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Eden ~黄昏の神話~  作者: Akuro
第一章 Return world
5/6

邂逅

ゆっくりと光が消えて、眼前に広がるフィールド。

ドヨリとした雲り空、纏わりつく様な湿った空気。薄暗いフィールドの中でバチバチと音がしている。


「…うわ。なんですか…このフィールド?」


世界の終焉の様なフィールドで、俺は振り返り睨む。


「……お前、ちゃんとフィールド選んだんだろぅな?」


「は、はい。フィールドはちゃんと誓いし絆の神域になってます」


「………なんでこんな」


「前とは違うフィールドになっているんですか?」


違うもなにも……。


「………エリアには特別なフィールドが設置されている。ここには、綺麗な空中庭園があって、立派な天使の像があった」


俺は重っくるしい空気を感じながらゆっくりと歩き始める。


「ステラとか言ったな。もぅ、行っていいぞ。これからは何があっても俺に関わるんじゃない、わかったな」


「……アナタに興味があるんだけど一緒にいたら駄目?」


「ふざけるな、俺がお前といなきゃならない理由があるのか?大体、お前のお友達を潰した俺と一緒にいる?お友達が黙ってないぜ?特に、あのメガネをかけたサイアスとか言うPCがな」


「う……私が言い聞かせてみるよ!だから…ね?」


「…お前の目的はフィールドだろ?俺の保有してるフィールドが欲しいだけだ。たかが、レベル18のお前がここに来れるだけで十分にレアなんだ、自惚れるなよ」


苛立ちを覚え拳を握る。


「お前を仕留めなかったのは、たんなる気まぐれだ、そのPCが大事なら早く失せな」


「だ、だって、今帰ったらフィールド取得にならないじゃないですか!!このフィールドおかしくなってるって言ってもレアには変わらないんでしょ?」


「てめぇ……まぁいい。初心者、教えといてやる。このフィールドの取得条件は、フィールドにある天使の像に一千万ドゥラを捧げる事だ。レベル18程度のお前が持ってるとは思えないが?」


ギロリと睨むとステラはビクりとして後ずさる。それを見た後、小さく溜め息を零して視線を戻す。


「まぁ、それどころか……肝心の天使の像が……」


荒れ果てた庭園跡を見渡すと、像の欠片が散らばっている。俺はそれを拾い、一カ所に集めている中、昔の会話が頭をよぎった。



―「この天使の像はね、全てのエリアに全部で15体あって……エリアを守る為に設置されているんだって」


―「噂だろ?このLevel.7のフィールドだって結局入れたのは俺達以外他数名だって話だぜ?」


-「もぅ!クロはロマンがないなぁ!あるって仮定でPLAYするからRPGなんでしょ!?」


-「ふーん。まぁどちらにせよ、そぅだとしたら、その神様とやらも勝手だな。人を見放したのに……人が作ったこのクソったれな世界を守るだなんて」


―「世界は…人だけで成り立ってるわけじゃないんだよ、クロ。それにね………神様はそれでも人を守りたかったのかもしれないよ?」


―「どぅかな?…案外、神様とやらに刃向かって人を守ろうとした堕天使が、抵抗して世界を守っているのかもしれないぜ?」


―「だとしたら…それはそれで興味深いな、俺はこの15の神域フィールドを取得することでナグナレクへと繋がるのだと考えていたから…神に背く堕天使なのだとしたら神へは近付けない…」


―「ハッ…なんにせよ、一つ目の神域(フィールド)を取得したわけだ…残り神域(フィールド)は14…長い道のりだな」



「Dezi=Kuroさん!!聞いてますか?」


ハッとした。Dezi=kuroの顔をステラは覗き込む。

フンと鼻を鳴らして顔を背ける。


「……諦めろ。このフィールドは取得出来ない。取得する為のブツも無いし、お前には金もない」


「違います、目の前の…」


不気味なモノを見る様にステラは声を震わせた。ステラの指差す先に目線をやる。その先には宙に、黒い渦が舞っている。空間が歪んでいると言ったら分かり易い。その奥でPCが無数に揺れているのがわかった、まるで水面に映って揺れるかのように。

その中に、緋髪で黒の装備、大きな角をつけた鬼の様な手甲を身にまとったPCが揺れる。



―「私がキルされそうになったら…助けにきてね……クロ」



女PCが擦り切れそうな声で振り返る姿が、Dezi=Kuroの脳裏によぎった。


Akuro(アクロ)…」


「えっ?……Dezi=Kuroさん(^^;)?」


「アクロ―――――!!!!!!」


叫び声がフィールドへと木霊し、その声に反応する様に辺りのエリアがピリピリと震える。


「やっぱり来てくれたのね…Dezi=Kuro。(ロスト)守護者(ガーディアン)…15の神域を張っていれば逢えると確信していたわ」


振り返る先に黒いゲートが低い唸りをあげる。そこから現れた一人の少女の形をしたPC。

黒色に染められ、ボロボロになっているゲートから現れたとは思えない程神々しいその少女を見て、Dezi=Kuroは直ぐに悟る。

少女は俯き顔をゆっくりと上げると、深く青い大きな瞳でDezi=Kuroを見詰めて口を開いた。


「アナタが来るのを待っていた。15の鍵を持てるアナタを…」


「…お前、俺にPC、Dezi=Kuroを返してくれたチャットの奴か?」


「シンクロがうまくいったみたいね」


「シンクロ?」


「アナタは今直接この世界を見ている…疑り深くて、頭が回るアナタならわかっているはず…すでに、戦闘もこなしたみたいですしね」


「…………疑り深くて……ねぇ。……何が目的だ?」


「……その前に問いたい。なぜPixieから生まれし子を連れてきたの?」


そのPCはステラを睨みながらにDezi=Kuroへと問う。


「なにかいけなかったか?なにも説明されずに此処まで来たんだ、そんな言い方もないだろう?こちらの質問に答えろよ」


何も告げられずinしたDezi=kuroにしてみれば知ったことではない。

Dezi=kuriのスカしたその態度に物大路もせず、更にスカした態度でそのPCはステラに手を向ける。


「……話はまず、その子の排除を行ってから」


「ちょ、ちょっとまて!コイツは関係ないだろ!」


慌てるDezi=kuroを横目に、PCの手からは物騒な光が溢れる。


「恐れることはない…私はPixieとは違う。Pixieに取り付かれたエデンの子を救うだけです」


「えっ?えっ?Dezi=Kuroさん?これは…」


「話をしている暇はない。とりあえず、Pixieのアカウントを破棄します」


ステラがその言葉に躊躇している間に、そのPCはステラに向けて勢い強い光を放った。


一瞬の出来事だった。その手から放たれた光はステラを貫いて消える。


「キャァァァァァァァ」


金切り声の様な悲鳴がBGMを打ち消していく。


「テメェ!!なにしやがった!!」


Dezi=kuroが声を張り上げ、拳を強く握る横でそのPCはチラリとステラを見やるとフゥと軽く息をついた。


「……女PC(ステラ)、悲鳴をあげるのは勝手なんだけど、Dezi=Kuroと会話が出来ない。ボリュームを下げて?」


「ァァァ…あ、…は、はい。あれ?」


………。

安堵とは程遠い溜め息をついて、Dezi=Kuroはステラを睨むが、ステラは自分のPCボディを眺めている。


「何したんだ?」


「Pixieの呪縛から解き放っただけ」


「だから、それがわからねぇっつってんだよ。聞きたいことは山ほどあるんだ!まともに返してくれ」


「そぅですね…。まず、なにから話しましょうか?私の名前から…なんてのはどうです?」


「…ハッ!そんな冗談も言えるんだな」


「私の名前はアリス。この世界の守神だったAI」


……アリスね。

神話をモチーフにした様な世界観で作られたこのエデンで、守神がアリスってのもふざけた話だな。

……まるで神がエデンに迷い込んだみてーじゃねぇか。


それにしてもコイツ……エデンを管理していたプログラムAIか?……今にしたら珍しくもないが……ネトゲに管理AIなんて…。


「まぁいぃ、それで?あそこに浮かぶPCはどんな冗談で、どんな悪意があるんだ?」


「あれは、生け贄。妖精が集めている兵士」


「…………お前がアリスってことは、妖精とか言う女王陛下様辺りがあそこにPCを集めてなにかを企んでるってことか?」


「流石ですね、勘がいぃ。……アナタはエインヘリャルを知っている?」


また唐突だな。

…エインヘリャル?


「いや…知らない」


「エインヘリャル、死んだ戦死達のことですか?」


アリスは俺からステラへと視線を移す。

自分のPCボディを確認し終わったのだろう。ステータス画面なども開いて異常が無いかを確認済の様だ。


「よく知っていますね。女PC(ステラ)


「私、神話とか好きなんです」


「エインヘリャル、ワルキューレに選ばれた死んだ戦死達。つまり彼等は、そういうこと」


「どういうことだよ」


「エデンを乗っ取った存在、Pixie。彼により、消され、殺された者達。つまり、アナタ達もなり得る姿」


「へー俺も、この世界でPixieって奴に殺されれば晴れてあそこの仲間入りってわけだ…それは随分楽しそうな展開だな」


「Pixieだけではない。Pixieの子等にもされてはいけない。つまり、今このエデンに存在するPC15人を覗いた全ての人間達にも」


「ハハハ、アッホらしぃ。バカなのお前?何億人やってると思ってんだよ!?……大体、目的とそのPC15人ってのはなんだよ?」


「15人と言うのは…」


アリスはゆっくりステラを指差す。


「そこの女PC(ステラ)、他に(ロスト)勇者(ブレイバー)14人のことを差します。つまり、古の楽園で名を馳せた2つ名を持つ英雄のこと」


2つ名を…


「アナタならば…「殺戮魔女(ブラッディー)守護者(ガーディアン)」。つまり、あの時代、エデンと呼ばれた楽園の覇者達。神である私に最も近かった存在達」


…ケッ、回りくどい。

だけど…よーくわかったぜ。


「つまり、世界指名手配犯(オールサーバーウォンテッド)・The people rob a key.(鍵を強奪する者達)のことだろう?」


「オールサーバー…ウォンテッド?」


ステラは小首を傾げて俺を見る。

そうか、今のエデンにはウォンテッドシステムが無いのでのか。


…ほんとに俺の知ってるエデンとは違うんだな。


世界指名手配犯(オールサーバーウォンテッド)ってのは、エデン内にある7つのエリアから辿り着ける神域フィールドを手に入れた奴のことを言う。当時、神域フィールドにたどり着けるプレイヤーはほとんどいなかった」


アリスをチラリと見ると小さく頷く。

俺は続ける。


「ってか、なんでかは知らねぇけど、作った側の運営者が神域フィールドを公開しなかったんだ。だけどある日、どこぞのハッカーがハッキングして、神域を解禁しちまいやがった。しかも、封鎖出来ない様にする為のウィルスをバラまいてな。Level.7って画面に出る様なフィールドで……今は知らないけど、当時はLevel.5までしか解禁されてなかった」


ゴクリとステラが生唾を飲む音がマイク越しに聞こえる。


「おい」


「あwごめんなさいw」


「……たく、緊張感のない奴」


「エヘヘw」


「………」


「ごめんなさい」


「まぁ、別にいい………」


「そ、それで……」


「あ、あぁ。だけど、当時Level.5までしか解禁されてなかったはずなのに唯一1クエだけ一定時間の間Level.6が出現した事があったんだ。そのクエストが難易度がぶっ壊れた使用で、クリア出来た奴なんかほとんどいなかった」


まぁ、俺達は…Akuro、ノエルのスリーマンセルで二時間かけてクリアしたわけだが…


「じゃ、じゃぁ…この神域は……」


「……ここからは俺の予想なんだけど、Level.6をクリアした奴だけが唯一Level.7に入れたんだと思う。それでLevel.7のフィールドを手に入れた奴が世界指名手配犯(オールサーバーウォンテッド)って呼ばれるようになったわけだ」


「え…クリア出来たんですか?」


「当時のエデンはPT制度がなかったから自分達個人個人でPTとしてフィールドに入ったんだ。つまり、1人では勝てる様な設定じゃない。俺は他の奴等と3人で二時間かけてボスを倒した。…いや、運良く倒せた」


「そ、そのモンスターの名前は…?」


「神の為の悪魔・ガルバディア・ルシファー。一段回目が人型を模した翼がはえた悪魔、二段回目が黒い冥黒ドラゴン。体力なんかいくつあったかわからねぇし、攻撃は全部一撃死。ブレスだろうが、薙払いだろうが、踏みつけだろうがな」


「な…」


だけど……あの二時間は…心踊った…。

画面(ヘッドディスプレイ)前で汗かきながらコントローラー握って……でも、生きているっていう実感がした。


あんなに集中したのは久しぶりだった。


ゲームなのに…馬鹿らしいけどな。


「そろそろ、話を続けたい。私には時間がない。近く……に…………pixieの……人形が……」


その時、PCを構築するデータの0と1がノイズと共にアリスの身体にはしる。


「……お前」


「近くに、pixieの人形が来ていて、上手くデータを維持出来ない……………私は、この世界に残る残留思念。つまり、私はPixieと言う悪魔に殺され、この楽園に閉じ込められた存在」


「Pixieに殺された?…まてよ。今コイツになにかしたのと関係あるのか?」


俺はステラに目線を運ぶ。

アリスは優しく頷くと、口を開く。


「………」


「?」


「Dezi=Kuroさん?アリスさん…口は動いてる様ですけど…」


「…テラ。あ………が、Pix…………の目的。D……Ku…o、ア…タが………希…。…15の…内、…がP…eに渡……る。」


クソ!最後の大切なとこが、全部イッチまってる!


「おい!アリス最後に振り絞って声出せ。俺はアクロを救う為にこの世界でなにをすればいいんだ?シンクロってのはなんのことだ?」


「…シン…ロと…D……z…とア……きず…。ア…タ……は……15…鍵………集……束……1……………つ……――――――――――」


アリスはその瞬間、ノイズと共にゆっくり消えた。その光景がまるでお化けの様で、身震いをする。

最後の言葉はほとんどわからない。


「Dezi=Kuroさん…い、今のは。け、結局…」


「……さてな。ただわかったのは…」


ゆっくりとステラを見やる。

レベル18のこの雑魚を、俺が連れて来たせいで巻き込んじまったってことだ。


「なんです?」


「…いや。…お前は今のなんだと思ってんだ?」


「イベントの類……ですか?」


「……なんでそう思った?」


「すいません、何がなんだかわからなくて……そうなのかなって……」


「……まぁ、そぅ思いたくなるのもわかるけどな」


「…………あ、あと、なんか、イベントとは違うんですけど、ここ何日間かで不審なPCが増えてるからってログイン時に警告的な広告は出ていました」


「広告?」


「はい、見つけたら通報する様にとの広告です。pixie policeが直ぐに駆け付けてそのPCを解体するからって」


つまり………何日間か前から旧エデンの人間がinしていた……と言う事だよな。


誰の手引きで?一体なんの為に?


まぁ、でも、コイツ等がチートだって追っかけて来た理由もそれなんだろうな。


そして…アリスの言う事を鵜呑みにしてこれからを考えるとすると、俺は世界指名手配犯(オールサーバーウォンテッド)の1人に入っているから、全サーバーの全PCから逃げながら他の世界指名手配犯(オールサーバーウォンテッド)13人を探し出せってことなんだな。


……なにが起きたかわからない。

結局、目的もわからないままだ。

ただ、俺のやってるこのゲームがなにかヤバいことに繋がっているのは頭が悪い俺だって感づいてる。

コイツ(ステラ)がさっきの出来事をどう思っていようがこれ以上巻き込むわけにはいかない。


「…………これは冗談でもなんでもないぞ。今から俺達は、このゲームをしてる世界中の人間を敵に回しちまったらしい。お前も殺られる側に入っちまった。わかるか?」


「え^^;!私も教われるってことですか?」


「変換ミス。襲われるです^^;」


「…………はぁ、緊張感ない奴。だけどまぁつまり、そぅいう事だ」


「すいません、音声認識なのに、古いせいかたまに変換おかしくなるんです。……それで……結局、私はどうしたらいいんですか^^;?」


「お前は今すぐログアウトして、当分エデンへのインを避けろ」


「うぇえぇ!!い、嫌ですよ!!エデンやっと 楽しくなって来たのに!!」


「レベル18のお前がどうやって他のプレイヤーと戦うんだ?もしかしたら、PC奪われてあそこに張り付けられっかもしれないんだぞ!?」


「それは…嫌ですけど……。Pixieへのログインも避けるんですか?さっきPixieがどうのこうの言ってましたけど」


「Pixie…か。Pixieへのログインは問題ない……いや、もしかしたらやめといた方がいぃかもしれないな」


ステラは画面前でなにを思うのか?

俺はもう一度張り付けられて揺らめくアクロの姿…そして、無数のPCを眺める。


「…………いや…待てよ。アクロがあそこにいるのに14人が揃うわけなくないか?」


「そぅ言うことですね、ブラッディー。それとも鮮血戦鬼のDezi=Kuroって呼んだ方がいいかな?」


ふと2人とは違う声が響いた。

それは直ぐに変換されてチャット画面にもカタカタと入力されていく。


振り返った先には、漆黒のローブを身に纏ったPCが立っている。

目の横には稲妻模様のお洒落な赤透明の飾りをつけていて、綺麗な出で立ちの女PCだ。


「久しいな。エデンの鬼神?」


「色んな呼び方を使いすぎだ。久しぶりだな…戦を統べる知将・クリア」


「フフッ。名前を覚えていてくれたんだね。嬉しいょ、Dezi=Kuro」


クリアは長いコートの様な漆黒のローブから手を出すと、その手には宝玉。

丸く暗い輝きを放つ宝玉から、黒い光がこぼれ出す。


「なんの真似だ?クリア」


「まだEveには会っていないのか?なら都合がいい。一人目として狩らしてもらおうか?」


「Eve?」


「問答無用だ、一番厄介なアンタを消せればこれからやりやすい」


宝玉から溢れる黒い光はクリアの得意な属性魔法。Dezi=Kuroは咄嗟にガードアームで攻撃に備える。

光は、Dezi=Kuroのガードアームに勢いよく放たれる。


「うえぇぇ…で、Dezi=Kuroさん?」


ステラはオドオドとDezi=Kuroとクリアを交互にみる。


「下がってろ馬鹿野郎!コイツも世界指名手配犯の1人だ!」


「フフ、同じ犯罪者同士仲良く殺し合いましょうよ?」


「断るよ馬鹿野郎!なんでお前と殺り合わなきゃならねぇんだ!」


「アンタが勝って、Eveに会えたら教えて貰うんだね!」


宝玉から生まれた黒い光が徐々に何本もの剣を作り上げ、宙を舞う。

それを二本両手に掴み構えるクリア。


「随分マジになってんなぁ!らしくねぇぞ?」


「なりふり構ってらんないんだよ!状況もまだ理解してないボウヤは黙って殺られな!」


張り上げた声と共に、クリアはDezi=Kuroへ向けて大きく跳ぶ。

滑らかに、しなやかに舞う演舞の様に、クルリ、クルリと二本の剣は躊躇無くDezi=Kuroを襲う。

それをガードして避けるを繰り返して咄嗟に後方にステップする。


「クソが!」


「Dezi=Kuroさん!」


躊躇ない猛攻でDezi=Kuroとクリアが競り合っている時だった。

不意をついたかの様に、ステラがクリアに斬りかかる。


「あぁ?」


斬られたクリアは血が吹き出すエファクトがでる。

しかし、なに一つ動じることはなく、気だるそうにステラを睨む。


「や、やめて下さい!!お、同じ仲間じゃないですか!」


「なに?ブラッディー?こんな腐った楽園でガキ育ててんの?」


「まぁ、な!」


剣を弾いてステラの下に駆け寄る。

クリアも二歩、三歩と後ろに距離をおく。


「腑に落ちねぇな?いつもcoolに状況を読んで戦うお前らしくない。俺にサシで挑んで勝てる奴がいたか?お前でも俺には勝てなかった」


「今はどうだろうねぇ?」


「いい加減にしな。なにをそんなに脅えてんだって聞いてんだよ」


「脅える?私が?ハハハハハハ、傑作ね。そんなガキを守ってるアンタに私が脅える?アクロお姫様が守れなかったからって今度はそんなガキ守ってるアンタに?」


クリアは宝玉を手に、また暗い光を溢れさせる。


「………そぅいぅとこが嫌いだった。昔っからね!お姫様、お姫様、お姫様、お姫様。もぅ、うんざり。なにかあると直ぐにアクロアクロアクロアクロアクロアクロアクロ!私の誘いは断ったのに!」


「言ったはずだ。あの戦いの時、俺はどっちにもついていなかったし、興味がなかった」


「でも、アンタはアクロの元に行った!答えはそれで十分さ。なんでもかんでも冷めた目で周りを見て、見透かしたみたいな物言い。格好いいねぇ?そこが鼻につくんだよ!!ハハハ、いいから私に殺されてくれないかな?」


「断るよ馬鹿野郎」


「じゃぁ、頼まない。殺すよ」


クリアはDezi=Kuroを思い切り蹴り飛ばす。

宝玉はただ浮かびながら黒い光を零し続け、辺りはその光で包まれる。


「ブラックカーテン!マズい!ステラ!ログアウトだ!!なんでもいいからヘッドギア外せ!!」


「えっ!?で、Dezi=Kuroさん^^;!?」


「遅いよ、ブラッディー?ガキの心配より自分の心配しなよ」


クリアの握った二本の剣と幾つも空中に精製された剣がDezi=Kuroを斬り刻む。ゆっくりと吹っ飛んで行くDezi=Kuroにクリアは追撃していく。


「遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い!キャハハハハハハ!」


ブラックカーテン。上位魔術師が更にLevel.5の特定クエストをクリアして得られる当時の最強魔法の一つ。その効果は、クソッタレ仕様。まず、自らの能力を四倍、更に辺り一帯にいるPC、モンスターの動きを1/4にする。これを使える奴はそうはいない。使えるのに使わない奴も多い。なにぶん発動条件がめんどくさいらしい。これを神の領域なんて呼ぶ奴もいるが、神がこんなに残酷な殺し方していいのかと問いたくなる。


「イてぇ…」


「ハハハハハハ、痛い?気持ちいいの間違いだろぅ?最後、死になぁ!」


二本の剣を振りかざす。

その姿に一瞬見とれながらも、Dezi=kuroはクリアの後ろから飛んでくる大きな剣に見ていた。


それは、刀身が消えて見えるサイレントブレイブァーと言う大剣。


「さっさとキメちまえばいいのに。いっつも俺との戦いで最後に手を緩める。だから、負けんだよ」


Dezi=kuroの言葉と共に、大剣は宝玉を大きく弾いてブラックカーテンを打ち消す。

その刹那、Dezi=kuroは二本の剣を弾いてクリアを蹴り飛ばし後方へ距離を置く。


「なんでこぅも邪魔に入りたいんだ!私はブラッディーと決着をつけたいだけなのに!」


クリアが怒鳴り声をあげる。

それを甲冑に身を包んだ男PCがフフンと笑った。


「仲間が殺られそうになってたら助けるだろう?知将さん?」


男PCはスカした様に笑う。


「ケッ、助かったぜ。ノエル」


ノエルと呼ぶPCを見てDezi=Kuroが一度安堵に似た溜め息をつくがムスリとする。


「礼には及ばないよ、クロ」


「キィアアアアアアアア!音無!また…お前か!!」


「クロ、ここは一旦退こう。クリアの様子もおかしいし、そこの彼女のことで話がある」


目線の先にあるのはステラ。


「わかった。箱舟で落ち合おう」


「おいおぉい。そりゃ酷いんじゃなぁい?私より音♂を&%す;んて?{キィアアアアアアアア!」


クリアの声が雑音で掠れ、文字変換が壊れてすぐにクリアは奇声をあげた。

ゾワゾワと寒気を感じる。

嫌な感じだ。なにか良くないモノに触れようとしている。

オカルトにも近い第六感がDezi=kuroに危険信号を発している。


「ステラ!今すぐこのフィールドから抜けてタウンに戻るぞ!」


「あ……え…?」


「バカ野郎!!思考を止めるな!動け!」


「は、はい!!」


バチバチとフィールドが怪しい音をたてる。

クリアは金切り声をあげ続け、急にピタリと止まった。

ギロリと髪の毛の間から覗いた瞳は歪に歪んで笑っている。


「タウンに帰ります!」


転送が始まる刹那、クリアの手がステラへと伸びる。

Dezi=kuroは咄嗟にクリアへと蹴りのコマンドを入れていた。PCボディは右足を高くあげてクリアの顔目掛けて飛んでいく。


その蹴りが当たる瞬間だった。


一瞬Dezi=Kuroが無防備になる。クリアはその瞬間を見逃さなかった。

ステラに向かっていた体をDezi=Kuroへと向けてクリアは片腕で蹴りを受けとめる。

すぐ様もう片手でDezi=Kuroの顔に掌体をいれる。


「グッ!イッて!」


リアルに感じる激痛に怯む。

その痛みは一瞬でDezi=kuroを混乱に陥れる。

痛みの理由もわからないまま、コンボは続いていた。しまったと思う刹那、掌体に魔法の詠唱紋が浮かぶ。


「キィアァあァァアァあァ」


一瞬何もかもがスローに見えていた。ステラの怯えながらタウンに転送される姿、ノエルの叫ぶ声、クリアの歪んだ笑み。そして、宙の向こうに寂しく揺れるAkuroのPC。


「クソッタレ」


ボソリと零した言葉と共にDezi=KuroPCの顔目掛けて黒い光が放たれる。


――――ブツ。


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