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序章

 (からす)が飛んだ。

 硝煙(しょうえん)の立ち込める広い荒野には、無残に捨てられた死体が山のように積み上げられている。山の裾は、血溜まりとなって、赤黒い染みが大地を侵食する。

 どの亡骸も、一つとして首を残していない。本来亡骸と共にあるべきの刀や槍が一本も残っていないのは、勝利軍が集めてしまったからだろう。亡骸が腐食するに従って、刺さったままの矢が、時折音もなく抜け落ちる。

 いたるところに落ちている、折れて転がった旗の一つを、男の足が踏みつけた。

 背の高い、精悍な顔付の青年だ。口元は黒い布で隠されているが、目尻が下がり、僅かに衣擦れの音がしたので、彼が笑っているのだとわかる。


「ちょっと、焦んなよ」


 狂気とも思える笑みを浮かべる彼を制する声があった。声の変わらない、まだ幼い声だ。

 声の主は、青年の後ろに立って呆れたように首を振った。人とは思えない程の美貌の少年の、制止する声を聞かず、青年は死体の山に駆け出した。

 山が蠢いて、その中から、異形の者が姿を現した。つるりとした、毛のない頭の、犬のような生き物だ。手脚は異様に長く、鋭い牙が並ぶ大きな口を開けている。

 凶暴な唸り声を上げて、異形の生物が青年に飛び掛かる。

 鳴くような悲鳴が、少年の耳に届いた。

 黒い布が、荒野に舞う。

 悲鳴を上げたのは、異形の者だ。

 青年は捕食者であり、異形の者は餌でしかない。餌を喰らう為に、青年の口は大きく裂けていて、牙のような歯がずらりと並んでいる。その口に、引き千切った肉塊を運ぶ青年に、少年は優しく微笑む。


「おいしいか?」


 少年の声も聞こえないのか、青年は餌を貪る。少年は満足そうに頷いて、少し離れたところにあった大きな岩に腰掛けた。


「久しぶりの食事だもんな。いっぱい食えよ」


 喰らえ。沢山。喰らえばいい。

 そうして、喰らい尽くしてしまえ。

 やつらを全て、喰らい尽くして……


「……そして、死んでしまえばいい」


 少年は、やはり優しく微笑んでいた。

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