狩り人24
村長の一言にて虎の討伐を行う事になったダリル。
(何で、こうなったし)
頭を抱えたい気分である。
ゼパイル指導の元で晶武具である槍を扱える様になったダリル。
そんな彼は晶武具習熟のため狩りへ連れ出される事に。
鹿や猪、野犬に狼を経て虎の単独討伐へと。
ハッキリ言って晶武具を使った狩りは反則とも言える。
虎程度の討伐であれば楽勝と言えよう。
虎程度ならばだ!
ゼパイルと共に獣竜ガルオーダを偵察に行って…
(む、無理だ…
あれは人が狩れる生き物ではない…)
真っ蒼になって、唖然とガルオーダを見たものだ。
予想進行ルートを山の尾根にて見張る。
遠方に関わらず姿が確認できたそれは、大熊を軽く屠って喰らっていた。
晶武具を用いるならいざ知らず、通常ならば死闘を演じなければならない相手。
此方が晶武具で苦戦せずに倒せる様に、ガルオーダも容易く屠っている訳だ。
いや。
あの素早い動きを鑑みるに、晶武具を使った此方よりも遥かに強いであろう。
少なくとも無傷で倒せる相手とは、とても思えなかった。
そして無傷で済まない場合…
それは死へ直結する可能性が高い。
ダリル達が暮らす世界では医療技術は低い。
アルコール消毒位は民間治療的に普及してはいる。
だが縫合などの知識は普及していない。
薬草を摺り潰しペーストにした物を患部へ塗る位か。
傷が悪化して死に至るなどザラだ。
ただ、体内に保有する雷晶石の力が強い者は自己治癒力が高いきらいがある様だ。
それでも負傷を負えば死ぬ可能性が高い。
ダリルは修行が明けたばかりである。
町からベテラン勢が大挙して現れたのだ。
新人の彼が最前線の死地へ強制される。
そんな理不尽な事はないであろう。
そうダリル自身は考えいる。
それも無理はあるまい。
ダリルは基本、ゼパイルとしか狩りへ赴いていない。
故に自分の力量が如何程なのかを正しく理解してはいないのである。
彼自身の認識では、自分はまだまだ新人レベルの力量。
ハンターになるには、彼と同等の力量が必須。
助勢に現れた者達はベテラン勢な訳で…
全員がダリルより力量は上。
それが当たり前だと思い込んでいる。
実際にはベテラン勢にも負けぬ力量を持っていたりする。
その様にゼパイルと村長が鍛え上げてきたのだから当然と言えよう。
元々才能があったのであろう。
だが何よりも貪欲に力を求め努力する姿勢が今の彼を作っとも言える。
ひたむきで真面目なのだが…
その真面目さが逆に自分を新人として認識させ、己を討伐勢最弱と思い込ませもしているのだった。
故に…
(新人の俺が晶武具を与えられるのは時期尚早。
それに弱い俺が最前の死地に何故?
死にに行く様なものだし、足手纏いであろうに…)
その様に思っていた。
だからこそ、晶武具を携えて村を闊歩して見せたのだ。
晶武具を携えるに相応しい者が現れ、晶武具を貸し与えられる。
そう考えたのだが…
「無論、ダリルの力量を見て頂く為、狩りの動向を観て頂こうわぇ。
進軍ルート上に虎が陣取っておりましてな。
虎がおる場所は高台より睥睨できますれば、そこより戦いを観れましょうぞ」
村長が、その様な事を。
(俺は見せ物じゃねぇっ!!)
村長の話を聞いたダリルは激高。
だが師匠でもある村長に対し嫌は無い。
それに村長の立場からしたら、ダリルが虎を討伐した事を証明せねばならないであろう。
そうせねばダリルが晶武具を持つ事を認めない者が現れるやもしれない。
そうなれば、再び騒ぎが起こるであろう。
それを懸念しての処置。
まぁ…
ダリルも先程の騒ぎにおいて、外部の者へ晶武具を貸し与える危険性が分かった。
ハンター共は堂々と下賜されると曰っていた。
貸し与えられるでは無く、下賜だ。
つまりは貰い受け返さない気満々と言う事。
晶武具は個数が少なく稀有な存在。
扱う事が出来れば、狩りが格段に遣り易くなるであろう。
狩りに使わなくとも売り払えば一財産である。
無論、珍しい品なので奪っても売ると足が付き易い。
そして晶武具の無許可売買は重罪。
所有権無き者が売買し発覚した場合は、売り手も買い手も無条件で死罪。
罪は親類縁者にまで及ぶ。
これは、この周辺諸国だけで無く、広く一般的な常識となっていた。
その晶武具を合法的に手に入れる機会。
可能性に過ぎないとしても、目の色が変わろうと言うもの。
獣竜討伐にて武功を上げ、その功労賞の報酬としてなら要求も出来よう。
そして武功を上げるには晶武具が欲しい所だ。
それが貸与されると言うのだ。
少々強引な手を用いてでも借り受けたい。
そして手柄を盾に下賜させる事が出来れば…
野望は尽きない様である。
村長としては獣竜との戦いを経た後なら苦情は起こらないと思っていたのだ。
(余計な真似をしよってからに。
困った奴じゃて)
まぁ、ダリルが己の力量にて晶武具を貸し与えられる事に納得できて無い事は知っていた。
だが、この様に手で反旗を翻すとは予想していなかったのである。
そんなダリルの虎退治を味方に見せ、その結果にて納得させると同時に、その反応にてダリル自身の自覚を促す。
その様な心積もりである。
(まぁ…
アヤツは少々鈍い所がある故、納得せぬやもしれぬがのぅ)
溜め息を吐きつつ思う村長であった。