狩り人22
「はぁ!?
俺が晶武具なんか扱える筈が無いじゃないですかっ!」
ダリルが慌てて告げるが…
「それはお主が判断する事ではないわぇ」
村長が一蹴。
「放術師殿と違い晶武具使いは晶石を操る必要は無いのじゃ。
柄に刻み込まれた晶紋に反応するか、せぬかじゃて。
晶紋が使い手と晶石を繋ぎ合わせ晶石の力を引き出す故にのぅ。
まぁ…
晶紋にて力を引き出せねば、使いたくとも晶武具を使えぬのじゃがな」
そう説明する。
それを聞いたダリルが尋ねる。
「つまり…
俺は、その晶武具の柄を触れば良いんですか?」
「そう言う事じゃな。
地下の武器庫より晶武具を持って来させる故、庭へ移動するぞぇ」
村長が息子へ指示し、晶武具を取りに行かせる。
ダリルは村長に促され、彼について外へ向かうのだった。
(晶武具かぁ…)
ダリルも話には聞いた事はある。
巨種を華々しく討伐する英雄譚。
村を訪れた吟遊詩人達が朗々と語る唄の中で英雄達が振るう武具。
それが晶武具である。
面白可笑しく語られる物語。
そんな物語を紡ぐスパイスとしての小道具が如く語られる品だ。
(実在するんだなぁ~)
完全に作り話程度に聴いていたダリル。
その作り話に出てきた武具が実在。
(まさか…
あんな有り得ない語りまで実話とか…
有り得んだろうな)
そんな事を考えながら村長の後に続く。
何せ数人で巨種を狩るなどという話まである程だ。
楽しい法螺話程度にしか、人々には認知されていないのだから…
村長宅から外へ。
近くには騎士達の鍛練場が存在する。
村長は、そこへ向かっている様である。
鍛練場では若い騎士見習い達と準騎士達が汗を流している所だった。
そこへ領主である村長と幹部騎士達が現れたので、彼らはギョッとする。
全員が揃って現れるなど稀。
何事かとドヨメいていた。
鍛練場へ着き暫し待つ。
何が始まるのかと、騎士見習い達と準騎士達は興味津々に村長達を伺うのだった。
そこへ村長の息子が晶武具である槍を携えて現れた。
蒼く染められた長柄が美しい槍である。
穂先には長めの菱形をした刃が取り付けられている。
蒼い長柄には美しい紋様。
それは穂先の刃の部分にまで届いていた。
「取り敢えず、これにしてみましたが…」
そう告げながら村長へ槍を渡す。
「ふむ。
ダリルが扱えるとして、槍が一番妥当だと言えようのぅ。
良かろうて」
槍は剣に比べ接近せずに扱える武具だ。
剣でも大剣ならばリーチもある。
だが、重量が違う。
重みの増した武具を扱うには膂力もであるが、それなりの技量と経験が必要であろう。
ダリルは駆け出しのハンターとしては十分に通用する。
いや。
1人前として独り立ちさせても申し分ないレベルと言えよう。
その様に鍛え上げてきたのだから。
そんなダリルでも一流の戦士たる騎士やゼパイルには遥かに劣る。
技量、経験共にだ。
そんなダリルが扱うには、槍は最適と言えるだろう。
「では、この槍を持ってみよ。
先ずは持つだけで良いでな」
村長が告げ、ダリルへ槍を手渡す。
「分かりました」
そう応えながら槍を受け取る。
しげしげと槍を見ながら受け取った。
(これが晶武具なのか?)
どう見ても普通の槍だ。
(担がれたかな?)
そんな事を思いながら、槍の長柄を持つ。
(くっ!?)
槍を持った途端!!
ダリルは体から何かが吸い出された様な倦怠感を覚える。
思わず膝を突きそうになり、グッと踏ん張った。
その様にダリルが倦怠感に襲われた時、槍の長柄部分が淡く発光!
穂先の刃が熱せられ始めた。
「ほぉぅ。
持つだけで発動させよるか」
村長が、面白そうに目を細める。
ダリルは最初に襲って来た倦怠感が収まると、後は何事もない感じで佇んでいた。
(今のは、いったい…)
何が起こったのか分からずに戸惑うダリル。
そんなダリルへ村長が告げる。
「決まりじゃて」
っと。
「何がですか?」
いきなり告げられ戸惑うダリル。
「何をかぇ?
お主、自分が晶武具を起動した事に気付いておらなんだのか?」
しげしげとダリルを見る。
「えっ!?
俺がですか?」
発動させた意識などは無い。
いきなりの倦怠感に戸惑っただけ。
それを伝えると…
「呆れた奴じゃわい。
普通は晶紋を擦り、晶武具に組み込まれた晶石と身に宿る雷晶石とを同期させるものじゃ。
そうして晶武具を起動させるのじゃが…
お主には晶武具を扱う才能がありそうじゃなっ!」
嬉しそうに、ダリルの背をバンバン叩く村長。
ダリルは自覚も無く、困った様に村長を見る。
そんな戸惑う彼を見ながらゼパイルが告げた。
「これで少しは戦力が増強になるだろう。
ダリルは今日から晶武具扱いの鍛練だな。
時間が無い。
みっちり扱くので覚悟する様にな」
皆伝となり修行を終えたばかりのダリル。
再びキツい鍛練開始と聞き、困った様に師匠であるゼパイルを見るのであった。