狩り人13
ダリルが歩いていると…
「あっ!
ダリル兄ぃだぁっ!!」
早速チビ共に見付かる。
朝食を終えたチビ共。
外で近所のガキ共と合流したのだろう。
ダリルを見付けた声を聞き、ワラワラと集まって来る。
どうやら散開してダリルを捜していた様だ。
普通の皆は農作業を含め仕事に忙しいものだ。
そうでなくとも相手をしてくれる者などは普通は居ない。
ダリルは狩りを終えた後、暫くは休養を摂る。
その際に構ってくれる事があるのだ。
それを知るチビ共がワラワラと…
ダリルは困った顔でチビ共を見る。
「今から師匠宅へ出向くから相手はできんぞ」
空かさず告げる。
ビクッとする子供達。
ゼパイルは悪い男では無い。
子供に対しては優しい位だろう。
女性に対しても実に紳士的。
なのに子供と若い女性は近寄らない。
それは…
ゴツい身体もあるが、兎に角顔が恐い。
闘いで負った傷もあるが、無造作に生やした無精髭が人相を更に悪くしている。
傷や髭が無くとも、元々が強面の悪人面なのだ。
更に凶悪になっていると言って良いだろう。
人は顔では無いと言う者も居るかもしれないが…
確実に顔で損をする事はあるのである。
ゼパイルの元へ向かうと聞き、ズザッと後退るガキ共。
「なんなら一緒に行くか?」
ダリルが告げると…
「えっ!?
い、いや…
いいや!
遠慮しとくぅ~」
「オイラも」
「アタイもっ!」
後退りながら告げ…
顔を互いに見合わすと、蜘蛛の子を散らすか如く散って行く。
中には泣いている子供も居た様だ。
「ふぅ」
(師匠…
どんだけ恐がられてんだよ)
まぁ…
普段の言動と厳ついガラガラ声。
歩く姿も厳つい感じだ。
まぁこれは怪我の影響なのだ。
ハンターを引退するキッカケになった大怪我。
狩り程度ならば耐えられるであろう。
だが、巨種とも渡り合う事のあるハンター。
そんな稼業を続けるのはキツい。
いや。
無理をすれば続けられるであろう。
だがゼパイルには無理をしてまでハンターを続ける気はなかった。
ある巨種との戦いにて心が折れたのだ。
故にハンターを引退したとも言える。
実はベテランのハンターが、この様に引退する事は多い。
肉体的には、まだまだハンターを続けられるであろう。
だが大成していないベテランは先を考える。
先の無い、その日暮らしの生活。
多少の貯えはあるが、先の事を考えると…
そう考えが至り引退。
多くのベテランハンターが至る道である。
ハンターをしていたゼパイルにとっては村の狩人などは緩い仕事。
現れて熊や猪。
虎などが凶悪と言われるレベルだ。
まぁ…
獣竜などが現れたら別だが…
その様な事は、滅多に起こらない。
0に等しい事柄なのである。
そんなゼパイルだが、長いハンター生活の為か身形だけで無く性格も少々厳つい。
故に嫁の来ても未だに無い独身者である。
(この調子だと、師匠の春は、まだまだ遠いか…)
そんな失礼な事を考えながらゼパイル宅へと。
玄関にて戸口を軽くノック。
玄関と言っても、板を組み合わせた隙間がある戸板をドアがあるだけだが…
「師匠、居ますか?
昨日言われたので来ましたが」
ダリルが告げると…
「おぅ、来たか。
入れ、入れ」
嬉しそうな濁声が響いて来た。
「では、失礼しますね」
そう告げて室内へ。
机に椅子、戸棚とクローゼットにベッド。
後は葛籠くらいか。
実にシンプルな部屋である。水回りなどは存在しない。
炊事洗濯は外。
トイレなども無い。
大自然がトイレである。
これは全ての家庭が同じであるが…
そんなワンルームにてゼパイルはベッドに腰掛けた侭、ダリルを迎え入れた。
ベッドと言っても木で造られた箱に藁を敷き詰め毛皮を敷いた粗末な物だ。
そんな彼からダリルへと告げる。
「今回の狩りにて1人前として認めた訳だが…
流石に今の武具ではハンター稼業は厳しかろう」
そう告げながら立ち上がる。
そして葛籠の方へと向かう。
そして葛籠を開け、中から何かを取り出した。
どうやら武具の様だ。
話の流れからして…
「それって…」
ダリルが食い入る様に見る。
「村長の伝で王都の鍛冶師に造って貰った品だ。
この近隣よりは安く良い品が手には入る。
まぁ…
一見には廉価品位しか手には入るまい。
武具はハンターの命とも言える。
腕が上がれば買い換えるのも良いが、当面はこの品で良かろう」
そう告げ、ダリルと渡す。
武具は高い品だ。
武具などが地方より廉価に手には入ると言っても容易く買える物では無い。
師が弟子に只で与える…
普通は有り得ない。
実は絡繰りがある。
ダリルと一緒に狩りを行った時に、ダリルの分け前を極端に減らしていた。
その差分を積み立てていたのである。
無論、それで全てが賄える訳では無い。
足りない分はゼパイルと村長が出したのである。
村長にとっても孫の様な者。
ゼパイルも息子の様に思っている。
2人とも絶対に告げる事は無いが。
ゼパイルから受け取る。
手甲に具足、肩当て付きの胸当てである。
部分鎧と言うヤツか。
黒光りする鎧は、見た目に比べて遥かに軽かった。
黒鋼と言われる特殊鋼にて造られたしなだ。
新米が使うには過ぎた品だと言えよう。
それに比べると剣と槍の質は、幾段か劣る。
そうは言ってもだ。
今、用いている品よりは数ランク上の品だった。
そして弓だが…
複合弓。
コンジットボウである。
これは昔にダリルが村長に無心した事のある品。
村長の愛用品だった筈である。
「本当に貰っても…」
半ば絶句気味に呟くダリルだった。