狩り人37
(エラい堅苦しいヤツだなぁ)
ダリルが呆れた様に若手騎士を見る。
ダリルは平民であり貴族では無い。
故に貴族だからかとも考えたが…
どうも他の騎士達は彼ほど堅苦しく無い様だ。
中には明らかに苦笑いしている者も。
彼らも貴族である。
それは騎士は貴族でなければ成れないからでもあるからだが…
どう見ても貴族様とは思えぬ程に粗暴な者達も居る様で…
その様な者達は逆に目立ってはいるが、貴族だから堅苦しいと言う事ではあるまい。
まぁ粗暴とは言え、ハンター達のソレ程では無いのであるが。
そんな彼がダリルを見て告げる。
「それにダリル氏を御指導なされた御師匠様だとか。
その若さで、あの弓捌きに槍捌き。
敬意に値する方を導かれた方ですからなぁ」
などと。
「お、俺ぇぇっ!!」
いきなり話を振られ戸惑うダリル。
っと言うかだ。
正直、この様な堅物に絡まれるのは御免だ。
困った様にゼパイルを伺うが、彼は放置と決めた様だ。
既に村長と打ち合わせに入っていた。
戸惑いながら溜め息を吐くダリル。
(チッ。
クソ師匠がっ!)
ゼパイルも堅苦しい彼が面倒だったのだろう。
ダリルへと鉾先が代わった途端に、ダリルへ彼を任せるつもりになった様で…
困った師匠である。
ダリルは嫌々告げる。
「ワタシは未だに独立もしておらぬ平民でして…
騎士様に、その様に賜る身では御座いませんので」
やんわりと。
相手は騎士であり貴族である。
平民のダリルとしては面倒を起こしたく無いところだ。
だが…
「いやいや。
その若さで晶武具を扱われる武才と言い、弓や槍を扱う練度と言い、武人として敬意を評するに値すると」
キラキラした目で。
(誰かコイツを、どうにかしてくれぇ~)
苦手な輩に懐かれた様で…
ほとほと参っている様である。
村の騎士達はダリルが幼い頃から親しくして来た者達。
故に彼らには遠慮は無いダリル。
気安く接しはして来たが、それでも相手が貴族と考え最低の礼節は守って来ている。
彼らは不要とは告げてはいるが、平民と貴族の身分差にて考えると越えられない一線と言うものがあるのだ。
だが、この若手騎士は、その一線を容易く越えて来ている。
ダリルにとっては、堪ったものではなかった。
彼が良くても不快に思う貴族もあろう。
その際に罰せられるのはダリルであり、彼の家族なのだから…
困り切ったダリルを見るのは珍しく、ニヤニヤと見ていた村の騎士達ではあるが、この辺りが限界だろうと口を出す事にした様だ。
「そこら辺で。
ダリルは任務にて討伐予定地にて行う事がありますのでな」
その様に執り成すが…
「ならば、我も同行して同じ任に当たろうぞ」
などと。
(なんで、そうなる!!)
ダリルは頭を抱えたい気分である。
だが…
「ならぬ!
ソナタは騎士団の一員ぞ。
任務を何と心得る。
我を通すものでは無いわっ!」
騎士団を率いる者…団長であろうか?
初老騎士が若手騎士を一喝。
「くっ!
これは失礼致しました」
恭しく頭を下げる若手騎士。
「ソナタの家柄、格は高いが…
騎士団内では関係無いでな。
心得違いせぬ様に」
重々しく告げる。
逆に、それを聞きダリルは冷や汗を流す。
つまりはだ。
若手騎士殿は爵位の高い家柄の出だと言う事に。
騎士達を率いる者ともなれば、低爵位と言う事は有り得ない。
その彼よりも高い爵位の家柄の出。
下手に問題視されれば、ダリル一家どころか村が地図から消えるであろう。
(なんで、そんなヤツが、こんな僻地の討伐任務に就いてやがるっ!)
ダリル、内心で絶叫である。
「止して頂けますかな。
我は武者修行して家を出た身。
生家爵位は関係ありませぬ。
その様な物は修行の妨げになります故に」
などと曰う。
(そら、オマの理論だからっ!
一般には通じないからっ!
っかっ!
んなら騎士団などに所属せずに、身分を隠してギルドにでも所属しやがれっ!)
そう怒鳴り付けたいダリル。
まぁ…
不敬罪が怖くて、とてもでは無いが行え無いが…
格差社会の辛い所である。
何とか問題の若手騎士から逃れ、本隊を後に。
ダリルは疲れ切っている。
ゼパイルは、そんなダリルをニヤニヤと。
「師匠…
ヒデェ~っす」
苦汁切った顔で告げると。
「甘い。
世に出たら似た様な事は多々あるぞ。
あの程度があしらえずにどうする。
世の中には、もっと面倒な事もあるのだぞ」
少し遠い目で。
過去に何かあったのだろうか?
そんなゼパイルを見て口を噤むダリル。
彼もゼパイルから何かを感じたのであろう。
少し考え込む。
そんな2人の後にバリスタを積み込んだ荷馬車が続く。
次は本隊到着に先駆け、主力武器であるバリスタを適切な位置へと設置するのが2人の任務である様だ。




