狩り人57
火を焚くと次の作業へと。
背嚢へと、ぶら下げていた鉄鍋を裏返す。
その底を利用し、背嚢より取り出した食材を処理していく。
根菜類や野草類の下処理だ。
丁寧に皮を剥いだり筋を取ったりと作業を続ける。
それらを一旦、背嚢から出した皮の上へと置き、次の処理へと。
先ずは、お湯の準備だ。
近くに川があるので幸いと言えよう。
調理するのに水があるのと無いのでは、調理の幅が格段に違ってくると言うものだ。
故に水辺を目指した一面もあるのだが。
川より鍋へ直接水を汲み焚き火窯の縁に置く。
これで湯が沸く訳では無い。
この中へ火に焼べた石を取り出し、焼けた石を鍋へと。
それにて湯を沸かす訳だ。
沸いた湯へ用意した根菜類を入れる。
後は焚き火近くでの熱にて鍋を温める。
その間に兎肉の処理を。
香草や塩の実を鉄皿にて潰す。
これを兎肉へと塗してから木の枝を削った串へと刺す。
準備を終えた兎串を焚き火の縁へと刺していく。
肉へと香草などを塗る際、焼きむらが出ない様に削った兎がある。
これらは鍋へと投入。
終わると、更に焼き石を鍋へと。
グツグツと煮立つ鍋。
木匙にてアクを掬い捨てる。
兎串も遠火にて炙られ焼けて来ている。
適度に串を回し、満遍なく焼ける様に調整を。
鍋も遠火にて炙っている。
これも位置を変えての調整を欠かさない。
鍋からは石を取り出し、香草や塩にて味付けを。
仕上げにキュユの葉を擦り潰した物を投入する。
これを入れると湯にトロミが付き、口内にて汁が纏わる感じで味を濃く感じる事が出来る。
ダリルの好物の1つでもあった。
移動中にキュユの木を見付け、多めに葉を採取してある。
この葉は乾燥しても水で戻してから摺り潰せば同様の効果が出る。
日持ちするので重宝する食材である。
料理が完成間近となると、非常に良い薫りが当たりへと漂い始める。
クキュゥゥゥ~っ。
良い音が。
犯人はカリン。
いや、彼のお腹の虫と言うヤツか。
真っ赤な顔で俯くカリン。
流石に恥ずかしかった様だ。
ダリルが軽く溜め息。
明らかに腹を減らした子供の前で、見せびらかす様に食す趣味はダリルには無い。
料理が足らぬのなら別だが、明日の朝へと回す程度には料理はある。
助ける謂われは無いのだが、先程に巻き込まれた形とはいえ救った経緯もある。
仕方あるまい。
(俺も、まだまだ甘いな)
そんな事を思いながらカリンへと声を掛ける事に。
「おい。
カリンだったか?」
「えっ?
なに?」
不意に声を掛けられ戸惑っている。
「こっちに来て食わないか?」
打切ら棒に告げる。
自分のキャラでは無いとの照れ隠しであろうか?
告げられたカリンはというと一瞬キョトンとし、慌てて告げる。
「いいよっ!
悪いよ、そんなのっ!
タダでさえ、さっき助けて貰ってんだしさ」
慌てふためく様に断るが…
グゥキュルルルルッ!
お腹の方は正直な様で…
カリンの言葉を否定するか如く豪快に鳴り響く。
これにはダリルも…
「ぶっ!!
わははははっ!
こりゃ、素直な腹だなっ!
ガキが遠慮なんてしなくて良い。
黙って食え」
その様に。
カリンは恥ずかしいやら、情け無いやら。
真っ赤な顔で俯くが…
ダリルが作った料理から発せられる暴力的なまでの薫り。
その薫りに引き寄せられる様にダリルの元へと。
ダリルもカリンの腹の虫に毒気を抜かれた感じだ。
頑なに誘いを断った事から集りの部類ではあるまい。
無言で皿に汁を注ぎ、兎串を取る。
それをカリンへと。
「ほれっ」
打切ら棒な口調で渡すが、表情は柔らかい。
カリンも観念した様に受け取り…
「あ、ありがとぉ~」
恥ずかしそうな、か細い礼の言葉が口より漏れた。
そんな様子が初々しく、思わず笑い声を上げるダリルであった。
その後、ダリルも食しながらカリンへと問う。
「おまえ、両親は?」
首を左右に。
「頼る者は…縁者もか?」
力無く頷く。
「そうか…」
別に珍しい話では無い。
この厳しい世界では良くある事。
下手をすると親兄弟どころか、村1つ消え去る場合も。
その際に生き残った者は幸いと言えるか…
厳しい世間を生き抜けるか試練が待つであろう。
彼の場合も何かで失ったと思われる。
それでもハンターとして生活をしている様だ。
実に逞しいと言えよう。
その少年がダリルを頼って来る。
初対面で見ず知らずの男にだ。
理由が分からない。
故に…
「その、なんだ。
何故、俺について来る?」
成る可く穏やかに。
すると、ポツリポツリといった口調で。
「オイラ、危険が察知できれば素材集め出来るし…
それで良いと思ってたんだ」
「それで?」
促すと…
「でも、それじゃ駄目なんだって…
今日みたいな目に遭ったら助からないし…
それにギルド規約にも詳しく無いから…
オイラ、教えてくれる人って知らないしさぁ…
兄貴みたいに頼れそうな人は初めてだし…
迷惑って分かってんだけど…」
言いながら、ポツポツと涙が…
何とか1人で頑張って来たのだろう。
見た感じは10歳位だろうか?
いや。
もしらしたら、もっと幼いかもしれない。
(家の弟連中に、爪の垢でも煎じて飲ませたい所だな)
そんな風にも思ってしまう。
正直、自分が人を導く立場には早いであろう。
だが、暫し少年に付き合ってま良かろうか。
その様にも。
自分も師であるゼパイルへ押し掛け、強引に弟子と成った身。
それを鑑みて、暫しの間ならば…
考えが纏まったダリルが告げる。
「確かに、おまえの危機察知能力とやらが高くとも戦う術も無いのにハンター家業を続けるのは、危うかろうな。
ならば暫しの間、俺が教えてやろう。
だがな。
俺は猟師家業は長いがハンターではない。
これよりハンターとなる身だ。
そう言う意味では見習い以下とも言えるか。
それでも良いのならば、だがな」
ニヤリと笑って告げる。
すると、驚いた顔でカリンが。
「ホントぉっ!
本当に教えてくれんの、兄貴ぃっ!」
「ああ。
だが…その兄貴は止めてくれないか。
俺の名はダリルだ。
ダリルさんとでも呼べ」
そう、困った様に。
すると…暫し考えたカリンが告げる。
「分かったよっ。
じゃぁ、ダリル兄ィって呼ぶよ」
何で、そうなったし?
呆気に取らるダリル。
「ふぅ」
呆れた様に首を振り、諦めた様に告げる。
「もぅ、それで良い」
「うん、分かったよ、ダリル兄ィ」
嬉しそうに告げる、カリンであった。




