狩り人21
「獣竜がですかっ!」
驚き声を上げるダリル。
獣竜。
それは竜種の亜種である。
本来の竜種は寒さに弱く、北の地へ現れる事は稀。
現れたとしても夏期のみである。
それも小型種に限ると言えよう。
だが獣竜は違う。
竜の身に毛を纏った存在と言ったら良いだろうか。
獣と違い大型種が多いのも特徴。
しかも大型なのに愚鈍ではなく素速い。
厄介な生き物と言える。
この獣竜。
個体数は非常に少ない。
繁殖力が弱い生き物なのだ。
また生息地はこの地より遠く離れており、この辺りでは滅多にお目に掛からない。
だが不運に人里へ現れたら被害は甚大。
災害レベルの被害が出るだろう。
昔に他国にて村が数村ほど潰れたとの事だ。
その時は甚大な被害をだしながら騎士団が討伐したと言う。
まさに災害だろう。
そんなモノが村へと迫っていると言うのだ。
ダリルの顔が蒼くなる。
「落ち着け」
そんなダリルを見てゼパイルが静かに告げる。
「ですがっ!!」
「この度は大丈夫だ」
「どう言う意味です?」
混乱した様にゼパイルを見る。
「獣竜にも様々な種が存在するのだ。
大型、中型、小型に肉食、草食など、まさに様々と言えよう」
その様な事を。
「では、この度は?」
ゼパイルが消耗しながら探った相手。
小型の草食獣竜と言う事はあるまい。
「中型の肉食獣竜だ。 とは言え、大型肉食獣…
そうだな、虎の3倍~5倍の大きさだろう。 あれはガルオーダだろうな。
昔に聞いた話では、強靭な骨と筋肉へ分厚い脂肪を纏い、それを固い堅殻が覆っているらしい。
その堅殻から黒い剛毛が生え身を覆うとか。
地を踏む四肢は太く強靭。
その爪は鉄でさえ切り裂くほど。
牙も脅威だが、額左右から前へ生えた角にも気を付けねばなるまい。
それだけでは無い。
奴の尻尾は3本。
鞭の様に撓り獲物を打ち付ける。
これを喰らえば被害は甚大となろう。
そして最大の脅威は奴の脚力だな。
強靭な四肢より生み出されるパワーにて突進して来た場合、それを身に受ければ只では済むまい。
また、巨体にのし掛かられただけでも無事ではな」
それを聞き…
「十分、化け物じゃないですかっ!」
思わず悲鳴を上げる様に告げるダリル。
仕方あるまい。
大型肉食獣を狩るのでも通常は困難。
それを遥かに上回る化け物が相手なのだ。
(敵う筈がない)
ダリルが、そう思うのも仕方あるまい。
「だから落ち着け」
ゼパイルが静かに告げる。
「倒せるのですか?」
不安気に告げる。
「容易くは行くまい。
そして、この人数では厳しいな」
そんな事を告げるゼパイルを、しげしげと見てしまう、ダリル。
「どうやって倒すつもりなんです?」
懐疑的な目で彼を見る。
「罠と毒、そしてバリスタ。
後は晶武具だろう」
「晶武具ですか…」
呆れた様にゼパイルを見る。
「そんな御伽噺的な武具を、どうやって…」
ダリルが告げていると。
「ほっ。
晶武具は実用されておるぞぇ。
数が少なく性能もマチマチじゃがのぅ」
村長が割り込み、そんな事を。
「えっ!
俺、見た事も無いですが!?」
告げると。
「当たり前じゃわい。
あげに高価な品がゴロゴロと転がっておって堪るかい。
この家に3本。
ゼパイルが個人的に1本を持っとるだけじゃ。
使い手がゼパイルを含め3人だけでのぅ。
今、町へ援軍の手配をしておる。
伝書鳥を複数放った故、早ければ来月の中頃には援軍が届こうて。
万が一を考え、早馬もだしておるでな。
援軍の中に使い手がおれば良いのじゃが…」
「出来たら晶武具を持参して貰えたら良いのですが…」
幹部の1人が願望を呟く。
「難しいであろうな。
しかしじゃ。
どうせ言うなら放術師殿が現れる位は言えぬかぇ」
揶揄する様に。
「ほんに、そうなれば良いのですが」
苦笑い。
そんな彼らへゼパイルが告げる。
「晶武具が余っておるなら、ダリルが使えるか試してみては如何か?
もしコヤツが使えるなら、余所者に大事な晶武具を預けるよりマシと愚考したのだがな」
その様に。
ゼパイルの言に、暫し考え込む村長。
晶武具を扱うには才能が必要。
生き物は身に雷晶石を宿す。
その晶石より雷の力を導き出し、晶武具へ装着された晶石を操る。
晶武具は武具に装着された晶石を扱い易い様に処理を施された武具だ。
晶石を直接的に操る放術に比べると、遥かに扱い易いと言える。
だが、それでも晶武具を扱う才能を秘めたる者は稀と言えよう。
晶武具を扱える者を抱える。
それは貴族にとってはステータスに近いと言って良い。
とは言え、晶武具の力を発動できても武具を扱えねば意味は無い。
戦える術を身に付けて、更に晶武具を扱える者。
そんな者であって始めて使い物になると言える。
ダリルは実践へ投入可能な武を身に付けた者。
そしてゼパイルと村長の弟子であり、この部屋に居る者も何度か手解きを施した者でもある。
身内みたいな者だ。
彼が晶武具を扱うならば、嫌と言う者は居ない。
「ふむ。
それは面白いのぅ」
村長が髭を扱きながらニヤリと告げるのだった。