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狩り人04

食事を終え武具の手入れを行う。

寝具に使った毛皮もソリへと積み込む。

その様な事をしている間に日が昇った様である。

外より小鳥の囀りが響いて来た。

「さて、帰るか」

山で過ごした7日の間の収穫は、まずまずと言って良いだろう。

雪兎27羽、雷鳥31羽、オコジョ7匹、白狐1匹。

熊や狼、猪は避けた。

特に熊と猪は狩っても持ち帰る事はできないであろう。

所詮、人が1人で持ち運べる量など知れているのだから。

狼は群で襲って来るから厄介だ。

だが、この辺りの群はゼパイルと共にあら彼方討ち取っている。

余所から流れて来ない限りは群に襲われる事は無いであろう。

ダリルはソリを引いて穴蔵を出る。

ソリにはストッパーを取り付けてあり、それにてソリの挙動を制御しながら山を下る訳だ。

暫くは緩やかな下り坂が続く。

傾斜がキツい場所を避け迂回しながら進む。

途中で道端の狭い難所を通り抜け、山裾へと。

雪の層が薄くなって来た頃、川が見えて来た。

ダリルは川へソリを移動させて浮かばせる。

来る時も川にソリを浮かべて引いて来た。

この度は、その逆を行う訳である。

その様にしなければソリの底が地に擦れ傷んでしまうからだった。

「少し急ぐか」

ソリを制御しながら山を下るのは、殊の外労力が掛かり時間を有した。

故に今は夕暮れ時となってしまっていた。

此処から急いでも村へ辿り着くのは深夜となるであろう。

(強行するのは危険か…)

夜の闇は濃い。

正しく墨を流した如しである。

その様な時間帯に異動するのは望ましくはあるまい。

そう判断したダリル。

川沿いの木にソリを繋留する。

ソリには穴蔵暮らしで残った薪を積んである。

それでも少し心許ない。

多少は補充したい所だ。

春先とは言え枯れ木は多い。

故に近場の木立近くより枯れた小枝を広い集める。

そして日が沈む前に火を確保したのだった。

火に凍らせたパン粥が入った鍋を翳す。

辺りに良い匂いが漂い始めた。

程良く煮えると椀へと掬って食す。

一日中歩き続けた身には、温かい食事は有り難い。

一杯の粥が身に沁みる思いだ。

そんなパン粥を食していると、何かの気配が。

ダリルは椀を置き弓と剣を引き寄せた。

灯りの届かぬ位置に何かの気配が。

(粥の香りに引き寄せられたか)

この季節、飢えた獣が人里の炊事で薫る匂いに誘われる事がある。

春先の今、まだまだ餌は少ない時期と言える。

特に若い獣達には辛い季節と言えよう。

その様な若い獣が空腹に堪え兼ね村へ姿を現すのである。

無論、その様な獣は駆除される。

だが…

村にさえ堪え兼ね現れる事がある昨今、村の外でこの様な香りを漂わせたのだ。

匂いに釣られて現れる獣がいても、おかしくはあるまい。

だとしてもだ。

ダリルも大人しく襲われる気など毛頭ない。

既に剣は鞘から放たれている。弓も考えたが…

この暗闇では相手の所在が掴めぬ。

闇雲に撃っても意味は無いであろう。

ダリルは体勢を整え身構える。

視覚だけに捕らわれない。

匂いや音。

いや、感働きまで駆使して気配を探る。

気配は1つ。

潜んでいるのか?

いや、複数潜んでいるならば、既に襲い掛かって来ている筈。

過信禁物だが、恐らくは一匹であろう。

ダリルが気付いて警戒しているにも関わらず、未だに去らない。

これは己とダリルの力量を計っていると考えて良いだろう。

(恐らくは狼だろう)

そうダリルは推測する。

山オヤジ(熊)ならば、己の力量を信じて襲い掛かって来ているだろう。

猪ならば、何も考えずに突進だ。

稀に現れる虎などの大型肉食獣ならば、端から迷いなどしない。

そう考えると、狼としか考えられない。

そう判断を下す。

既に十分な狩りを終えての帰路。

無益な殺生は望む所では無い。

それでも、掛かる火の粉は払わねばならないが。

草むらにて動きが。

現れたのは白銀の毛皮を纏った狼。

若い個体なのだろうか。

ガリガリに痩せた餓狼である。

飢えに負け、粥ね香りに組み敷かれ姿を現したといった感じだろうか。

その目は血走り、爛々と輝いている。

ダリルは哀れには思ったが…

(せめてもの情けだ。

 苦しまぬ様に逝かせてやろう)

その様に考える。

ダリルは懐から投げナイフを取り出す。

一本一本が革の鞘に収まった物だ。

ダリルは鞘から刃を抜くと、餓狼へと放つ。

鋭い一撃。

避ける間もなく突き刺さるナイフ。

【グルルルルルッ】

脇腹に刺さったが、意に介さず襲い掛かって来た。

ダリルはサイドステップにて避けながら、餓狼の左脇腹を剣で切り裂く。

【ギャワン】

堪らず悲鳴を上げる餓狼の首に苛烈な一撃が!

胴から切り離される頭部。

胴からブシュッと血が迸る。

そしてグラリと倒れる餓狼の体。

(苦しまぬ様にと思っていたのだが…

 俺もまだまだだな)

倒れた餓狼を見ながら、その様に思うダリルであった。

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