狩り人65
「ほ、本当に勇者様なんだぁ~」
うわぁ~、うわぁ~っと言った感じである。
この世界には魔王なる存在は無い。
故に特殊職的な意味合いの勇者では無い。
アフリカのサバンナに生きる者がシンバ(獅子)を狩り勇者と呼ばれる…
その系統の勇者ではあるが、誰でも勇者と称される訳では無い。
特筆される程の武勇を示したとされる者だけが呼ばれる称号と言えよう。
故に勇者などと呼ばれる存在は稀。
そんな存在が目の前に…
カリンが憧れた様なキラキラした目で見詰めるのも仕方あるまい。
「いや…
俺は師匠と違い、その様に呼ばれる程の事は行ってはおらぬ」
渋い顔で。
本人は本気で思っているから困ったものだ。
ダリルにとって先の戦いは、晶武器の性能に助けられた武功に過ぎぬとの考えだ。
しかも、借り受けた晶武器を大破させてしまっている。
これは大失態とも言えよう。
村長は、あの劣悪とも言える状況を覆し、勝利への切っ掛けを作った代償にしか過ぎんと判断。
必要経費としてお咎め無しとなっている。
だがダリルとしては、己の未熟にて大破させたとの忸怩たる思いなのだった。
そんなダリルの思いには気付かずにカリンが不思議そうに尋ねる。
「ダリル兄ィの御師匠様も討伐に参戦してたんだねぇ~
きっと凄い人なんだろ~なぁ~
オイラでも何時か会えるかなぁ~」
憧れる様に告げる。
「それは無理だろう」
困った感じで告げる。
「そうだよね。
オイラ程度の小者じゃ会ってもくれないよね」
急にシュンっと。
それを見てヤレヤレと困った顔をするダリル。
カリン頭をポンポンと軽く叩く様に撫でながら告げる。
「馬鹿だなぁ。
師匠はガサツだが貴賤は問わぬよ。
逢えぬのは、あの討伐戦にて逝ったからだ」
「何処かへ旅立ったの?」
納得した様だが…
「そうだな。
例えるなら…」
天を指差し。
「かな」
っと。
「へっ?
空?」
キョトンと。
そんなカリンをフッと笑い続ける。
「まぁ師匠もハンターや猟師として多くの命を殺めて来た。
故に天に登らず、地に落ちたやもしれんがな」
その言いようにて、漸くカリンにもダリルの師が身罷っている事に気付く。
「そっかぁ~
亡くなっちゃたんだね…
さぞ有名な方だったんだろ~ねぇ」
残念そうに。
「そうだな。
過去は知らぬが…
最近、有名にはなっているみたいだな」
そんな事を。
カリンは告げられた内容が理解できずに首を傾げる。
「ぇっ?
ん~
どいう事?
ダリル兄ィの御師匠様って亡くなったんだよね?」
頷く、ダリル。
それを見て続ける。
「ヤッパリ、そうなんだよね。
亡くなったのに、最近有名になってるの?
生きてないのに?
変だよ、それ?」
死者が名声を。
死後に栄誉を与えられる事は有り得るのだが…
カリンには思い当たら無かったみたいである。
「そうか?
先程、カリンの口から師匠の名が語られた故、師匠の名が広まったと思ったのだが?」
シレッと。
完全に解りながら揶揄っている感じである。
「えっ?
オイラが?」
頭の上に?マークが飛び交う位に首を捻っていた。
「ああ。
英霊とか言われているとな。
俺も、それは村で聞いていたが…
師匠が知ったら…」
その様を想像したのだろう。
小さく笑う。
どう考えても苦虫を噛んだ感じの渋い顔をしながら、顔は羞恥にて赤くなるであろう。
先程のダリルと同じだ。
似た者師弟と言えるが…
その事に対しては気付いて無い様だ。
カリンとしては、それ所では無い。
「えっ、えぇえぇ~っ!
ダリル兄ィの御師匠様って…
あの英霊ゼパイル様なのぉ~」
大パニック。
まさか英霊ゼパイルを師とする勇者ダリルに指南して貰っいるとは…
どう言う有り様なんだ、これ?
自分の立ち位置が分からなくなった気持ちの整理が…
わちゃわちゃと混乱してパニック状態で悩むカリンを、暫くは面白そうに眺めた後…
ダリルはカリンを放置した侭、ロアンデトロスの解体作業へと。
心の臓を突き破った槍を抜き去った事により、大量の血が傷口より流れ出していた。
その破損した心臓は、未だに動いている様だから呆れる。
流石に脳を破壊されている為、死んではいるが…
竜種、恐るべし!
他にも喉元を裂き血抜きを。
石を積み上げ小山を作り出す。
それへロープを用いてロアンデトロスを乗せて行く。
正直、重労働である。
重量は数百キロはあろうか。
容易く持ち上がる代物では無いのだ。
膂力の無いカリンでは戦力になろう筈も無い。
故にダリル1人で行うほか無いのだった。
血抜きも終わり解体へと。
このロアンデトロスだが…
素材の宝庫と呼ばれ、余す所が無い。
内臓にて破棄せざる部員も存在はする。
だが熊の胆の様に薬として用いられる部位が3ヶ所。
肉も非常に美味である。
骨から出る出汁も素晴らしいが…
硬く靭やかたる骨は、加工品の素材として持て囃される品。
しかも骨は強靭なのに軽量なので、様々シチュエーションにて活用されるのだとか。
皮も丈夫で耐久性に優れている。
此方は革鎧などの素材として根強い人気が。
町へ持ち込めば、かなりの額となるだろう。
故に挑む者は多く、毎年多大な被害者を出している。
それだけに得られる品は少なく、ダリルが狩った様な綺麗な品など皆無に近いであろう。
ダリルもそれは分かっており、丁寧に解体を進めるのだった。




