狩り人05
倒した狼より毛皮を剥ぎ取る。
ガリガリに痩せた餓狼には筋張った肉しかない。
既に獲物は十分。
臭味の強い狼の肉は不要であろう。
ただ薄汚れて、くすんではいるが白銀の毛皮は良い値になる。
切り落とした頭部も処置した。
此方も剥製としてなら需要があるためだ。
資産家がインテリアとして求めるらしい。
この様な物を飾ってどうするのかは、ダリルには理解できないのだが…
ただ、この白狼だが、この辺りでは珍しい生き物だ。
寒い時期にのみ現れるそうなのだが、狩りに入った山から2山ほど越えた先からのみ出没するらしいのだ。
この辺りに現れるのは稀有なので希少価値が高いと聞く。
その件の白狼だが…
どの様な理由でこの地まで流れて来たのかは知らぬ。
遠方よりさ迷って来たのであろう。
飢えて力を失っていた。
群でも無かった。
故に容易く狩る事ができたと言える。
ダリルとしては身を守ったに過ぎぬが、本来の状態ならば容易くは狩れなかったであろう。
狩った白狼を処置する。
皮を剥いだ肉や骨、臓物を川へ破棄。
大鍋に川から水を汲み、流血を清めておく。
血の臭いが獣を呼び寄せ無い様に少しでも薄める為だ。
少しは獣を惹き付けなくなれば良いのだが。
ダリルは焚き火近くで横になった。
闇夜を移動するよりも、此処に止まった方が良いと判断したのだろう。
防寒具とマントが寝具代わりだ。
浅い眠りだが、仮眠をとり疲れを癒やす。
流石に山奥に比べ気温が高い。
それでも寒いが、眠れない程では無いだろう。
一夜が明ける。
寝不足の眠気を川の水で顔を洗う事で覚ます。
軽く剣と槍の素振りを行い、体を温め身を解す。
「さて、行くか。
今日には辿り着かねばな」
その様に呟き、焚き火を始末した後で移動を始める。
昼過ぎ。
漸く村が見え始めた。
「ん?
ダリルさじゃぬぇけぇ。
狩りさ行ってただか?」
村外で畑仕事をしていた男が、ダリルへ声を掛ける。
どうやら知り合いの様だ。
「ああ、ヤムナさん。
お久しぶりです。
狩りで山に行って来たところですよ」
にこやかに返すダリル。
どうやら知り合いの様である。
「この時期に1人で山にだかぁっ!?」
驚いた顔でダリルをみるヤムナ。
只でさえ過酷な深山での狩り。
身体が出来上がったとは言い難い少年が1人で籠もるのは過酷と言えよう。
「ゼパイル師匠からの課題ですよ。
これで認めて貰えば、ハンターギルド加入に向かわせて貰える事になっているんです」
嬉しそうに告げる。
「そ、そうだか…」
ヤムナはドン引きで応える。
ハンターギルドへの加入に、その様な試練は元来不要。
その様に敷居が高いのあれば、ハンターが不足するであろう。
「ま、まぁ…
良かっただな。
その引いているソリに載せてんのが、今回の成果だか?」
「ええ。
この狩果で認めて頂ければ良いのですが…」
少々不安気な表情を見せる。
そんなダリルを呆れて見るヤムナ。
川に浮かぶソリに積まれた獲物はヤムナの位置からは丸見え。
どう見ても十分な成果だと思われる。
何を不安がるのであろうか。
そんなダリルへヤムナが告げる。
「村長さのトコへ持って行くんだべ?
オラの荷車さソリば載せて行ぐべか?」
その様な事を。
「良いんですか?
」
「んだ。
途中で山での事さ話してくれれば良いべなさ」
苦笑するダリル。
村では娯楽が少ない。
故に珍しい話に飢えている。
春先とは言え深山は過酷。
故にこの時期の深山へ赴く者は珍しい。
その話が聞きたいのだろう。
村に着き荷車を手配してソリより荷を移す。
手間は同じ。
いや。
荷車を手配する手間を考えると、ヤムナの申し出は有り難いと言えるだろう。
ダリルが承諾すると、ヤムナとダリルはヤムナの荷車へ荷を移す。
最後に大型ソリを積み込み縄で結わえた。
かなりの積載量となったため、牽引が大変となる。
ヤムナが引くが…
「う~ん…
ちと、無理だか…」
困り顔。
「俺が引きますよ」
苦笑いしながら告げる。
「んだが、ダリルさに引けんだべか?」
懐疑的なヤムナ。
彼も農作業にて培われた膂力持ちである。
自分が引け無い重量を積載した荷車を少年が牽引。
無理と思うのも仕方あるまい。
「まぁ、遣ってみるだけでも」
そう告げたダリルに、呆れた様に場を譲るヤムナ。
そしてダリルが荷車を引くと…
最初は軋みを上げ動かなかった荷車が、徐々に動き始め…
遂には動き始めたではないか。
「おったまげたなや」
唖然とするヤムナであった。