狩り人39
ダリルが工兵と共にバリスタの一部を運んでいる間に、ゼパイルと射手兵は軽めの部品を持ち高台へと登る。
手前の高台へと荷を置き、2人は更に高い場所へと歩みを進めていた。
ダリル達が最初の空き地へと足を踏み入れた時には、2人の姿は無かった。
もう一方の空き地は此処よりも登った所にあるのだが、雑木林が死角を作り此処から伺う事はできない。
「ふぅ。
此処で良いのか、これ?」
汗だくになりながら荷を降ろすダリル。
「出来たら、そうして頂きたいものですなぁ」
思わずっと言った感じで告げる工兵の1人だった。
そんな事を彼らが話している頃、ゼパイルと射手兵は件の空き地へと辿り着いていた。
此処は空き地と言うよりは渓谷側へと張り出した棚と言った場所である。
棚下は死角となるが、迫り出す形の場所は死角が少なく敵を狙い撃つには最適であろう。
「ほぉぅ。
これは狙い放題っと言った風に、御誂え向きな場所ですなぁ~」
ニンマリと。
根っからの射撃手なのだろう。
此処からバリスタを撃つ様を鑑みて、満足そうに頷く。
「此処には是非とも設置せねばっ!
優先的に作業を行わせるべきでしょうなっ!
この事案は最優先ですぞっ!」
少々興奮気味に告げる射手兵。
余りの興奮ぶりに、ゼパイルが思わず引く程であった。
そして、その様に苦笑いを浮かべつつゼパイルも頷く。
「そうだな。
俺としても、此処には1台を是非にでも設置すべきと思っていたのだ。
だがな…
設置が難しい場所でお勧めの場所が、この先にあるとしたら…
どうするね?」
その様な事を。
「ほぉぉ~ぅ。
それは興味ありますなぁ~」
ニィ~ンマリっと。
そして2人は更に移動。
そこは件の棚から先に少し登った所に現れた崖を降りた場所であった。
先程の棚の様に此方も壁面より迫り出している棚ではある。
渓谷奥を俯瞰する位置に在り、上側を崖がオーバーハングして半分覆う半洞窟的な場所だ。
索敵され難く狙い易い。
狙撃するには、またとないビュースポットと言えよう。
バリスタを設置するなら正しく此処っ!
そんな理想的な場所とも言える。
「ホゥホゥホゥっ!
此処はっ、此処は、良い。
良いですなぁっ!
実に良いっ!
高さも程良く、実に狙い易い。
しかも地形的に下からは視認し難いときては…
此処は是非にとも設置したいものですな」
その様な事を。
そんな彼にゼパイルは呆れて告げる。
「おいおい。
確かに此処は射撃ポイントとしては適しているだろう。
だがな。
短期でバリスタを運び込み設置するには適さんぞ。
強化クロスボウならば、どうかと思うが…
その場合は射程に難があるがな」
告げられ興奮が収まった彼が思案する。
冷静に考えればゼパイルが告げた通りであろう。
だが…
「惜しい…
実に惜しい。
これ程までにバリスタの射撃に適した狙撃ポイントは稀ですぞっ!
これは苦労してでも設置するメリットがあると思うのですが…」
その様な事を。
彼が無理にでも告げたならば、設置の方向にて話が進む可能性がある。
何せ、この件については、騎士を率いる隊長と村長から全件 を委任されている。
その任命時に同席し、それを知っていたゼパイルは内心焦る。
(しまったっ!
調子に乗って要らぬ事を教えたかっ!)
ロープなどを用い人数を掛ければ搬入も可能ではある。
多大な労力が必要であろうが…
そして労働者として駆り出されるのは工兵。
そして若いダリルであろう。
足の悪いゼパイルには、この手の労働は不可能。
移動や軽い荷物の搬送ていどであれば、片足を庇いつつも行えもする。
だが、重量物の搬送や足を踏ん張る作業などは困難。
とてもでは無いが作業に参加できるものでは無かった。
張り切って戻り始めた射手兵を溜め息を吐いて見るゼパイルであった。
そして…
2人が合流し、絶望的な眼差しで2人を見るダリルと工兵達の姿が…
彼らの搬入と言う絶望的な戦いが、今、幕を開けるのであった。




