狩り人30
道を通りながら討伐予定地へと。
道幅は、それほど広い訳では無い。
馬車1台が通れる程度であろうか。
ハンター達は全員が歩きであるから、道幅による問題は発生してはいない。
ただ行軍途中で馬車の往来に支障がありそうな箇所を、先行するハンター達が除去する事となった様だ。
倒木が現れたり、道に太い木の枝が張り出していたりなど、面倒な箇所が散見された。
とは言え大所帯とも言えるハンター達。
作業的には時間も掛からずに対応している。
作業的にはだ。
「チッ。
俺達ゃぁハンターだぜぇ~
んで、こんな作業員みてぇ~な雑用をせにゃならんのでぇぃ」
「そうだ、そうだぁっ!」
ハンター連中には大いに不評の様だ。
だが…
「後続は荷馬車を運行させるだけで精一杯だろう。
そして荷馬車の到着が大幅に遅れたら、全く支援なしで獣竜と戦う事となるが…
お主らは、それでも良いのかね?」
ゼパイルが静かに尋ねる。
別に威圧している訳でも無いのだが…
ゼパイルの威厳に気圧されるハンター達。
「それって…
バリスタや毒、仕掛け罠なしで戦えって?
食料も手持ち分しか無いから…
現地調達?
この人数分を?
まぁ…
俺は自前で調達するから、良いか」
そんな連中にダリルの呟きが追い討ちを。
地の利があるゼパイルやダリルならば、食材の調達も行えるであろう。
だが人数が人数である。
全員分を確保できるとは、とても思えない。
そうなるとだ。
荷馬車が運ぶ糧食頼りに成らざるを得ないであろう。
そこまでを理解し、渋々と作業を再開するハンター達であった。
その姿を見て引率のギルド職員が溜め息を。
ゼパイルが苦笑して告げる。
「苦労している様ですな」
告げられたギルド職員が嘆く様に。
「最近は特にハンターの質が落ちてましてな。
竜種が北上して来るのが稀になったなもあります。
また騎士様方の練度が上がり、強い獣の討伐が行われたりもしているのですわ。
竜種北上が稀になったのは南方近隣諸国にて竜種がこの国へ来る前に狩り尽くされる為でして。
我が国と比べて南方諸国のハンター質は高いですな。
そして王政方針にて騎士の練度底上げが行われております。
故に辺境を除き非常に安全で安定した狩場が形成された訳です。
また現在のギルドマスターが庶民派を謳っておりましてな。
就任して暫くした後にハンター初期登録料を無料にしたのですわ」
「な、なんとっ!
無料ですとなっ!」
眼を剥くゼパイル。
初期登録料が掛かるのは当然。
その様に思い込んでいた。
いや、常識といって良いであろう。
この村でハンター家業に興味がある者はいない。
故に、ハンターギルド初期登録料に関する情報など流れて来て無かったのである。
驚くゼパイルへ、更に彼は続ける。
「しかも、加入可能年齢も8歳まで引き下げられてましてな」
「それは…」
ゼパイル、絶句。
幼い者を過酷なハンター家業へ。
無謀とも言えよう。
だが、ゼパイルの考えとは違う方針が打ち立てられていた様だ。
「実はですな。
ハンターとなる人員の囲い込みを狙っているのですわ」
「はぁ…」
戸惑いながら相槌を。
「他国や従来は、初級、中級、上級、ランカーがハンターランクでしたが…
現在では見習いと序級が追加されとりましてな」
意味が分からず、不思議そうに彼を見るゼパイル。
初級未満のハンターランクを増やす意味が分からない。
獲物の強さはハンターランクに合わせて弱くはならないのだから。
だが…
彼の回答はゼパイルの予想を超えた。
「一般からの雑務依頼を募りましてな。
その対応を見習いハンターに行わせる訳です。
町中での依頼ですから危険はありません。
ギルドの仲介料利益としては微々たるものですが…
ハンターギルドへの加入者は確実に増えとりますな。
そして見習いは小遣い以上の金を得る事で、装備を整える資金を得る訳です。
そして序級は討伐なしにて採取依頼だけとなります。
これは町外の環境に慣れ、更に採取依頼を熟すことで報酬を得る。
序でに得た金で充実させた装備にて兎などを自前で狩る。
まぁ、鍛練期間ですな。
序級からはベテラン勢による有料講習も設けております。
金になる大型肉食獣や竜種が減った分をハンターを増やして賄う。
これがギルドマスターの方針なのですが…」
一獲千金的な遣り方が難しいならば、低報酬を大量に。
そう言う事なのだろう。
その方針は分からなくも無い。
無いのだが…
その分、ハンターの質が低下したと…
(これは…
危ういのでは無いのか?)
思わず懸念する、ゼパイル。
実はハンターギルドマスターもハンターの質低下には頭を抱えていたりする。
誰でも加入できる為、程度の低い輩も多数抱える事にもなっている。
無論、ギルド内規約にて厳しい制約や罰則もある。
それを理解せずに不正を行い、過酷な罰則を与えられる者も多いのだとか。
新たな試みによる弊害とも言えよう。
だが…
この国にて行われた試みは意外に好評な様で、近隣諸国にもこのシステムが導入されつつあるのだとか。
(世の中、何時の間にか変わっているのだなぁ~)
しみじみと感じ入るゼパイルであった。