鍋料理が、食べたいです……。
「それで、相談内容というのは一体?」
吹き飛ばしたコーヒーを綺麗にふき取り、相談の仕切りなおしである。
ちなみに二人の笑う理由が理解できないスノーマンは、掃除中、ずっと頭の上に?マークを出し続けていた。
「実は……こんな悩み、下らないと思うかもしれないが……」
申し訳なさそうに俯くスノーマン。それに対して白夢は、
「どんな些細な悩みでも結構です。その為の光寺吸血相談所ですからね」
「そうですか……助かります」
ホッと胸を撫で下ろしたスノーマンは、悩みを打ち明けた。
「実は私――――どうしても鍋料理が食べたいのです!!」
ブッと今度は九緒夢が盛大にコーヒーを噴出した。
なんとか堪えた白夢が詳細を訊き始める。
「えっと……な、鍋……ですか……?」
「そうです! 鍋です!! 我々スノーマンはいつもいつも冷たいモノしか食べることが出来ません。それは我々の体の特徴ゆえ、仕方のないこと。しかし! 人生、一度で良いから鍋から湯気が立ち昇る、火傷するほどアッツアツの鍋料理が食べてみたいのです!!」
(スノーマンなのに熱い性格なんだ……)
熱弁を奮うヒロに、白夢はそう思った。
「熱いモノが食べられないのですか? でも、たった今ホットコーヒーを飲んでいたんじゃ……」
九緒夢が、素朴な疑問をヒロにぶつける。
「ホットコーヒーは別腹なんですよ」
「さいですか」
「さいです」
(……ハク! 私、別腹の基準が判らない!)
(僕だって判んないよ!)
二人がヒソヒソしている間に、スノーマンはコーヒーを飲み終えた。
「ご馳走様です。それで私の悩み、どうにかしていただけませんか……?」
「……そうですね……」
スノーマンに鍋を食べさせる。
いつも以上に馬鹿らしい悩みだが、やはりスノーマンにとっては大切なことなんだろう。
「判りました。どうにかしましょう」
「ありがとうございます!!」
はしゃぐスノーマンは白夢に握手を求め、白夢はそれに応じた。
スノーマンの手袋の手は、意外にも暖かかった。
******
「ハク、とりあえずお鍋、出来たよ!」
「判った。キュー、早速持ってきて!」
「了解! ハク、鍋を乗せるガスコンロ、置いておいて!」
事務所の台所から九緒夢が鍋を持ってやってきた。
「おお~~、ついに念願の鍋が!」
「さて、ヒロさん。これから貴方には鍋を食べてもらいます。ただし、貴方の体が溶けてしまわないように、いくつか作戦を立てて実行しようと思います」
「判りました! それでこの鍋は何鍋ですか?」
「鴨鍋、だよ!」
九緒夢が鍋蓋を取ると、むわっと湯気が立ち昇った。
「よし、それでは始めましょう!」
――作戦その1 雪で補強作戦――
「ビュオーーーー!! ……ふう。これでいいですか?」
「結構です」
スノーマンは口から吹雪を吐くことができる。それを利用して、雪を積もらせた。
「ヒロさんが鍋を食べている間、僕らが雪をヒロさんの身体にくっ付けて補強していきます。ヒロさんは身体が溶けるのを気にせず召し上がってください」
「承知しました! それでは――いただきます!!」
ヒロが鍋に挑む。熱い汁と具を皿に掬い、そして口にした。
「うほおおおーーーー!! これはなんとも美味! 絶品ですな!!」
ヒロが喜々として食す傍ら、白夢達はというと――
「キュー、そっちの足元、溶けてる! 早く雪を積んで!」
「うん! ……ああっ!? ハク! ヒロさん、右目が取れちゃったよ!!」
「適当に付け直しておいて! こっちはお腹を修復するのに忙しいんだ!」
――雪で身体を補強する作業に悪戦苦闘していた。
「よし、何とかお腹は治ったけど……って、キュー、どこに目を付けてるの!?」
「あ、間違って肩につけちゃった!」
「早く直して! ……って言ってる傍から肩も崩れた!」
「ハク! これ、もう限界だよ!!」
「ヒロさん!! ストップ!! もう無理です!!」
ハクがヒロを止めようと、ヒロの手を掴んだ瞬間。
「……あっ」
溶けかかった手はあっさりと崩れ落ちてしまったのだった。
「この作戦は失敗か……」