狩り人53
あの討伐の日より1ヶ月の日が流れ去った。
帰投作業に凱旋。
忙しい時が慌ただしく流れる。
責付く様な忙しさに押し流される様に過ごしたダリル。
その間は忙しさに身を任せ、無駄な事を考える暇さえ無かった。
中には彼を英雄として祭り上げ様とした輩も居た。
その様な試みは村長により叩き潰される羽目となったが…
ただゼパイルは英雄…英霊として、村にて崇められる存在へと。
彼、ゼパイル自身が知れば苦笑を禁じ得なかっただろうか…
いや、眉を顰めて迷惑そうな顔になったに違いない。
彼が埋葬された地には、石碑が墓標代わりに立てられている。
昼夜を問わずに突貫にて職人達が造り上げた品である。
忙しさが収まり落ち着いた頃…
ダリルは日がな1日ゼパイルの墓標前にて過ごしていた。
丸で脱け殻である。
周りの者達も心配をしたが、村長より暫くは放っておく様に告げられ見守る事に。
そんな日々を数日ほど過ごした彼が、フラリと村から姿を消した。
村は大騒ぎである。
そんな村人を村長が一喝!
不安を抑え切れないダリルの家族と悶着もあった様である。
そんな中、何でも無い様にダリルが村に姿を現す。
狩った獲物を携えて…
そう。
狩りへと赴いていただけである。
既に独立した扱いのダリル。
黙って狩りへと赴く事は多い。
獣竜討伐騒ぎ前では当たり前となっていた事でもある。
それでもだ。
ダリルが見せていた挙動を慮れば、皆が心配するのは仕方あるまい。
そんな皆の心配を、何処吹く風とばかりに過ごし始めたダリル。
何時もの日常に戻った様に思えた。
平穏な日々。
そんな家族へ、ある日ダリルが告げる。
「俺、明日、村を立つから」
何でも無い日常会話の様に。
初めは何を告げられたのか理解できなかった母親。
その意味を理解して猛反対を。
先日、息子ダリルを失い掛けたばかり。
出来たら猟師も辞めて欲しいのだ。
そんな息子が村を立つ。
それは以前より息子が告げていたハンターに成る為に違いない。
ハンターと言う職業は、猟師よりも遥かに危険な職業と聞く。
先だって行われた獣竜の討伐。
あの戦いで多くの騎士とハンターが亡くなったと聞く。
死んだ猟師のゼパイルも、元はハンターだったとか。
死んで英霊と讃えられようが、死は死である。
彼女には息子が死ぬ様な職業へ就く事を容認できなかった。
いや…
必ず死ぬ訳では無いのだが…
感情的になった彼女に聞き入られる事は無かった。
本当は両親に認められて旅立ちたかった様だ。
だか、平行線を辿る話し合いに諦めたダリル。
黙って村を出る事に。
村長や村人達には、昨日、家に報告する前に旅立ちの挨拶を告げてある。
まぁ、実家にてあの様な騒ぎになるとは、思ってもいなかった様であるが…
既にダリルの意志は固い。
そしてアノ戦いを経て、落ち着いた大人の雰囲気を纏い始めている。
喋り方もゼパイルを彷彿とさせる話し方へと。
冷静で落ち着いた雰囲気は彼の歳を惑わせるが如しである。
そんな彼は旅仕度を終えてゼパイルの墓標前へと。
朝と言うには早い時間。
日も上がりきらぬ薄暮の時に姿を現していた。
手には火酒フォボスを。
ゼパイルの墓標へと掛け、己も煽る。
「師匠…
当初の予定よりは遅くなったが…
俺は行く。
世話になった」
そう告げ、墓標前へフォボスの入った陶器の大徳利を。
そして朝靄も明けぬ日の出前、ダリルは村を旅立つのであった。
向かうは南。
村から一番近い町であるミューレル。
無論、ハンターギルドへ加入する為だ。
彼が村を早く旅立った理由…
家族との確執による面倒を避けると言うのもある。
だが…
「お早い旅立ちだね」
村から出た街道に人影が。
家族ではない。
騎士アンソニア。
ある高貴な貴族の出らしい。
跡取りと言う身では無く跡を継ぐ可能性は低いとの事。
一応は身分を保証されているが、自由に世を見聞する事を許されているらしい。
ただし、国内より出ない事を義務付けられているそうだが…
そんな彼は見た事が無い獣竜を見たいと討伐へ参加。
生き残る事が出来たら訳だが…
今度は何を思ったのかダリルに興味を。
「俺に、その趣味は無い」
嫌そうに告げたものである。
だが、クツクツと笑い。
「流石に衆道には興味ないなぁ~
麗しの乙女が好みかな」
などと。
「では、何だ?」
纏わり付く理由が分からない。
「君の闘い。
生き様に興味を持った。
一緒に居れば飽きないだろうからね」
などと。
「迷惑だ」
その様に告げ無視したのだが…
勝手にダリルの後について来る。
ストーカーである。
狩り場にまで現れる始末。
流石に旅立ちに迄付き纏われては堪らない。
故に出立を早めたのだが…
「何でお前が居る」
ジト目でアンソニアを見るダリル。
「連れないねぇ。
君に同行すると告げた筈だよ」
「許可した覚えは無いが?」
「ははっ。
僕が勝手について行くだけさ。
お気になさらずに」
そう、にこやかに。
流石に呆れ果てるダリル。
「勝手にしろ!」
言い捨て、歩みを進めるのであった。




