狩り人61
ダリルに鍛練の話を振られ、あわあわと立ち上がるカリン。
「ひゃいぃっ!
オ、オイラっ、身を守れる様になりたいんだぁひっ、アダッ!?」
いきなり告げられテンパり、更に舌を噛んだ様だ。
意気込みが空回りした感じ…なのだろうか?
思わず片手で顔を覆うダリル。
やれやれっと言った感じで告げる。
「落ち着け。
いきなり剣や槍の鍛練などは行わんからな」
「えっ?
そうなの?」
意外そうに。
「以前にも言ったと思うが…
カリン。
おまえには筋力も体力も足りん。
まぁ…
見た感じでの判断ではあるんだがな。
なので、軽く腕立て伏せと腹筋でもして貰うかね」
その様な事を。
「いぃっ!!
マジでぇ?」
「マジだ」
肯定され、渋々と…
いや…
確かに筋力が無いとダリルは判断した。
また、それは正しかったのではあるのだが…
「ふぅ…」
思わず、前途多難を思い溜め息を吐くダリル。
カリンの結果だが…
腕立て伏せは3回。
腹筋1回。
スクワット2回。
そこで取り敢えず止めさせた。
剣を振る所の騒ぎでは無い。
しかしダリルには疑問が。
「カリン。
おまえって、木に登ってなかったけか?」
木登りにもある程度の筋力はいる。
まぁコツを掴み体重移動しながら休み休み上がれば、それなりに登れるであろう。
登り易い木であればだが…
「ロープを上手く使えば、結構楽に登れるよ」
そんな応えが。
どうやらロープを使用した木登り技術を習得しているらしい。
「そうか…
まぁ、それは良いんだがな。
今のおまえでは、武具を使用した動きは不可能だな」
「そんなぁ~」
シュンとするカリン。
そんな彼にダリルが告げる。
「先ずは筋力が足りん。
食も細いから身体も出来ておらんしな。
先ずは基礎鍛錬。
そこからだっ!」
断言すると…
「ゲッ!
マジでぇっ!!」
「大マジだっ!」
深く頷くのだった。
それからカリンの苦行が始まる事に。
河原にて辛うじて持ち上げられる大石を持ち上げ移動。
石がゴロゴロして不安定な場所で、重たい大石を持って慎重にゆっくりと歩む。
重いので中腰である。
この中腰歩きが辛い。
そして重い大石を持ち上げるのがキツい。
不安定な足早に気を付け、バランスを取るのもだ。
そしてカリンが行えるギリギリを狙うダリルの指導もニクいものがあると言えよう。
その様な鍛練を行っていたのだが…
突如、カリンの動きが止まる。
「コラッ!
サボるなっ!」
ダリルから喝が飛ぶ。
だがカリンの様子がおかしい。
「ダリル兄ィっ!
ちょっと待ってぇっ!!」
何か焦っている様だ。
「どうした?」
訝しく思い促す。
すると。
「何か…
確かに、感じるんだ…
森側…いや、違う…
これは…川っ!」
カリンが大石を落とし、川の方をバッと見る。
ダリルもカリンの視線を追う様に目を向ける。
水面に何かの影が…
あれは昨日、狼の死体を破棄した場所だろうか?
(今朝、鍋や皿を洗った滓が流れ、何かを呼び寄せたのか?)
思い当たるとすれば、これだ。
大魚であれば問題はあるまい。
だが陸へと上がる可能性がある生き物だと拙い。
特にカリンは特訓と称し肉体を酷使している最中。
疲れから逃げ遅れる可能性も。
兎に角だ。
「カリン…
直ぐに焚き火の場所まで移動するぞ」
現在のダリルは腰に剣を佩いているだけだ。
他の装備は焚き火近くに置いている。
また火を使用しての撃退も、焚き火近くならば可能であろう。
特に現在の足場が悪い場所よりは戦い易い事が上げられる。
それらを鑑み、即座に指示を飛ばす。
「うん、分かったよ」
そう告げたカリンは、そろりソロリと移動。
疲れて動きが鈍っている事もあるが、急激に動いて悟られるのを恐れているのだ。
ダリルは素早くカリンの元へ。
カリンを護りながら共に移動を。
腰の剣は、何時でも抜ける様に身構えている。
なんとか焚き火がある場所へと。
直ぐに弓矢と槍の準備を始める。
そうしていると…
「あっ!」
カリンから声が上がる。
何事っ!!
ダリルがカリンを見ると、指を指し示している。
その示す場所を見ると、トカゲの頭が水面に現れていた。
「大蜥蜴…ロアンデトロスか。
何で、こんな所に…」
思わず口に出る。
ロアンデトロス…
本来は南方にて生息する竜種の一種である。
この地方にも夏には現れる事はある。
だが、季節的には少々早い。
いや…
初夏とも言える季節にはなってはいる。
早い到来が有り得ないと言うものでも無いだろう。
「これは、少々厄介か…」
竜種の皮は丈夫だ。
その中でロアンデトロスは刃が通る方ではある。
あるが…
異様にタフで瞬発力が高い。
陸上での移動速度は遅いと言えるが、跳び掛かって来る勢いは侮れない。
噛み付きがメインかと言えば、そうでは無い。
大きな太い尻尾を振り回しての一撃こそ恐ろしい。
強敵と言えよう。
ダリルは背嚢から何かを取り出し作業を始める。
「何してんのさぁ」
カリンが不思議そうに。
「迎え討つ準備だ」
「えっ?
逃げないのっ?」
驚くカリン。
だが…
「此処ら辺では滅多にお目に掛からない獲物だぞっ!
アレを狩らずに、何がハンターかっ!」
そう反論されては、逃げるとも言えないではないか。
「カリン。
おまえは森の方まで下がってろ」
準備を行いながら、そう指示を。
ロアンデトロスとの死闘が幕を開けようとしているのであった。




