狩り人34
2人が歩みを進めていると人の気配が。
気配を抑え察知するのが困難なレベルではあるが、2人は直ぐに気配を察した様である。
逆に潜んでいる猟師達の方は2人に気が付いて無い。
2人が傍らへと辿り着いて、漸く気が付く始末である。
「ひぅっ!!」
思わず声を上げ掛け、ゼパイルに口を塞がれてしまっていた。
流石に獣竜に悟られる事は無かった様であるが、大幅に気配を乱してしまっていた。
「ッ」
動揺した猟師が2人に気付き、恥入る様に顔を赤くする。
「ふむ。
脅かすつもりは無かったのだが…
済まぬな。
して、ヤツの動向は、どうなっているのだ?」
静かな声で諭す様に問い掛ける。
「ゼパイルの旦那か。
獣竜は新たな竜惑香に惑わされている最中だな。
あの小樽ならば半日ほどは持つであろうて。
不測の事態でも起こらぬかぎり、次のポイントにて予定の刻限にて小樽が開封されような」
もう1人の年配猟師が訥々と説明。
それを聞き、ゼパイルとダリルが頷く。
そして2人も木陰より遠方の木々の間から獣竜の巨体を伺う。
獣竜は前脚にて小樽を抱える様にして伏せている。
ゴロゴロと喉を鳴らす猫の如しであった。
「うむ。
この調子ならば、明後日には討伐予定地へと至るであろうな」
そうゼパイルが1人ごちる。
その独り言に年配猟師が相槌を打つ様に。
「そうなるだろうな。
此方は予定通りと言えるが…
そちらの方は、どうなっているのだ?」
討伐準備の現状に不安を感じたための確認であろうか。
「彼方は討伐予定地にハンターの一団が辿り着いておるな。
本隊は明日の早い時間には辿り着けよう。
おそらくだが…
そう遅く無い時間には討伐予定地に討伐隊が集結し討伐機材を整えるだろう」
それを聞き年配猟師が不安気な表情を見せる。
「最近のハンター連中は粗暴と聞くが…
本隊から突出させて独自行動を許して大丈夫なのか?」
矢張り、最近のハンター連中に対する評判は良く無い様である。
「それなのだがな」
「ん?」
困った様な笑い顔を見せるゼパイルに猟師達は戸惑う。
「昨夜なのだが、村長がハンター達に酒を振る舞ってな」
ゼパイルが告げると…
「「チッ」」
猟師達が不満気に舌打ち。
酒で誤魔化し足止めでもしたとでも思ったのであろう。
面白く無さそうである。
カーライム村の住人は酒好き。
そんな彼らが獣竜の監視にて森に張り付いている間、ハンター連中は宴会である。
面白い筈も無かった。
だが…
「振る舞い酒は昨夜のみでな」
そんな彼らに苦笑しながらゼパイルが告げると…
「んっ?
旦那ぁ。
ならばヤツらは今、フリーっと言う事なのか?」
困った様な、不安を湛えた様な、そんな顔でゼパイルへ尋ねる。
「それなのだがな」
前置きを告げるゼパイルを心配気に見詰める猟師達。
「ハンターは皆、体調を崩して寝込んでおるのだ」
困った様に。
「へっ?
毒でも盛ったので?」
猟師達が不思議そうに尋ねる。
「人聞きが悪い事を言わんでくれるか。
俺には理解できんのだが…
どうやら二日酔いと言うヤツらしいのだ」
「二日酔い…ですか?」
初めて聞く言葉に、首を傾げる2人。
すると2人の替わりに獣竜を見張っているダリルが、獣竜から眼を離さずに告げる。
「村長が村の宿屋で時々なっているアレですよ、アレ」
軽く肩を竦める。
「ああ…
あの顔を蒼くして唸っている。
アレか?
村長の持病だと思っていたんだが…
アレは村長以外でもなるものなのか?」
実に不思議そうである。
「うむ。
どうやら酒を飲み過ぎると、村長と同じ様になる…らしい…ぞ?
俺には理解できんのだが…
そう言う事らしい。
つまりはだ。
村長がフォボスにてハンター達を二日酔いにして足止めした…
そう言う事らしいな」
「それに。
フォボスを振る舞う事を餌に、道中の整備をハンター達にさせてましたよ。
ヤツらに遣る気を出させるなんて…
なかなか出来る事では無い様に見えたのですがね。
流石は村長です」
ダリルが感心した様に頷きながら告げる。
「成る程な。
本隊の到着予定が早まっていると感じたが…
流石は村長と言った所か」
年配猟師も感じ入った様に頷いている。
そしてダリルと見張りを替わりながら告げる。
「次のポイントへ待機している連中に、此方は想定通りと伝えてくれるか」
そう受け、ゼパイルが頷き告げる。
「うむ。
では、彼方へは此処の状態を伝えよう。
俺達はその後に一度宿営地へと戻り、宿営地の状態を確認してから本隊へと赴くつもりだ。
何か言伝などは?」
ゼパイルの問いに暫し黙考し、首を軽く振って告げる。
「別に無いが…
強いて言うならば…
俺達にも一席ほど設けて貰いたいものだな」
ニヤリと。
ゼパイルも笑みを浮かべ頷き。
「伝えよう」
そう返答し、軽く手を上げた後に場を後にするのであった。