狩り人35
獣竜の状態を確認した2人は獣竜に悟られない様に気を付けながら移動を開始する。
目指すは次の竜惑香を設置している場所である。
そこへ至る間に見付けた木の実や野草などを採取して行く。
春となり草花が芽吹く季節である。
意外と得られる素材は多い。
兎や鳥なども見掛けるが、そちらは狩らない。
竜惑香に魅了されているとはいえ獣竜が近くに居るのだ。
血臭など漂わせ、不要な刺激を与える必要はあるまい。
下手をして計画に齟齬を起こすなど、御法度であろう。
採取を行いながらも、2人は素早く移動を行う。
森の中にて足場が悪いのだが、全く影響を受けている様子は無かった。
軽く散歩をするか如く、悠々と歩みを進めて行く。
2人の歩みを見た一般人が2人と同じ事を行おうとすれば、直ぐにでも後悔するであろう。
そんな2人が前方に人の気配を感じた様である。
人の気配とは言うが、完全に近い程に気配を消しているのであるが…
先程の事もあり、2人は先程よりは気配を発している。
その為か、前方にて潜んでいる者達は2人に気付いた様だ。
「むっ。
ゼパイルとダリルか。
何故、獣竜が潜む方から、お主らが現れるのだ?」
2人は本隊と共に討伐予定地へ向かっていた筈。
なのに反対方向より現れたので、戸惑っている様である。
「早めに宿営地へ辿り着いたのでな。
大事を取って迂回して獣竜の様子を確認にな」
その様に告げられ、一応納得した様である。
そんな彼らへ本隊、宿営地、獣竜の状態について告げていく。
「獣竜の方は想定通りだが…
宿営地でハンター連中のみが宴会とは、頂けんな。
村長には我らにも一席設けて貰わねばのぅ」
少し剣呑な雰囲気で告げて来る。
ゼパイルは苦笑いしながら了承。
「村長には、その様に伝えておこう。
だが…
先ずは獣竜を討伐するのが先だな。
不満はあろうが、そちらに注力して欲しいのだがな」
告げられ、猟師も理解した様に頷く。
「まぁな。
儂も獣竜を確認したが…
アレが、この辺りに居着いては堪らん。
そう言う意味では理解しとるでな。
遣る事は遣るでな」
真面目な顔で告げる。
「うむ。
頼んだぞ」
そう話すと2人は宿営地へ向かい歩み始めたのだった。
宿営地に近い場所まで辿り着いたので、鳥を数羽ほど狩る。
今朝は干し肉と堅パンで済ませた2人。
昼は少し豪勢にするつもりなのだろう。
血抜きを終えた鳥の足にロープを掛け、背に掛け背負い宿営地へと向かう。
そんな2人が宿営地へ辿り着くと…
「ふぅ。
コヤツらは、何時になったら復活するのだ?」
相変わらず蒼い顔で唸りながら寝ているハンター達。
未だに二日酔いから復活して無い様だ。
呆れながら2人は昼食の支度に入る。
鳥を捌く。
羽を毟り残った羽を火で炙り焼き切る。
そして内臓を抜き、骨から肉を剥ぎ取る。
内臓の内て胆嚢などの食すに適さない部位は棄てる事になるが、それ以外は処置をして食材になる様に対応する。
この際、近くに小川があるのが助かる。
水に晒しながら処置が行えるからだ。
ダリルが、その処理を行っている間、ゼパイルは鍋に水を張り砕いた骨を煮出していく。
短時間にて出汁を取る為に行っているが、じっくりと煮出したよりは荒い出汁となる。
それでも時間を有効に使う事を考えると妥当であろう。
暫し煮出していると、処置を終えたダリルが内臓を持ってゼパイルの元へ。
処置を終えた内臓は叩いてミンチ状にし、それを固めて肉団子状にしてある。
軟骨も砕いて加えてある様である。
肉の方は火で炙ってある。
骨を煮出してある鍋へ内臓から作った肉団子が投入される。
灰汁を取りながら煮出し、一度肉団子を取り出す。
その後、別の鍋へ煮出して得たスープを丁寧に移す。
この際、無理に全てを移さない。
骨粉などの不要物を含む部分を破棄するためだ。
移し終えたスープへ野草を投入。
一煮立ちさせ色が変わった頃に灰汁を取り出す。
そして千切ったパンをスープへと投入。
その硬めのパンがスープを含み柔らかくなって行く。
鳥肉を焼き炙った香り、スープを煮立せた為に立ち上る香り。
良い香が辺りへと漂い始める。
普通は香りに刺激され空腹を刺激されるものだが…
「ぐっ、ぐふっ…
その香りは…」
「うぐっ。
二日酔いの身には」
吐き気を堪えるハンター達。
食欲を増す香りは、二日酔いのハンター達には別の意味で刺激的だった様だ。
そんなハンター達に呆れながら、2人はパン粥と焼き鳥を食して行く。
香草と塩が塗された焼き鳥。
香ばしく焼かれた皮を齧ると、その先に控えた肉の部分よりジワリと肉汁が迸る。
パン粥には骨から煮出された旨味、内臓肉団子より染み出した旨味が混ざり合っている。
それがフヤケたパンに含まれ…
肉団子は、そのプリプリとした食感にカリコリ、プチプチとした軟骨の食感が合わさり…
非常に、非常に、美味である。
まぁ…
2人にとっては、お馴染みな味だが…
普通の村人達にとっては、ご馳走の部類であろう。
食事をジックリと堪能し終えた2人は、後片付けを行って行く。
ハンター達は相変わらずである。
困った様に一瞥を送った後、2人は本隊へ合流する為に宿営地を後にするのだった。




