狩り人33
ゼパイルとダリルは宿営地から移動を始める。
辿るルートは獣竜の予定進行ルートを避ける迂回ルートだ。
獣竜は竜惑香にて誘導している。
故に想定した誘導ルートから逸れて移動する事はあるまい。
それが2人の判断である。
逆に素直に想定ルートを辿れば、想定外に進行速度が増していたら遭遇してしまう。
その危険を避ける為に迂回しつつの移動でもあった。
その迂回ルート上には、獣竜の進行を監視している猟師が潜んでいる。
村の猟師だ。
彼らはゼパイルが竜惑香を仕掛ける際にもサポートを行った者達でもある。
熟練の狩人である彼らが行う隠形の技は、獲物に己が気配を悟らせないレベル。
獣竜を見失わない距離にて獣竜を監視し続けている。
そんな彼らに接触し情報を得るのも目的の1つであった。
ダリルはゼパイルより竜惑香の造り方を習ってはいた。
だが、実際に竜惑香を使用したのは初めてである。
故にゼパイルに勘違いして告げる。
「しかし…
竜惑香とは、ここまで便利な品なんですね。
竜を思惑通りの場所まで誘導できるなんて…
ここまでの効能があるとは、想像していませんでしたよ」
(これは狩りに色々と使えそうだ)
その様に考えている様である。
だが…
「いや…
竜惑香は扱いが難しい品。
間違っても安易な扱いは拙い。
よくよく考えて運用せねばならぬであろうよ」
安易に考え始めているダリルに気付いたゼパイルが諫める。
「それは?」
不思議に思いゼパイルを見る。
「竜惑香が竜を惹き付ける力は強大だ。
その効能に偽りは無い。
だからこそ、扱いが難しいとも言える品なのだよ」
効能が高い。
良い事ではないか。
ゼパイルが何を言いたいのか理解できず、戸惑った様な視線を送る。
「この度は北の地であり、更に春先。
そんな、この地だからこそ行えた作戦と言えよう。
これが様々な竜種が群れ集う南の地であったならば…
どうなっていたであろうな?」
告げられ気付くダリル。
様々な竜種が群れ暮らす南の地。
そんな中で竜惑香を使用したら…
そう。
目的の竜以外の様々な竜種が竜惑香に惑わされ集まるであろう。
ターゲットの竜のみを誘導するなど出来る筈も無いであろう。
そう考えたら、どこでも今回の作戦が使用可能で無い事は明らかである。
ゼパイルが告げた事に気付いたダリルが、少しガッカリしたような表情を見せる 。
そんなダリルに苦笑し、告げるゼパイル。
「本来は逃走に用いたり、進行ルートを逸らす為に使用するのが主な使い方だな。
それ以外だと、落とし穴などの罠へ竜を誘導するケースか…
これは大量発生した竜種の間引きに使われる事が多い技法だな。
大型の竜種を特定して誘導するケースは稀と考えた方が良いだろう」
「ようは使いようと言う事ですか?」
「うむ。
そう言う事だ。
後…
竜惑香を使用する場合の注意点がある」
何を言い出すのかと、思わずゼパイルを見るダリル。
そんな彼に苦笑しながら告げる。
「竜惑香は正に竜を惑わす品。
アレに惑わされている間は、空腹も忘れ魅了され続けるだろう。
そして竜惑香が切れたら竜惑香を求めさ迷う…
暫くは惑わされている状態と言う訳だな。
だがな。
それも何時かは切れるものだ。
そうなった場合、惑わされ忘れていた飢餓が竜種を襲うだろう。
飢えた獣は厄介だが…
飢えた竜種は更に厄介で危険な存在となる。
扱いを誤ると危険。
良く覚えておく事だ」
その様に教える。
だが…
「師匠…
その話が定かであるなら、現在誘導中の獣竜も餓えて危険と言う事では?」
少々蒼くなり尋ねる。
その問いに軽く頷きゼパイルが告げる。
「そうだな。
おまえが気付いた様にヤツは餓えているであろう。
だがな。
竜惑香に惑わされている間は空腹を感じぬらしいのだ。
そんな調子で長い間を空腹で過ごせばどうなる?
ヤツとて霞を喰らって生きている訳では無い。
喰わねば衰えもしよう。
さすれば、狩るリスクも減ると言うものだ」
つまり、この度の討伐予定地へ獣竜を誘き寄せる作戦は、飢餓にて獣竜を弱らせる事も想定されていたと言う事である。
その事については説明されていなかったダリルは、呆れた様にゼパイルを見る。
その様な遣り取りを行いながらも、2人は歩みを進める。
もう暫し歩みを進めると、狩人が潜んでいるポイントへと辿り着くであろう。




