狩り人52
村長は渓谷上の高台…
バリスタが設置された高台のある崖を挟んだ反対側の崖上の高台へと陣取っていた。
そこはバリスタを設置するには適していない地形。
だが渓谷内部を俯瞰するには最も適した場所と言えよう。
故に全体に対する指揮所が設けられていた。
まぁ…
先程の暴風にて、設置した陣地は蹂躙されている。
既に陣としての様相は保ててはいない。
暴風が荒れ狂う最中は退避し、難を逃れていた村長。
獣竜への攻勢に転じた時点で戻っていた。
「被害甚大じゃが…
何とかなりそうじゃな」
ガルオーダの角をダリルが消し飛ばし、騎士とハンターを含む一団がヤツに挑んでいる。
心配していたダリルが起き上がっている。
一安心していたのだが…
何やら討伐状況に異変が…
「何事じゃっ!」
驚き床几より立ち上がる。
攻撃を弾かれて驚く者達。
それ所か叫び逃げはじめている。
場が混乱している中、獣竜ガルオーダの雄叫びが…
「そなたらは退避せよ」
「父上は!?」
「儂は此処へ残る」
「それは…」
「クドい!
時間が無い!
行けっ!!」
一喝。
戸惑いつつ、後ろ髪を引かれながら退避を。
(これで良いのじゃ。
この討伐隊を率いた者として、最後まで見定める責があるでな)
戦場を見詰める目は厳しい。
あの暴風が放たれたら、彼の命も無いであろう。
年老い前線には出られぬ身。
歳の離れた親友ゼパイルが、引退した身を推して戦ってくれているのだ。
孫の様に可愛がっていた、生涯最後と思いゼパイルと共に育てたダリルも前線に。
せめて見届ける位はせねばなるまい。
そんな彼の視線の先。
覚悟を決めた様な姿を示すゼパイルが。
チラリと此方を。
その視線を感じる。
視線を感じる距離では無い。
だが…
確かに感じたのだっ!
背筋が、ぞわっと。
ゼパイルは次にダリルを見ると…
咆哮を上げ始めたガルオーダへと。
気迫籠もった声が轟く。
そう、轟いたのだ。
村長は耐えたが、その気迫を伴った裂帛の声にて腰砕けとなった者も。
「なっ!?」
上段に振り被った剣より光の刃が伸びる。
そして刃を伸ばしながらも振り下ろす。
その長大な刃が獣竜ガルオーダを襲う。
村長の目には光の残視にて光の壁が扇状にゼパイルより放たれている様に見えた。
その壁がガルオーダを両断!
いやっ!
地をも穿ち断ち切っているではないかっ!!
「お、おおっ!
おおおおっ!!」
村長の両目からは膨大の涙が。
彼には分かっている。
ゼパイルが命を賭け行使した一撃。
その一撃にてヤツを打ち倒したのだと。
そして、掛け替えの無い友を失った瞬間であった。
両膝を突き天を仰ぐ彼の耳に、ダリルの慟哭が届いた。
(そうじゃっ!!
ダリル!)
慌てた様に立ち上がり、渓谷下へと向かう。
戦後処理も必要であろう。
本来は冷静に指示を与えるべきであろう。
そんな事は解っている。
だが、彼とて人間だ。
大事な友を目の前で失ったばかり。
そして、友の弟子にて我が弟子のダリルの慟哭。
身を突き押される様に動いたとて、誰に咎められようか。
「ダリル…
おお、ダリル。
よう無事で…」
「そ、村長…
師匠が、師匠がぁぁぁっ」
慟哭。
目の前で為す術も無く、己の師が散るのを指を加えて見る事しか出来なかった。
晶武器を失い戦う術を失ってはいた。
だが…
角を破壊した時、もっと適切に晶武器を操れていたら晶武器を失わなかったのでは?
さすれば晶武器を失う事は無かった筈だ。
なれば自分がガルオーダを…
いや。
そもそもだ。
角を狙わずに頭部を直接狙っていたらどうであろう。
あの威力ならば、あの時点でガルオーダを倒せたのでは?
考えれば考える程に後悔の念が。
だがそれは、所詮たらればの世界。
終わった後だからこそ言える事。
あの時点で、誰がダリルの晶武器が放つ攻撃の威力を察せられようか。
それにだ。
それにより晶武器が崩壊するなど思い至る筈もない。
誰にも彼を責める事など出来ない。
だが…
ダリルは自分自身を責める。
そんなダリルを村長は一度だけキツく抱き締め…
そして引き剥がすと、彼の頬を張る。
バシィィッ!
痛烈な音が!!
周りの者達が驚く。
ダリルは罰だと受け入れ…
「大概にせいっ!!
ゼパイルは村の…
皆の為に命を散らした。
じゃがの、ダリル。
アヤツの志し、心根は御主に宿っておる。
前に進むのじゃ。
ハンターになるのであろ?
ゼパイルの生き様を継ぎ、突き進むのじゃっ!」
渇を入れる様に告げる。
ダリルは村長を見る。
直ぐに痛手より立ち直る事など出来はしない。
だが…
「分かりました…
でも…
暫しの時を…
必ず、必ず…」
そこで声が途絶える。
ウンウンと頷く村長。
そして暫しの時を置き、凱旋処理が行われ始めた。
凱旋とは言うが被害は甚大。
戦後処理を考えると、頭の痛い村長達であった。




