ACTion 24 『新たな手掛かり』
『おいちゃん、おいちゃん……』
どこからともなく甲高く細い声が聞こえてくる。
『あれ? お留守みたい』
何ら気配のない抜け殻のような建物に響きわたるそれは、むしろ不気味でさえあった。
かき消しザーッ、と乾いた音は挟み込まれる。
『わかってんのよ、あんたんところでしょ! ウチのアンテナ、吹き飛ばしたのは!』
『こらぁッ。弁償しろッ。この悪徳商人がッ』
『おたくですの? こまりますわ、ベランダが台無しですもの。このままではちょっと……』
『えー、弁護士に連絡させてもらいました。しかるべき措置をとらせていただきますので、あしからず』
『むちゃくちゃしないでよ! 一体、屋根の修理に幾らかかると思ってんの! バカ!』
罵声に次ぐ罵声は飛び交った。だがどの声として同じものはなく、怒りのバトンをリレーし続ける。
正体を突き止めるべくゆっくりと、しかしながら確実に、焼け焦げた電極の隊列は狭い階段を昇っていた。手がかりの座標に従い辿り着いた惑星『Op・1』、その雑居ビル外付けの階段をテンたちは上へと向かう。
ビルの所有者は種族『テラタン』。名前はトラ・イアドとあった。ビルは輸入手続きの代行会社として登録されていたが取引の形跡こそない。おそらくは架空登録だ。さし当って、もぐりのギルド商人あたりが妥当だろう、と誰もの見解は一致していた。
(なんや、声がしとるみたいやけど、誰かおるんか?)
先頭を行くクロマの肩越し、背後から突き出した腕でテンは動話をつづる。
(わからん。でも、なんかヘンや)
クロマがすぐさま返していた。
時間帯からして辺りは暗い。『デフ6』サイズに設えられた手狭な建物のため階段は縦一列になって進まざるを得ず、テンたちはラバースーツを闇に溶かし踊り場ごとにとぐろを巻くと、またじわり、足を進める。
『商談途中だったんだぞっ。どーしてくれるっ。通信妨害程度では済まされんと思えっ』
またいきまく声が細い階段の上から降っていた。
これで三つ目だ。たどり着いた踊り場でクロマは電極を頭上へかざす。もうひと班、目指す屋上からアプローチを試みており、何者かが潜んでいれば必ずどちらかがハチ合わせる段取りとなっていた。
そんな影へと目を凝らし、さらに上を目指す。従い聞こえていた声もまた大きくなっていた。やがて頭上に別班の気配は揺れる。誰に会うこともなく次の踊り場で双方はハチ合わせていた。だからしてちょうどと、合流した踊り場のドア向こうから聞き続けた声もまた響いている。
(一部屋あったけど、もぬけのカラやった)
屋上側の先頭が手短とクロマへ指を折り、ドアへこすり付けた耳で中の様子を確かめたクロマもまたドアを指差した。
(ここや)
合図にして、屋上側の先頭が脇に挟み込んでいたスパークショットをドアへ突き付ける。すかさずクロマもノブへと手をかけた。
(アニキ、突入するで)
余る腕で背後のテンへ綴る。
ならテンも後続へ大きく手を振り上げて知らせた。
(三、二、一……)
カウントに合わせクロマがノブを回す。鍵はかけられていない。ドアは素直と浮き上がり、隙間から電極を突きつけていた屋上側は中へと身を滑り込ませた。連なると後続もまた次から次へとへなだれ込んでゆく。途切れたところでクロマも、テンも、構えたスパークショットを盾に部屋の中へと踊りこんだ。
全員の目と電極が、なめるように室内を見回してゆく。部屋は予想以上に狭く、だからして一目で動く物がないことは確かめ終えていた。傍らに歪んだ保冷庫ひとつと、その前に座っていた者の重みを残して窪んだ椅子が一脚。向かいには数種の端末を乗せたデスクが据え置かれていることだけを確認する。
『以前から、ゴミのことでも申し上げておきたかったんですの。この際、ここではっきりと言わせていただきますわ』
声はそれら端末のひとつからもれ出していた。そしてまた乾いた雑音は挟み込まれ、一巡したらしい留守録を冒頭まで巻き戻す。伴い正面のディスプレイにぼんやり明かりは灯されていた。唯一、映像を伴うメッセージを、あの甲高い声と共に流し始める。
『おいちゃん、おいちゃん……あれ? お留守みたい。じゃ、船は他の倉庫だね』
幼体の『デフ6』だ。他にも見覚えのある顔は二つ、そんなディスプレイの向こうからテンたちをのぞき込んでいた。




