トールトレルの赤頭巾~1体目~
昔々ひとりの娘が居ました。
娘は美しく、賢く、優しかったので森の鳥や魚、虫や動物たち、また村の娘達や男の子達に好かれておりました。
ある時から娘の母は娘が可愛いので嫁にやりたくなくなったので誰にも顔を見られぬ様に真白な頭巾を被る様に言いつけました。
白頭巾といつしか白頭巾の娘は呼ばれる様に成りました。
白頭巾は今日もまたお母さんの言いつけ通り森の泉に水を汲みに出掛けます。
真白な頭巾はゆらゆらと。
森の奥へ向かっていきます。
「やあこんにちは、白頭巾。」
『あらこんにちは。駒鳥さん。』
にっこりと白頭巾は駒鳥に微笑みかけます。
「今日はどこへ?白頭巾。」
『今日は泉よ。駒鳥さん』
「いつもの用事?白頭巾。」
『いつもの用事よ。駒鳥さん。』
「今日は特に気をつけて?悪い狼が居るからね。」
『今日は特に気をつけるわ。悪い狼がいるならば。』
道を通る度虫や、鳥や動物たちが注意を促します。
白頭巾はその注意を聴きますが綺麗な花を見かけ注意は綺麗に忘れてしまったのです。
『まぁ。綺麗なお花。きっと母さんは喜んでくれるわ。』
「あら白頭巾。こんな所に何の用?」
花の妖精たちが話し掛けます。
『妖精さん。お願いがあるの。少しだけこのお花くださらない?くれたらきちんと恩返しするわ。』
「えぇ。いいわ。でも気をつけてね?悪い狼がいるのだから。」
『今日はみんな忠告ばかりね。悪い狼がいるだなんて。』
「とにかく今日は悪い狼がウロウロ彷徨いているのよ。気をつけて?」
『わかったわ。よくよく気をつけることにします。ありがとう。妖精さん。』
にっこりと白頭巾は微笑みかけます。
そして更にゆらゆらと。
白い頭巾は泉に向かいます。
泉について白頭巾は水を汲みます。
「そこの方。お聞きしたいのですが。」
そこには一人の男が立っておりました。
村の男の子達とは違った風貌な男に白頭巾はときめきました。
『どうかなさいましたか?』
白頭巾はにっこりと微笑みかけます。
「この森の先にはトールトレルと言う村はありますか?実はお爺さんを見舞いに来たのです。」
男はにっこりと微笑みかけます。
その村は白頭巾の住む村だったので一緒に帰ることにしました。
『あの。ありがとうございます。水を持っていただくなんて。』
「村まで案内してくれるならこれくらい苦じゃないですよ。」
村の前まで行くと男はにっこりと笑い白頭巾にバケツを返します。
「じゃあまたお会いしましょう。可愛い人。」
『はい。助かりました。』
そういって別れた夜。
一人の老人が死にました。
ただの肉片になった死体が見つかったのでした。
徐々に惨殺をされた村人が増えていきます。
今日もまた白頭巾はお母さんの言いつけ通り水を汲みに森の奥へ向かっていきます。
『やけに今日はしずかね。駒鳥さんたちもいないわ。何かあったのかしら。』
「こんにちは。白頭巾。」
『あら。妖精さん。今日はどうしたの?』
「貴女気をつけなさいって言ったでしょう?悪い狼がウロウロ彷徨いているのよって。」
『言われたけれどそれがどうかして?』
「貴方に話しかけた男がいたでしょう?」
『ああ。あの殿方ね。』
「あぁ。なんてこと。」
妖精は驚いて叫びました。
「あれが悪い狼なのよ!なんてことをしたの。」
『そんなことないわ。彼はいいひとよ!』
「その人が来てから死人が出ているでしょう?」
『彼が関係してるなんて嘘よ…!』
「森のみんなが心配しているわ。次は…あなたの番じゃないかって。」
娘はバケツをもって走り出します。
脇目も振らず走って走って。
お家に入るとそこには一人の男が立っておりました。
「おや。可愛い人。お帰りなさい。」
男はにこりと笑いかけます。
そうして血に濡れた顔を向けました。
『あ…嘘。……お母さんはっ…!』
「お母さん………?ああこれですかね?」
男はにこりと笑ったまま何かを投げて白頭巾に渡します。
それを受け止めるとそれは母の首でした。
切り刻まれてぐしゃぐしゃになったそれは母と認めるには時間がかかりましたが紛れもなく母でした。
『いやぁぁぁぁ…!!!!!!』
気がつけば白頭巾は血だまりの中におりました。
何をどうしたらこうなったのか。
彼女には分かりませんでした。
白い頭巾は真っ赤に染まっておりました。
赤くなった白頭巾は、どれだけ洗っても落ちません。
『あぁ。赤いわ。あの人の血液は。』
バシャバシャと泉の水で洗いますがなかなか落ちません。
ある日、村の警官が彼女を訪ねてやって来ました。
家はそのまま死体が放置されていました。
異臭が鼻をつきます。
真っ赤に染まった頭巾を被って彼女は警官と話します。
彼女は投獄されました。
「真っ赤な嘘をつかれた真赤な赤頭巾。可哀想に可哀想に。」
鳥たちは歌います。
「真赤な真赤な赤頭巾。可哀想に可哀想に。騙されたなんて知らないで。」
妖精たちも歌います。
「でも仕方ない。彼女の罪。真赤な赤頭巾は首が飛ぶ。」
そして彼女は無実を主張することもなく斬首に処され。
村は平穏を取り戻しましたとさ。
真赤な真赤な赤頭巾。
可愛い可愛い赤頭巾。
白の頭巾はどうしたの?
真っ赤に染めて貰ったの。
真赤な真赤な赤頭巾。
可愛い可愛い赤頭巾。
とてもよく似合っているよ。
お母さんに伝えておくわ。
さあ次は誰の番?
真っ赤に染める。
その色は誰?
真赤な真赤な赤頭巾
真っ赤な嘘をつかれた。
真っ白だった想いは。
真っ赤に染まってぐっちゃぐちゃ。
失望させた狼は。
そんな彼女をさらってく。
今日も深い森の奥。
無人になったその村は。
赤い頭巾の霊が出るそうな。
それがトールトレルの赤頭巾の話。
それが赤い幽霊の話。
一等最初の娘の話。
あるとき二人の若い夫婦がやってきた。
夫婦は娘が欲しかった。
「ここに生きているような人形が売っていると。どうか1人売ってはいただけないでしょうか。」
「えぇどうぞ?どの子に致しましょう。」
店主は笑みを夫婦に向ける。
夫婦は店内を歩く。
ふっと目にとまったのは真っ赤な頭巾を被った少女。
金髪がとても綺麗な茶色い瞳の色白少女。
精巧に作られた人形は命を持つ。
天真爛漫、純真無垢を持った少女。
失望の先に彼女は男に霊を買われた。
この夫婦の娘としては適任だろう。
なぜなら金髪茶色い瞳の夫婦なのだから。
「ではこの子を。お代は…」
「お気に召しましたならお代は頂きません。どうぞお持ち帰り下さい。」
店主は笑みを浮かべたまま。
「では命を吹き込みましょう。」
店の奥に人形とともにきえていく。
店主は人形にくちづけを。
店の奥で二人きり。
まるで人間のように呼吸をし動き出す。
『あなたが私のマスターですか?』
幼い少女の声音で人形は話す。
「お前のお父さんとお母さんが迎えに来たそうだよ。」
店主は人形ににやりと笑う。
『お父さんとお母さん?』
血塗れた過去の少女はにたりと笑う。
『ネエ次はどんな【オオカミ】さんが来るかしら。真っ赤な色で染めてもいい?』
クスクスと少女は笑う。
「そもそも染める前提が間違っているよ。」
「『街全体を真っ赤な色で染めてもいい?』」
店主は人形と笑う。
夫婦はなにも知らぬまま。
「じゃあそろそろ行こうか。私の可愛い人。」
『あら。やっぱり貴方が私の………』
壊れた様に少女は笑う。
『トールトレルの赤頭巾』はケラケラと笑う。
どうか次は幸せに。
数年後。
ある街がゴーストタウンになったそうだ。
その街の市長の娘が行方不明になったそうだ。
真っ赤な色に染まった街は。
異常な程に美しく異常な程に真っ赤だった。
彼女の部屋には赤い頭巾だけが残されていた。