狩り人36
宿営地を後にした2人は街道へと。
そして村方面へと歩み始めた。
ハンター達により整備されたばかりの道である。
森中でも難なく歩む2人にとっては快適な道程と言える。
サクサクと歩みを進め、程なく本隊との合流を果たすのだった。
っと言うのもだ。
ハンター達が酒の下賜に釣られ張り切って道を整備したせいで、本隊の移動が想定より遥かに楽になり、思わぬ程に効率的な道程となったからでもある。
故に2人が然程移動していなくとも本隊と合流できたのだった。
本隊へと至った2人は村長の下へと。
「おお、戻ったかぇ」
柔らかく微笑みながら2人へ告げる村長。
そんな村長へゼパイルが告げる。
「思ったより隊列も伸びず、順調な行軍ですなぁ」
「うむ。
道の状態が良い故にのぅ。
ハンター連中が、此処まで良い働きをするとは思っておらなんだわぃ」
村長が愉快そうに笑っている。
「それはそうでしょうな。
我が村では安価に手に入るフォボスも、余所では稀少な高級酒。
故に酒飲み連中には憧れの逸品となっておるそうですからな。
その酒が下賜されるとなれば、張り切りもするでしょう」
村長の側近が呆れた様に告げる。
「ほっ。
アレで、これ程の成果が上がるのならば安いものだてのぅ。
まぁ…
今日はハンター達も、ゆるりと休んでおる様であるし…
何事も起こらぬ様で重畳じゃて」
ニンマリと。
完全に確信犯である。
「アレを休んでいると言うんですかねぇ?」
ダリルが呆れた様に。
「んっ?
何かありましたかな?」
側近が不思議そうに尋ねる。
「いやね。
ハンターの方々が二日酔いとやらで伏せっているんですよ。
俺は二日酔いとやらにはなった事が無いので理解できないのですが…
かなり辛そうでしたが?」
側近は、この村の出身では無かったため…
「ああ…
成る程。
ですが、自分の酒量も弁えずに飲み過ぎたのですな。
まぁ、自業自得と言えるでしょう。
酒は飲んでも飲まれるな、とも言われております故に」
村長を見ながら告げる。
村長が煩わしそうに…
「うぉほぉん。
まぁ…
そうであるな。
酒量を弁えずに飲むと、どの様になるかハンター達にも教訓となったであろうよ」
まるで良い事の様に…
「そうですな。
そうあって頂きたいものですな。
お館様」
側近が含みがある様に。
「何か言いたいのかのぅ?」
「いえ。
何も御座いませんが?」
っと、問い掛ける様に。
なかなか高度な応酬である。
周りの騎士達は遣り取りを聞きながら首を傾げている。
いや。
中には含蓄ある話として感心している者も。
村長家中の者達は、皆が苦笑いであるが…
なにせ村長が二日酔いになる度に諫めている側近が彼である故に…
「それはそうと…」
いい加減に話の流れを変えようと、ゼパイルが割り込む。
「なんじゃな?」
嬉しそうに、村長。
側近の彼は苦笑い。
「獣竜の様子を見て来たのですがね」
「ほぅ。
して、どの様な状態じゃな?」
態と興味津々といった風に。
流石にゼパイルも苦笑しながら告げる。
「今の所は予定通りですな。
見事に竜惑香に魅了されております。
故に!
一切の餌を得ておりませぬ。
餓えにより体力は落ちておりますが…」
「うむ」
ゼパイルの話を受け、重々しく頷いた後で村長が続ける。
「討伐時には竜惑香が切れた状態であるからのぅ。
まさに餓獣状態と言えよう。
まぁ…
それでも体力が落ちぬ状態よりは討伐が容易いであろうからのぅ」
溜め息を吐きつつ告げる。
そんな彼へ町より派兵された若い騎士が不思議そうに尋ねる。
「その竜惑香が効いた状態にて討伐すればよろしいのでは?」
っと。
それを聞き呆れる村長や年配の騎士達。
ダリルも呆気に取られた様に彼を見る。
「ふむ。
知らないのですな」
ゼパイルが静かに優しく告げる。
周囲の様相から、自分の判断が誤っていたらしい事を悟る若手騎士。
だが…
何が悪いのか分からず羞恥にて頬が染まる。
そして挑む様にゼパイルを見ると…
「何がでしょうか!?」
詰問する様に告げる。
それに対しゼパイルは、あくまでも穏やかに。
「それはですな。
竜惑香にて魅了中はトランス状態に近いから危険なのです。
危害を与える存在には過敏に反応する様になっております。
そして通常よりも増した力量を示す様ですな。
痛みを感じずに疲れを知らない危険な存在…
そう。
末期の麻薬中毒患者の様な状態と言えば、理解して頂けますかな?
ただ…
竜惑香の効果が切れた後であるならば、逆に、その間の反動にて肉体へ何らかの悪影響が及おばされているもの。
効果が切れる様に討伐地へ誘導できれば、勝算が上がると言うものでしてな」
知らなかった知識を訥々と諭される。
矢張り羞恥で顔は赤い侭だが…
「御講義、感謝致します」
素直に頭を下げる若手騎士。
同輩の騎士面々が驚いた様に彼を見る。
普段はプライドが高く堅物な彼。
ハンター崩れの猟師であるゼパイルへ、頭を下げるとは思わなかった様だ。
「理解して頂けた様で良かったです。
しかし…
私の様な下々の者に頭を下げられるとは、なかなか出来ませぬぞ」
感心した様に。
「確かに身分はそうでありましょうな。
ですが、武人としての力量では、全く及んでおりませぬ。
その様な若輩である私が頭を下げるなど当然の事でしょう」
真面目くさった顔で告げるのだった。




