狩り人06
ヤムナの荷車を引いて村までの道を移動。
途中途中で農作業をしている村人に声を掛けられる。
今は春の作付けに向かって畑を耕している所であろう。
そんな村人達に挨拶を返しながらの道行き。
ダリルはヤムナへ山での狩りの事、下山してからハグレ白狼に襲われた事などを話す。
実は熊にも遭遇していたらしい。
子連れで気が荒い状態の熊だ。
ダリルの方が先に察知し、風上から風上へと迂回して難を逃れたそうだ。
実は罠を張り嵌めれば仕留める自信はあった。
だが…
狩ったとしても持ち帰るのが困難。
少なくとも数人で狩るべき獲物なのだ。
故に狩る事なく下山したとの事だった。意外と多くの生き物達が春先とはいえ雪山で活動している。
その事を知りヤムナは目を丸くする。
狩人達は無口な者が多く、狩場の話をする者は余り居ない。
故にヤムナにとっては面白い話となった様だ。
道を至り村へと。
とは言え、村を囲む塀などは存在しない。
木造の家が見え始めた所で村と判断である。
木造ではあるが、壁は土壁である。
決まった種類の植物を枯らした物を、粘り気の強い土に混ぜ塗ってある。
その上から漆喰を塗り補強してある様だ。
意外としっかりした造りである。
荷車を引き村の中を移動。
村中央の広場を横切り、広場に面した邸宅前へと辿り着いた。
周りの建物よりは大きな2階建ての建物で、倉庫も隣接している。
その建物の玄関前に荷車を停め、ノッカーにて戸を叩く。
暫くすると、女中が戸口に現れ対応する。
「どなたですか?」
「ナナさん、お久しぶりです。
ダリルです。
今、狩りから戻ったのですが、村長は御在宅ですか?」
女中のに応えるダリル。
「あ、ダリル君!
無事だったんですね!
この時期に深山で狩りなんて…
なんて危険な事をするんですかっ!
心配したんですよっ!」
どうやら親しい知り合いの様だ。
「あ、いや…
それが俺の仕事ですし…」
困った様に頬を人差し指で軽く掻く。
「なんじゃい。
騒々しいのぅ」
女中との遣り取りが聞こえたのであろう。
家の中から老人が現れる。
村長である。
村長が何時も寛いでいるリビングは玄関から近い。
女中ナナが上げる声が聞こえたのであろう。
何事かと現れたのだった。
「あ、村長。
只今戻りました」
誤魔化す様に、直ぐに村長へ声を掛けるダリル。
まさに渡りに船と言ったところであろうか。
「うぅ~」
不満気なナナ。
後ろで見ていたヤムナが、思わずクスリと。
ナナにギッと睨まれる。
肩を竦める、ヤムナ。
(お~コワ)
内心で、その様な事を。
なかなかに空気が読めない、おっさんの様である。
そんな2人を軽くスルーし村長がダリルへ告げる。
「ほっ。
戻ったかぇ。
して…
どうじゃったのじゃ?」
何がと言いたい所だが…
おそらくは狩りの成果についてであろう。
「まぁまぁと言った所でしょうか。
荷を降ろしたいのですが」
ダリルが告げる。
「それは重畳。
倉庫の鍵を持って来るでな。
倉庫の前で暫し待つが良い」
そう告げて、村長は邸宅内へ姿を消す。
ダリルは言われた通りに倉庫前まで荷車を引いて移動する。
此処で得た獲物を納品するのだ。
村の収穫物同様に、狩った獲物も村長に納める仕組みである。
此処で納めた品が換金され、税を差し引かれた金が納品者に渡される仕組みだ。
騎士爵は集めた税から経費と取り分を除き国へ納める。
その際に穀物などは、そのまま納められるが、嗜好品は商人へと転売。
得た利益より税を税率分差し引いた額が納めた者へと支払われる仕組みだ。
これは個人が商人と取引するよりリスクが低く実入りが良い。
故に村では領主へ品を納めるものなのだ。
一方、町などではギルドが、この肩代わりを行う。
ギルドへの納品時に税が引かれ、目利きにより適正価格が支払われる仕組みなのだ。
まぁ…
これらの仕組みで仲介者であり納品先である領主が不正を行い、暴利を貪る場合もあるという。
この村では行われていない様だが…
酷い領地だと、毎年餓死者が出るほどだとか。
ダリルも噂に聞く程度だが、聞いた時は眉を顰めたものだった。