狩り人43
討伐予定地は本隊が到着してから慌ただしくなっている。
合流した工兵達や騎士の従者達も搬入作業に加わり忙しなく動いていた。
輜重隊からも昼食を準備する兵を極力減らし、多くの兵が搬入作業へと加わっていた。
何せ獣竜討伐は明日の予定なのだ。
今日中に討伐の準備を終えねばならない。
獣竜が討伐予定地へ近付いている。
その為、獣竜を誘導している村の猟師達の動きも忙しなくなっていた。
誘導ルート上に分散して待機を強いられていた猟師達。
獣竜が通過したポイントが増える度にフリーとなる。
昨日までは休養と誘導と監視の係りを交代にて行っていたが、現在では監視ポイントとの連絡を密にする為、宿営地との間を伝令として行き交っている状態だ。
何せ相手は獣竜。
生半可な技量では悟られる。
その様な者が監視と誘導の任へと着いたとしよう。
その者が対応中に竜惑香が切れたりすれば…
ば目も当てられ無い事になるであろう。
この村の猟師達はゼパイルと共に狩りを行っている者達。
彼の指導にて、隠形の技は他の村の猟師よりも高い。
更に村長からの依頼の元、竜惑香の扱いについて仕込んでいたりする。
竜惑香の効能が効果を発しているかは匂いにて判別可能だ。
竜にとっては分からぬが、人にとっては不快な匂い…臭いである。
だが、効果の変化にて臭いが変わる。
それにて状況を判断。
次ポイントの竜惑香を有効にし、獣竜を討伐予定地へと誘導しているのだ。
小樽へと封じてあるとはいえ、竜惑香が入れられた小樽は重い。
故にある程度の数となるが、竜惑香を入れた小樽を予め誘導ルートポイントへと設置しておく必要性がある。
咄嗟の際に、次の誘導ポイントに竜惑香小樽が存在しない…
そんな最悪事態を避ける為である。
その様な理由にて予め設置される竜惑香小樽ではあるが、設置後に警備する人員を配する必要がある。
無人にて設置し竜惑香小樽が破損でもしたら…
誘導中の獣竜が、どの様な動きを見せるか解らない。
不測の事態が発生した場合、どれほどの被害が起こるかを考えれば必要な処置だと分かると言うものだ。
酷く神経を使う任務ではあるが、討伐予定地間近まで獣竜の誘導を終えている。
明日には予定通りに誘導を終えるだろう。
最後まで気を抜く事は出来ないが。
そして近付く獣竜の情報は指揮者である村長や騎士隊長達も欲する所。
故に猟師達が監視場所と討伐予定地へ設けられた本陣とを行き来している訳だ。
本来は、この任務にダリルも参加予定であった。
ゼパイルは足の状態にて伝令任務は難しい。
故に彼が行う事は無い。
だが若く元気で足の速いダリルには打って付けの任務と言える。
猟師としてだけでなく、ハンターとしてゼパイルに鍛えられているダリルだ。
猟師達も期待していたのだが…
現在は物資搬入作業に追われていたりする。
ダリルとしては、そちらの方が有り難いのであるが…
鍛えられており膂力も高い若者であるダリルが搬入作業から抜けるのは好ましく無いと判断され…
「おい、兄ちゃん!
こっち、頼まぁ」
ダリルが返事をする前に…
「じゃぁ次は、こっちを手伝って…」
「巫山戯んなっ!
次は此方が先だっ!」
「んっだっとぉ~」
などと…
「バカは放っておいて良いから、頼まぁ」
今回の搬入に急き立てられる始末。
なかなかにモテモテである。
まぁ…
むさいオッサン達にモテても誰得と言うヤツだが…
(なんか…
明らかに、俺の作業が増えてないか?)
彼が感じた通り、ダリルに振られる作業は増えていた。
それは彼が狩りにて得た獲物を運び慣れており、荷物を搬送するコツを知っているからだったりする。
ダリルが搬入する際の効率が兵士達よりも有効だと分かってから、彼に対する扱いが変わったと言えよう。
ダリルにとっては迷惑な話ではあるが…
何せバリスタ以外にも討伐用に設置する仕掛けは多い。
人手は幾らでも欲しい状態なのだ。
それが有用な者ともなれば、手放す筈も無かった。
ダリルとしても、討伐に有効な仕掛けが多いほど良い。
出来たら仕掛けとバリスタにて討伐を終えて欲しい位だ。
そうで無い場合、彼自身が晶武器を携えて獣竜と相対せねばならなくなるだろうから…
昼食と食休みは短時間ではあるが貰えた。
ただ一斉に食事休憩とはならず、交代での休憩である。
常に誰かが作業を行っている状態なのだ。
ダリルも慌ただしく食事を終え、暫しの食休みを。
そして搬入作業を再開。
慌ただしく作業を行っている間にバリスタは組み終わった様である。
今は、正しく稼働するかの試射を行っている。
撃ち出される巨大な矢が、渓谷へ設置された的を撃ち抜く。
何台かは微調整を行い、射撃の精度を上げている。
他にも獣竜を絡める目的である網の展開訓練など…
色々と仕掛けが造り出されている様だ。
そして夕方近くに仕掛けの設置準備が完了。
明日は、いよいよ獣竜討伐である。




