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狩り人71

飴と鞭と言う言葉がある。

良く使われる言葉だ。

人を効率的に動かす時に使われるが…

「どうしたカリン!

 その程度かっ!」

ダリルより激が飛ぶ。

叱咤と言う鞭に叩かれ、カリンが悔しそうに。

「体力が付かねば武器を扱う鍛練など出来ぬぞっ」

再び叱咤されるが、此方は鞭だけで無く飴の意味をも含む。

それは体力が付けば己が望んだ身を守る術を身に付ける鍛練へと進めると言う事だから…

だが…

最大の飴であり、最大の敵でもある物が…

そう。

ダリルが調理を続ける鍋より漂う薫りだ。

先程も香しき香りを発していた。

だが…

それは、まだまだ過程に過ぎなかったみたいである。

徐々に変化を遂げる香り。

その芳しき薫りはカリンの集中力を削ぐ。

だが頑張っ鍛練を行えば、確実に得られる御褒美でもある。

先程に食した料理からも想像可能な味。

いや。

あれを確実に超えるのでは?

そんな期待も。

なにせダリルは燻していた肉から少し取り分け、それを一口大に切った後で炒めてから鍋へと。

香ばしく炒めた後で鍋へと投じられた肉。

その肉へは十二分に煮込まれたスープが浸透して行く事だろう。

想像しただけでも涎が…

掻き立てられる想像だけでも御馳走だと断じえる。

まさしく最強の飴と言えよう。

故にモチベーションは落ちない。

逆にアゲアゲ状態か。

そんな状態でも肉体の限界はある。

その限界間際を見極め、ダリルより休憩の指示が。

噴き出した汗を拭い水を摂る。

息を整え軽く身体の筋を延ばす様に指示を。

その指示に従い身体の筋を延ばすカリン。

思った以上に身体は柔らかい。

そうこうする内に息が整う。

そうなると空かさず鍛練の再開へと。

薄暗くなり鍛練が不可能とダリルが判断した頃には、カリンはヘロヘロになっていた。

大の字で寝転ぶカリン。

最早、一歩も歩けぬ有り様へと。

噴き出した汗が気持ち悪い。

「ほら、カリン。

 川で身を清めて来い」

着替えは無い故、水で濡らした布で身を清める位しか行えぬ。

川へと入り行水でも行いたい所だが、鍛練にて体力を失った状態で冷たい川へと浸るのは危うかろう。

「はぁ~い」

気怠く返事を返し川へと。

何とか身を清めて焚き火を炊いている場所へと戻る。

身を清めた事もあり、多少は元気を取り戻したとみえる。

十分な食休み後のキツい鍛練。

若い肉体は滋養を求めるとみえる。

あれだけ満ち満ちていた胃袋が食を求めて蠕動している。

さすれば、当然の如く…

グゥキュルルルルッ。

腹が鳴る訳だ。

「うむ。

 結構。

 程良く腹が空いたとみえるな」

カリンは赤い顔にて俯く。

空腹にて腹が鳴る事は今迄にもあった。

あったが…

此処まで大きな音を立てた事は無かった。

(どうなってんのぉ~)

赤面たる思いにて顔が上がらぬ。

それは昨夜から食した料理にて胃が拡張し活性化した為だ。

そのため律動した胃が活発に動き鳴る訳で…

そうなるのは仕方あるまい。

焚き火近くにてカリンが座ると、ダリルが鍋より椀へスープを注ぎカリンへと。

少し戸惑いながらも椀を受け取るカリン。

まだまだ顔には朱がさし羞恥が晴れぬとみえる。

そんなカリンではあるが、受け取った椀より漂う薫りに陶然となる。

先程から鍋から漂う薫りに腹が鳴り通しであったのだ。

いよいよ食べる段になり、手元の椀より立ち上る薫りを嗅いだのだから堪らない。

口内へ涎が溢れ、思わずゴクリと飲み込み喉を鳴らす。

椀へと添えられていた匙を取り、スープに浸っている匙頭(サジガシラ)にて具を掬って口へと。

肉と肉団子は掬え無かったが、根菜と刻んだ葉野菜が匙にて掬えた様だ。

口内へと入った根菜は柔らかく、歯でなく舌で潰れる。

葉野菜はトロトロに煮込まれた物と直前に湾へと入れられたのかシャキシャキの物が。

その野菜の甘さと滋味溢れる味が、白濁した濃厚スープと相俟い玄妙たる旨味へと…

「あっ。

 ああぁ…」

思わずと言った感じでカリンの口から声が漏れる。

その味を堪能したかったが、口内より芳しく漂う芳香に負ける様に飲み込んでしまった。

こうなると止まらない。

野菜は確かに美味かった。

そうなると気になるのは肉だ。

最初に掬ったのは炒め煮した肉である。

先程の炒め肉の味は、鮮烈に脳裏へと焼き付いている。

否応でも期待は高まると言うもの。

期待に胸を膨らませつつ、匙で肉を掬い口へ。

香ばしくも歯応えが残る肉と…スープが…いや、スープと、混然となり…

(あ、ああぁっ!

 何時までも噛んでいたい…

 味わいたいのにぃ…

 なんで飲んじゃうんだよぉ~

 オイラのバカぁぁっ!)

内心にて絶叫。

そんな彼が次に挑んだのが肉団子。

そう、内臓の肉団子である。

内臓は栄養の塊。

肉食獣が一番先に食する滋味溢れる部位である。

丁寧な下処理を行ったそれは、まさに御馳走。

それを更に叩いて様々な内臓部位を混ぜ合わせて作った肉団子。

コリコリ、クニュクニュした部位やネットリとした部位など。

様々な食感が混ざり合う。

更にカリコリと軟骨がアクセントを添える。

スープとの相乗効果にて口内を蹂躙するが如し。

肉、肉団子、根菜、野菜を次々と口へ。

混ざる組み合わせにて、違う食感と味へと。

目眩くが如く、まさに万華鏡。

味に翻弄されつつ夢中で食べるカリンであった。

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