く。

 だが夏期でも此処ら辺に現れるとは聞いた事が無かったのだが…

 ロアンデトロスは寒さに弱くてな。

 本来、この時期の夜間の寒さに耐えられぬ筈なのだが…

 故に俺も話には聞いたが狩ったのも食ったのも初めてでな」

そう告げ、肩を竦める。

「初めての食材なのに食べたのぉっ!」

カリンが驚いて跳ね起きる。

正体が解らぬ品を食べさせられたのかと、驚いたみたいだ。

そんな彼に苦笑しつつ教える。

「初めてだが、食材としての素性は知れているからな」

「えっ、どう言う事?」

キョトンと。

「このロアンデトロスの肉は、此処ら辺では高級食材として有名でな。

 王侯貴族が食する品と聞いているな。

 庶民レベルなら豪商辺りならば食せるか…

 まぁ、一般的な庶民レベルの者がお目に掛かる事の無い食材だな」

気楽に告げるが…

聞いた途端に、ピキッと固まるカリン。

ギギギギギギィ~っと首をダリルの方へと。

「マジで?」

恐る恐る。

それにダリルが頷き。

「ああ、そうだな。

 本来は俺達の口に入る様な代物では無い」

平然と告げる。

唖然とダリルを見た後、掠れ震える声にて。

「そ、そん、なの…

 オイラ達が食べちゃって良いの?」

戸惑うカリンへ苦笑しつつ言う。

「俺が狩ったんだ。

 俺達が食って悪い謂われは無かろう。

 それにだ。

 町まで持ち運べる量には限りがある。

 隠したとしても獣や虫に漁られるのが関の山だろうさ。

 ならば持てない物は極力食すべきだろう。

 それにな、カリン」

「えっ?」

「おまえは食し体力を付けるのも修行だ。

 こんなに豊富な食材を手元に確保できるなど稀と言えよう。

 そう考えるならば、この機会に食って体力を付けろ。

 滅多に無い機会なんだからな」

その様に。

カリンはダリルが妙に食べさせるとは思ってはいた。

だが自分の事を、ここまで考えての事だとは思っていなかった。

何気に感動している様である。

「うん…うん!

 分かったよ、ダリル兄ィっ!

 オイラ、オイラぁっ、頑張るよぉ~」

改めて気合いが入った様である。

そんなカリンへダリルが困った様に。

「張り切るのは構わんが…

 夜間の鍛練は禁止だ。

 闇夜で獣に襲われては敵わん。

 それに足元も見え難いからな」

困った様に告げられ、遣る気が空回り状態に。

それも仕方あるまい。

焚き火近くで行うとしても、辺りは影になれば目視が難しい程の闇なのだ。

闇夜に紛れて忍び寄る獣の対処は厳しい物がある。

焚き火近くで目視可能な場所ならば、カリンを守れるだろう。

だが、目視が厳しい場所では危ういやもしれぬ。

それもあり、夜間の鍛練を禁じたのだ。

その後、ダリルがカリンへ告げる。

「さて。

 筋肉を酷使した故、マッサージをするか」

その様な事を。

「ダリル兄ィ。

 そんなに筋肉を酷使したの?」

不思議そうに尋ねるカリン。

「何を言っている。

 おまえのマッサージに決まってるだろ」

当たり前の様に。

それを聞きカリンがワタワタと慌てる。

「えっ!

 良いよっ、悪いしぃ」

何とか断ろうと。

すると。

「放置すれば、明日は筋肉痛で動けなくなるぞ」

そう断言。

渋々とマッサージを受ける事に。

足や腕、肩や腿に腰、背中まで。

筋肉を解す様に丁寧にマッサージを。

ダリルも修行時代、ゼパイルに行って貰っていた事だ。

行うのと遣らぬとの差は嫌と言う程に知っている。

そんなマッサージを受けているカリンは、知らず知らずの内に夢の中へと…

長い1日を漸く終えるのであった。

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