狩り人54
街道を使い南へと。
町までは何度か行った事はある。
村での収穫物などを交易品として町まで運ぶ際に同行したのだ。
村長へ税として納めた収穫物以外は個人所有として認められる。
村人達の努力もあるが、村長達の指導も的確な事から収穫量は増えているのだ。
非常時の備蓄を十分に整え、税を納めた残りである手取り。
その手取りでも、次の収穫まで家族が日々を過ごす量としては余ると言える。
更に酒や煙草草に冬に内職で作った毛織物などなど。
村長が領主として独占している品以外は、村人達の資産と認められているのだ。
その様な物資を現金化する方法は2つ。
村へと訪れる行商人へ売るか、町まで売りに行くかである。
無論、行商人へ売る方が楽ではある。
だが町で売るよりは買い叩かれる。
ただ不当に買い叩いたりした行商人などは、村への出入りを禁じられる。
それどころか、過去には近隣の村々へ回状を回され、手酷い目にあわされた行商人もいるとか…
故に現在、不当な買い叩きを行う行商人はいなくなってはいる。
それでも行商人達の取り分もある事から、町で売るよりは安く買われてしまう事は否めない。
かと言え、下手をすると数週間掛かる町での交易。
村での作業もある為、容易く行う事は出来ない。
個人的に行うなどは論外と言えよう。
また町で露天売りなどしても、素人と侮られて買い叩かれる事もある。
下手をすると破落戸などに絡まれ酷い目に。
その様なトラブルも過去にはあり、今では村で交易品を集めて町に売りに行く様になっている。
とは言え頻繁には行われず数ヶ月に一度の割合であり、村長経由にて契約してある商人を介しての交易となるが…
この商人は年に一度の入札にて決めている。
故に評判が悪く不当取引を行えば、次の入札時に卸し先から外されてしまう。
カーラム村の交易品は人気が高い。
穀物や野菜などの有り触れた品でさえ品質が高い。
収穫物を加工した品などは、特に人気が高いと言えよう。
売れ筋商品が多く、扱う商人としては旨味があるのだ。
故にカーラム村御用達商人と成りたい商人は多く、入札に対する商人達の意気込みも高い。
その様な状況ゆえに、村人達が運んで来た交易品は適正価格で取り引きされている。
故に村人が商品を売る手間やリスクは無いと言えよう。
これも村長の手腕であり、彼が村人達に尊敬され慕われる要因の1つなのだった。
そんな交易品を運ぶ仕事は村人の仕事。
とは言え、道中は安全とは言えない。
故に腕っ節が強い者が町まで交易品を運ぶ事となる。
主に若い男となるが、働き手を多く出す訳にも行かない。
故に猟師と牧童に農家にて出せる人数の割合を決めて人を出す。
まぁ、村長からも兵を2人だけ付けて貰える。
村長としても村人に被害が出ては堪ったものでは無い。
故に仕方ない処置となっていた。
この交易にてゼパイルの存在は大きかったと言えよう。
獣などの襲撃を予め察知し討ち取った事もある。
その様な彼の弟子たるダリルは、自然と交易隊へと組み込まれる事に。
故に交易隊を護衛する形にて町へは行った事があるのだ。
だが、町へ留まる時間は短い。
夜に近い時刻に到着。
荷降ろしや納品作業は彼の分野では無い。
故に荷を届け終わると商人との対応を任せられた者を除き町へと繰り出す事に。
とは言え、ダリルは酒場と宿屋しか知らぬ。
そこで酒の摘みの様な食事と酒を。
村で食す料理よりは変わった品が多く楽しめる。
酒の種類も多い。
大いに楽しめたと言えよう。
だが村の若い衆は気も漫ろ。
何か落ち着かない感じで酒宴を。
まるで次がメインであり、それを心待ちにしている様でもあった。
その様な若い衆をゼパイルを含む年嵩の男達は生暖かく見ていたが…
その理由はダリルには分からなかった。
何せ酒宴を終え酒場を出るとダリルは宿屋へと。
彼には早いと置いて行かれてしまい、彼らが何処へ行くのかは知らされていない。
ゼパイルが居る為、後を付ける事も出来ない。
そんな事をしても直ぐにバレる為である。
故に闇夜に消える彼らを見送るのみであった。
そんな事を思い出しながら街道を進む。
先程からアンソニアが仕切りに話し掛けてくるのを相手せずに進む。
少々煩わしい。
故に思考へ逃避した旨は止む得ないと言えよう。
少なくともダリルは、そう考えている。
街道は地形に沿う形で続いている。
平地を選び整備されている為だ。
荷馬車などの通行する事を考えれば妥当だと言えよう。
だが町へ単独にて向かうには迂遠とも言える。
特に猟師であったダリルには街道を素直に通る謂われは無い。
無駄とも言える。
故に街道を外れ林…いや、森の中へと。
「何処へ行くつもりなのかね?」
驚いて声を掛けるアンソニア。
それは、そうであろう。
いきなり道無き森へと分け入り始めるのだ。
正気の沙汰とは思えない。
そんな彼をチラリと見て告げる。
「俺が何処へ行こうと、俺の自由だと思うが?」
言い捨て行こうと。
「それもそうだね」
軽く告げ、アンソニアも続こうと。
そんな彼を迷惑そうに見てダリルが告げる。
「そんな形姿でついて来られても困るのだがな」
ジトリと彼を見る。
アンソニアの形姿は革鎧に金属製部分鎧を身に付けた姿である。
フルプレートとは違うが、ガチャガチャと非常に五月蝿い。
更に、そこそこの重量があり、彼の動きを阻害している。
此処から先、道無き森を進むには相応しく無いと言える。
完全に足手纏いである。
かと言え、ついて来た貴族を放置して遭難させでもすれば問題となろう。
例えそれが、アンソニアが勝手について来たとしてもだ。
その旨を彼へと告げる。
アンソニアとしてもダリルの邪魔をするのは本意では無い。
とは言え、装備品を投棄しての同行も行えぬ。
それなりの品を身に付けており、民の血税を元に得た品との認識も彼にはある。
故に肩を竦めて告げる。
「仕方ないね。
私は街道を行こう。
ミューレルの町で待っているからね」
その様に。
「勝手にすれば良い」
ダリルにとっては僥倖。
街道をショートカットする彼に、アンソニアが追い付けるとは思えないからだ。
だが彼は思い違いしていた。
アンソニアはダリルと別れた後、カーラム村へと戻っている。
馬を手に入れる為だ。
そう。
騎馬にてミューレル町へと向かう事に。
ダリルの思惑は外れる事になるのであった。




