狩り人19
狼との激闘を終えたダリル。
倒した狼の処置を行う。
牙や爪、毛皮は売り物になるだろう。
だが肉食獣の肉は、基本売り物にならない。
草食獣と違い、肉に臭みが出る為だ。
分かり易い例になるかは分からぬが、鮎を例にとってみよう。
天然鮎は水苔のみを食すせいか、その身の香りは素晴らしい。
水菓子い香り…フルーティーフレーバーと言えば良いだろうか。
スイカを食した様な香りを感じるものだ。
これが養殖鮎だと、そうはいかない。
飼料を与えるため、肉の味が濁るのである。
この様に食した餌により肉質は変わってしまうものだ。
兎に角、夜に倒した3体は夜間の内に猟師小屋にて血抜きをしてある。
その血は桶に溜めてあるため、それを先ず川へと破棄。
次に、今朝倒した狼の処置だ。
血抜きを行うが、川の近くであるのが有り難い。
流した血が川へと流れる様に処理。
順次、皮を剥ぎ、肉を骨から外す。
売り物にならなくても、自分や家族が食せば良い。
これらも薬草と塩、酵母などと漬け込むと珍味となる。
村人にとっては、ご馳走だ。
癖が強いため、人により好き付きが顕著に現れる食べ物になっている様だが…
(しかし…
腹減ったなぁ~)
昨夜から、何も食していなかった。
血抜きや内臓の処置は早めに行わねばならない。
それらの作業に追われていたのだ。
ダリルはボス狼の肝を炙ってみる。
塩を軽く振っただけだ。
半生だが、新鮮なので気にせずに食す。
取り敢えずは腹が満ちれば良いつもり。
味は二の次のつもりだったのだが…
「!?
なんだ、これぇ!!」
思わず声が出た。
(美味い!!
狼の肝だよなっ?!?)
臭みが無く、トロォ~リと濃厚な味が口に広がる。
思わず、ガツガツと食す。
どうやら、狼共が飢えていた事が幸いした様だ。
狼は雑食。
故に食せる植物を食して糊口を凌いだのだろう。
故に体内が浄化された様になり、肉質が上がったものと思われる。
(これは…
捨てるなど、とんでもない話だっ!)
考えを改める、ダリル。
8頭全ての肝は流石に多く食せ無いが、内臓の破棄を取り止める事に。
昨日と同様に腸詰めと胃詰めにし、茹でてから燻す。
肉も同様に燻していく。
途中で持っていた塩と香草、香辛効果のある草や木の実、樹皮が潰える程だ。
塩は村へ帰れば、自分が借り受けている小屋にある。
ただ、野草や香草、薬草に香辛効果のある草や木の実、樹皮が尽きてしまった。
取り敢えず、獲た獲物を小屋へと運び込み仕舞う。
その後で、尽きた素材を補充するために森へと分け入るダリルであった。
狼を倒してから3日の日が流れた。
ダリルは森を巡り、素材を集めた。
途中で木苺などを見付け、猟師小屋にて煮詰めたジャムを作ったりもした。
これは容器が無いため、煮詰めた鍋ごと持ち帰る事にした様だ。
採取だけでなく、ダリルは3日の間に筏も組んでいた。
持ち込んだ斧で木を切り倒し、その木を組み合わしロープで結わえた物だ。
この筏に使った木も納品対象だ。
本来は樵の仕事だが、木材納品を目的をしない納品は許可されている。
まぁ、勝手に樵の真似をメインに行えば、流石に問題となるが。
ダリルは筏へ荷物を積み込み、ロープでシッカリと固定する。
そして筏へと乗り込んだ。
急流箇所はあるが、滝などは無い。
幼い頃から何度も行った事だ。
何処が難所で気を付けなければならないかは熟知している。
とは言え、冬の間に地形が変わっている場合も有り得る。
油断は出来ないであろう。
ダリルは棍の様な長い木の棒にて筏を操る。
要所々にて川底や岩を棒にて突き、筏の位置を制御するのだ。
その様にして、危なげ無く川を下って行くのだった。
途中、支流から本流の川へと合流する。
川幅が広がり、水の流れが穏やかになった。
景色を楽しみながら、ゆるゆると川を下る。
そして、村の波止場へと辿り着いたのだった。
時刻は夕闇が迫る位か。
ダリルは波止場にて荷車を借り受ける。
此処では有料で荷車を貸し出してくれる。
また、荷揚げも人足を雇う事が可能だ。
以前はヤムナが無料で手を貸してくれた。
故に金は掛からなかった。
だが本来は、この様にして川から品を荷揚げするものなのだ。
荷車へ荷を移し、運んで来た筏を木材として納品。
樵が納品するよりは安値で引き取られる。
これは仕方がない事だ。
まぁダリルとしたら不要になった筏を引き取って貰え、更に金を貰えるのだから不満は無い。
ただ、筏を組んだロープは、シッカリと回収していたが。
荷車へ荷を移したダリル。
村長宅へ向かい納品し、その日を終えるのだった。