狩り人38
本隊を出た2人は荷馬車と工兵を伴い進む。
バリスタとハンター達の糧食のみに荷を限り、軽量化による高速移動を可能にした布陣だ。
故に人数も必要最低限に絞られており、護衛はゼパイルとダリルのみとなっている。
護衛では無いが、他に兵が1人同行している。
バリスタを射出する射手である射手兵だ。
彼にはゼパイル達が選定したバリスタの設置位置が妥当か確認して貰う。
その為の同行であった。
順調に行軍を進める本隊と討伐予定地との距離は、最早さほど離れていないと言えよう。
とはいえ、ゼパイル達が宿営地へと辿り着くには夕方近くになった。
矢張り荷を運ぶ為、移動には時間が掛かるのだと思われる。
とは言え、夕闇が迫るまでには時間はある。
糧食部隊には夕食の支度を命じ、2人はバリスタを設置する事を念頭に選んだ陣地へと歩みを進める。
無論、バリスタを積んだ荷馬車を伴ってだ。
バリスタを設置する予定地は5箇所。
内、3箇所は馬車でも辿り着ける場所であった。
だが、残りの2箇所は人の手にて運ばざるを得ないであろう。
バリスタを設置する予定地は渓谷の両サイドである。
ゼパイルとダリルは別れ荷馬車を誘導する。
ゼパイル側には射手兵も同行していた。
ダリルが案内する設置予定場所は、荷馬車にて荷の搬入可能な場所である。
見晴らしも非常に良く、射手が狙いを点けるのも良い場所と言える。
ただ、設置可能な広さは限られているが…
故に設置できるバリスタが2台となっていた。
ゼパイルが案内した方であるが、1箇所は馬車で搬入可能で視界も良い場所。
此方も理想的な場所と言えよう。
ただ、バリスタが設置可能な広さは1台分しか無い。
他を設置できないのだが…
「この小道を進んだ場所に、設置に良い場所が2箇所ほど存在する。
その2箇所が一番辺りを俯瞰し易く死角が少ないと言えよう。
その場所がある高台を迂回した先にも、設置は可能な場所はある。
荷馬車での移動も可能ではある。
だが見通しが悪く、射出には適さんだろう。
そちらも、一応見ておくかね?」
射手兵へと。
「そうですな。
そちらからも高台の設置予定地へは?」
「行けぬ事も無い。
だが…
此方より道は嶮しい。
物質の搬入は無理だと思って頂こう」
その様に説明。
すると射手兵が暫し思案後に告げる。
「ならば騎乗にて、そちらを視察して戻りましょう。
その後、高台にて視察し判断と言う流れでは?」
ゼパイルは軽く肩を竦め。
「俺は構わんよ。
元々、俺には指示する権限など無いのだ。
元ハンターとしての力量と土地勘を買われ、ドムドラス卿に請われて真似事を行っておるだけ故にな」
「何を仰るのやら…
ゼパイル殿と言えば、一昔前に名を轟かせた名うてのハンターではないですか。
あの英雄殿の指示に不満などあろう筈もありませぬよ」
ニコヤカに。
それを聞いたゼパイルが困った様に彼を見る。
「昔の事だ。
しかし…
俺程度の話を、良く知っていたものだな」
呆れた様に。
「ふっ。
南の村では、ゼパイル殿の活躍が子供に御伽噺の如く語り継がれております故に。
かく言う私も、若き頃にゼパイル殿の噺を聞き胸を躍らせたものです」
その様に。
北の地では語られずに知られていないゼパイルの偉業。
南では盛大に語られている様である。
その様な事になっている事を初めて知ったゼパイル。
困惑しながら、照れた様に軽く頬に朱がさす。
「う、うん。
なんだ。
兎に角、視察を行って貰えんかね?
日が陰る前に視察は終わらせねばならんのでな」
少し早口に。
照れ隠しが入っていても仕方あるまい。和やかな雰囲気が少々。
だが射手兵は直ぐに表情をキリリと引き締め告げる。
「左様ですな。
では、早速向かいますか」
荷馬車より馬が2頭離される。
その馬に乗り、射手兵とゼパイルが移動して行く。
道は騎乗にて移動するに十分な広さはある。
だが荷馬車が離合(擦れ違う)だけの隙間は無い。
故に物質輸送に使う道としては、ちと苦しいであろう。
その道を至りゼパイルが案内した場所。
開けた場所ではあるが…
成る程。
渓谷内を俯瞰するには高台が邪魔をする。
渓谷内へと入り込んだ獣竜に撃ち込むには適切な場所とは言えまい。
逆に、渓谷への入り口付近に対する見晴らしは良い。
そちらを見張るのに適した場所と言える。
ただ…
「確かに…
予定している討伐予定地への射出には適しませんなぁ。
ですが、残りの場所を確認しなければ、判断できませんぞ」
その様に告げる。
「それは、そうだろう。
では一度戻り、高台へと登ってみるかね?」
そう確認すると…
「そうですな。
ただ…
1台は必ず高台へ設置する訳です。
ならば1台分は同時に搬入させましょう。
残り1台の搬入が暗くなり不可能な場合、明日の朝に行わせば良いですからな」
その様に話が決まり、2人は荷馬車の元へと。
辿り着いた後、工兵へと説明して高台へと登り始めた。
急では無い道とは言え、荷を持っての移動は辛いもの。
ゼパイルと射手兵も手伝い登る。
(げっ!
コレを運ぶのか!?)
反対側の崖上へ工兵を案内し終えたダリルが合流。
有無を言わせず、バリスタの搬入を手伝わされる。
一番キツい搬入を手伝わされたのは仕方あるまい。
彼が一番若く体力があるのだから…