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狩り人41

宿営地へと戻ると…

輜重隊にて食事が用意されていた。

それ以外に沸かされた湯も準備されている。

(食事は分かるが…

 この釜の湯は、何に使用するのだ?)

ダリルが不思議そうに釜を見る。

どう見ても白湯である。

身体を温める為に飲む?

確かに春先とは言え、白湯を飲み身体を温めるのはご馳走と言えよう。

だがスープが用意されている様なのだ。

飲むならば、そちらを飲めば良い。

湯を沸かす薪を得る労力を考えれば無駄と言えよう。

そんな風に釜を不思議そうに眺めていたダリルへ…

「どうぞ」

輜重隊の兵士より濡らし絞った布が差し出される。

「これは?」

戸惑うダリル。

受け取ると温かい。

十分な湿り気も帯びている様である。

ダリル以外の者も布を受け取っている。

ハンター達は不思議そうに布を眺めているが…

工兵達は受け取ると、当たり前の様に身体を拭き始めた。

(なんとっ!)

ダリルも偶には村で贅沢をし、沸かした湯と布にて身体を拭い身を清める事もある。

だが此処は野外で狩り場。

宿営地とは言え、元来はその様な事を行う余裕など無い。

濡れ布にて身を清める事はあるが…

湯を態々沸かし、それにて身を清めるなどと言う贅沢を考えた事も無かった。

しかも工兵達は慣れた様に平然と身を清めているのだ。

つまり、これが日常だと言う事であろう。

(っと。

 急がないと、折角の温かい濡れ布が冷めてしまうな)

そう考えたダリル。

素早く鎧と服を脱ぎ、下履き1つへと。

逞しい肉体が露わになる。

無駄な贅肉が1つとて無い均整がとれた肉体。

辺りには女性の姿は無いので遠慮も無い。

全身を隅々まで拭う。

途中で替えの濡れ布まで用意される。

至れり尽くせりと言った所か。

しかし…

周りの男達は筋肉達磨と言った感じで、些かむさいと言えよう。

それに比べダリルはギリシャ彫刻の青年裸像が如しである。

十分に鑑賞に耐えうる美裸体と言えよう。

女性達が居たらキャーキャーと鑑賞するに違いない。

間違っても腐女子、貴腐人、主腐などに見せてはならない。

酷い事になるであろう。

女性を惹き付けるだけの魅力を秘めた肉体と言えるのだ。

そして兵やハンターの中には、ダリルの肉体に熱い視線を向ける者の姿も。

ゾクッ!?

(なっ、何だっ!)

悪寒を感じ、辺りを見回すダリル。

異常は感じないが…

妙な危機感を覚え、早々に衣服を纏うのだった。

「チッ」

微かに聞こえた舌打ち。

嫌な感じが拭え無いダリルであった。

しかし…

ダリルは美男子とは言えないが、それなりに整った男らしい顔。

妙な連中に付き纏われなければ良いのだが…

まぁ、彼の実力ならば危険を己が力で跳ね退けるであろう。

さて…

身を清め終えたダリルだが、皆の様に夕食を受け取る。

大きめの丼の様な器に注がれたスープへ香草や野草が味付けして乗せられている。

それを掻き分け確認するとスープが。

スープにも茸や根菜に煮肉が含まれている様だ。

ただ…

「これは…何なのだ?」

ダリルは丼から不思議な物体を引き上げる。

薄くフルフルとした物体。

幅広く切られた長い薄皮と言った所か。

餃子の皮…具なしワンタンの麺とでも言えば良いだろうか?

無論ダリルは、麺類もワンタンや餃子などは食べた事が無い。

いや、存在自体を知らないと言えよう。

それなのに、いきなり現れたワンタン皮風の幅広薄麺である。


[きしめん]よりも遥かに薄い生地なのに、切れたり破れたりはしない様だ。

口の中へと取り込む。

無論、初めてなので啜る遣り方などは知る筈も無く…

フォークにて巻き込み口内へと。

トロミを付けたスープが幅広の麺に巻き込まれて口内へ。

(ッ!?)

「熱っぅ!」

余りの事に驚きの声が!

だが…

絹の様に滑らかで薄くフルフル、クニュクニュした麺が口で踊る。

重なった部分では厚さが増し歯応えも。

クニュクニュ、フルフル、シコッ、プッツン…モチモチと…

口の中で噛み続けると食感が変化して来て…

ああっ…

しかも、しかもだっ!

トロミが付いたスープが旨味をホールドっ!

味の染み込むまで煮込んだ肉は柔らかくホロホロと口内で解れトロケる。

逆に根菜類は表層より、やや内側までにしか味が染みて無い。

故に根菜類が本来持つ味も楽しめる。

そして、やや重くなった口を生や軽く茹でた香草や野草が癒やす。

そして、再び麺や具、スープへと挑むのである。

人は美味い物を食す時は無口となる。

しかも春先とは言え野外は寒い。

先程まで重労働を行い身体はクタクタにて空腹だ。

それでいて湯にて温めた濡れ布にて身を清めサッパリした後。

これで食が進まない筈が無い。

いや。

ただでさえ空腹は最高の調味料とも言える。

そこに未見の美味たる食事。

(至福だ)

染み々と思いお代わりをする、ダリルであった。

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