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狩り人60

一夜が明ける。

昨夜の襲撃の後、不安で暫くは眠れなかったカリン。

だが暖かい焚き火の火に当たる事により、知らず知らずの内に眠りに付いていたのだった。

そんなカリンが目覚めると、既にダリルは活動を開始していた。

昨夜のスープへと水を注ぎ足し、煮立たせている。

それへ兎串の残りを切り入れ、香草類で味の調整を。

具を増やすかを考えたが、昨夜にカリンが食べた分量を鑑みて止めた様だ。

キュユの葉にて付けたトロミが、夜の冷え込みにて固まり煮凝り状態に。

これはコレで美味いのではあるが、野外にて一夜を明かした朝にはチト辛い。

マントや毛布に包まり焚き火近くにて暖を取っていたとは言え、身体は冷え切っているのだ。

故に、ここは冷たい料理よりは温かい料理であろう。

煮凝りは汁が冷めた物。

明らかに冷えた身体が欲する物では無い。

故に汁を煮立たせる事にするが…

流石に汁が少な過ぎると判断した。

故に昨日の道中にて採取したランタウス樹液を使用する事に。

水にも鮮度がある。

長時間放置すれば劣化もしよう。

幸いランタウス樹液には、キュユ葉による煮凝り状態を緩和する働きもある。

徐々に注ぎ足しながら、煮凝り状態を解いて行く。

そして十分に液状化すると、兎串の肉をナイフで削ぎ落としながら鍋へと。

その工程を終えると、焚き火へと予め焼べておいた焼き石を鍋へ。

数個ほどを投入すれば、グツグツと鍋は煮え立つ。

一夜ほど置いた為に味が馴染んだのだろうか?

昨夜よりも芳醇な香りが漂い始めた。

その香りに惹かれたのだろう、カリンが目覚めたようだ。

低血圧なのだろうか?

暫くはボォ~っとしている。

そんな彼も匂いに釣られダリルの元へ。

「おはようさん。

 もう直ぐ出来るからな」

味を整えながら告げる。

そんなダリルへカリンが寝ぼけ眼にて頷く。

「んっ。

 おあよ…

 ふぁぁっ…

 木の上ほどじゃ無いけどさぁ、何だか寝た様に無いや」

そんな事を。

そんなカリンへダリルが呆れて告げる。

「おいおい…

 あれだけ熟睡しておいて良く言う」

「そ、かな?

 そんな熟睡してた?」

自覚は無い様である。

ダリルは呆れ、軽く首を左右に振った後にスープを皿へと。

木匙を添えた皿をカリンへ渡す。

カリンは芳醇な香りを放つスープの芳香を嗅ぎ、目が覚めた様だ。

特に腹の虫が…

グゥキュルルルルゥッ。

何とも豪快に鳴ったものだ。

思わず声を上げて笑うダリルだった。

「酷いや」

カリンは真っ赤。

少し拗ねた感じか。

「ふっ。

 だが…それだけ俺の作った飯が美味そうと言う事か?

 まぁ食え。

 美味いぞ」

誤魔化す訳では無いが、そう勧める。

ダリルとしては、己が料理を嬉々として食するカリンは新鮮であり嬉しい存在でもある。

己も自分用の皿を取り、それへとスープを注ぐ。

そして食し始めるのだった。

スープはキュユ葉を新たに足してある。

暫く煮立たせた為、ランタウス樹液を足したスープも少々煮詰まったか。

投入した兎串肉からも出汁が新たに加わっていた。

それをキュユ葉のトロミがトロントロッにへと。

「はふはふはふ。

 ふぅん~っ!

 これっ!昨日より美味いやっ!

 どんな魔法使ったのさっ!」

そんな事を告げながら、夢中で食べ始める。

だが…

熱々のトロトロであるスープである。

口の中が火傷しそうなそれは、昨夜のスープよりも遥かにトロミが強い。

そんな物を掻き込む訳にもいかない。

そんな事をすれば、口内火傷で口の中はベロンベロンになるであろう。

ふぅふぅと必死に冷まし、チビチビと擬かしくも口へと。

それでも熱く、はぐはぐ、ほふほふと食べると…

トロントロッのスープがガッチリ押さえ込んでいた旨味が解放される。

そして口内にて食材と香草の香りが舞い上がる。

そのトロミも堪らないが、肉の食感も堪らない。

軟骨でも入っているのだろうか?

時々カリコリと。

葉野菜の茎を微塵切りにでもして入れたのだろうか、シャクっとした食感も。

多くは無い、その歯触り、歯応えが擬かしくも楽しい。

カリンを魅了して止まないスープとなっていた。

ダリルとしては、残り物を入れる感じで味を調えたのだが…

(以前に軟骨を煎り干した物を入れてみたが…

 ふむ。

 これは保存に良く味のアクセントには最適だな。

 また造っておくか)

その様な事を考えつつ食している。

どうやら狙った味では無く、実験的な側面もあったみたいだ。

そんな朝食を終える。

カリンは何時もより食べ過ぎた様で動けなくなっている。

「う~ん…

 食べ過ぎたよぉ~う」

お腹ポッコリである。

だが汁物であり、昨夜が何時もより食べた事で胃が多少膨らんでいた。

この程度ならば害にはなるまい。

動け無いカリンを放置し、ダリルは鍋や皿を河辺で洗う。

上流よりは川幅が広まっている様だ。

水深も深い場所がある。

水温は思ったよりは高く、魚の動きも活発に見えた。

(魚を捕っても良かったやもな)

この辺りには適度な岩も多い。

ガチンコ漁と言われる漁ならば、容易く魚を獲られるだろう。

この漁は現代日本では禁止されている漁である、

だがこの世界には、その様な法律など存在しない。

ダリルが狩場にて良く行う遣り方である。

とは言え、既に朝食を食したばかり。

今は行うつもりは無い模様。

食後の後片付けも済ませた頃、漸くカリンも復活した様で…

「で、俺に鍛えて欲しいんだったな」

静かにカリンへと告げる、ダリルであった。

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