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ヴァンパイア・かうんせらー‼ ~吸血鬼があなたのお悩み解決します~  作者: ふっしー
相談者:スノーマンの氷島ヒロ大先生 『鍋料理を食べてみたいものです』
8/26

私は違いの分かるスノーマン。

 室温 17度


 11月。


 吹き去る風も冷気を含み、いよいよ本格的な冬の到来を感じさせてくれる、そんな時期。

 こんな時期にこそ、無性に食べたくなる料理がある。

 そう、鍋料理である。


「ハ~ク~、今日の夕食、お鍋にしよう~」

「う~ん。そうだね~。今日も寒いし、いいんじゃないかな~?」


 本日の献立。光寺吸血相談所の面々も、このお鍋料理を選択しようとしたのである。


「何鍋にしようか?」


 白夢が九緒夢に問う。


「キムチ鍋!」


 九緒夢は間を置かずに即答した。

 キムチ鍋と叫びながら目を輝かせる九緒夢に対して、怪訝な顔を浮かべる白夢。


「……いや、キムチ鍋は止めよう」


 白夢も負けじと間を置かずに即答。


「えー、どうして!?」

「キムチ鍋だけは駄目」


 白夢は別にキムチ鍋が嫌いなわけではない。むしろ好物であるとも言える。


 それでは何故白夢がキムチ鍋を嫌がるのか。

 その理由は九緒夢にある。


「キムチ鍋って、九緒夢が作ったら『キム血鍋』になるでしょ!!」

「えーー、おいしいじゃない。『キム血鍋』。あの血の鉄臭さとキムチの酸味が最高なのに……」

「人間が食える訳ないでしょ!!」


 つまりはこういう訳であった。

 吸血鬼の九緒夢は、料理の際、何かと調味料として血液を加えようとする。

 それはもちろん致し方のないことだ。彼女にとって血は主食だからだ。

 普通の料理の場合、白夢と九緒夢個別に料理を用意するため、全く問題はない。

 だが鍋となると話は別になる。

 鍋を二つも用意するのは面倒くさい。というか常識的に家庭ではしないだろう。

 光寺家でもその常識に則って鍋は当然一つしか作らない。

 従って、おのおの好きな鍋を食べたいばかりに意見が割れてしまうのだ。


「とにかくキムチは駄目! っていうか血を入れるの禁止!!」

「でもー」

「でももへちまもない! 僕が食べられなくなっちゃうでしょ!? 飲料用だけで我慢して!」

「判ったよ~……」


 九緒夢だって白夢が血を飲めないことは理解している。

 だが、それを知っていても尚、好きな鍋を食べたいとする欲求が生まれる、これこそが、冬の鍋の持つ魔力なのである。


「じゃあ、普通の鍋にしようよ。そうだなぁ――」


 白夢が代替案を思考していた時であった。





「失礼する!! これからカウンセリング、お願い申し上げたい!」





 扉が大きく開き、冷たい風が室内に入り込んできた。


「今から……ですか……!?」


 気が進まなさそうな白夢。

 予約ではなく、突然の来客。このような場合の客は、非常に面倒くさく、馬鹿らしい相談事が多い。

 ちなみにこの光寺吸血相談所は、完全予約制という訳ではない。何せ多くの客がイレギュラーなのだ。突然の事件対応だって、ここの管轄であるし、何よりイレギュラーは、全員が全員電話を持っている訳ではない。

 よって、完全予約制にする訳にはいかないのだ。

 なので、このようにこちらの都合もお構いなしに相談しにくる客もいる。


「……判りました。ささ、中へお入り下さい」


 そう白夢が促すと、


「失礼する!」


 と、のそり、のそりと部屋に入ってきた。


「ささ、こちらのソファーにお座り下さい」

「ありがとうございます」


 客がソファーに座る。

 その瞬間である。


 ――ソファーが凍った。


「……ハク、少し寒くない……?」


 見ると九緒夢が震えていた。


「ちょっとね……」

「左様ですか? 私にはまだ暑いくらいですが……」


 二人が震えているのを、不思議そうに見てくる依頼者。

 今回の依頼者、それは――スノーマンである。


 スノーマン。

 体の成分のほとんどが雪で構成されているイレギュラー。

 見た目はまんま雪ダルマである。

 雪の大玉二つの体に、木で出来た腕、手袋の手。

 頭にはバケツに、目は石の、あのよく見る雪ダルマである。


「いや~、今年は暖冬で困りますよね~。体が溶けてしまいますよ! それとこの部屋、少し暖房が効きすぎではないですか? 暖房の効きすぎは体に毒ですよ?」


 ちなみに暖房などつけていない。逆に今からつけようかと考えていたほどだ。

 このスノーマンが部屋に入ってきて、室温はすでに4度も下がっている。二人が震えるのも無理ないのだ。


「……さて、まずはお名前をお聞かせ願いませんか?」


 九緒夢に用意して貰ったセーターを着込みながら、スノーマンに自己紹介を求める。


「私、スノーマンというイレギュラーで、氷島ヒロと申します」

「……氷島ヒロ……? どこかで聞いたような名前ですね……」

「そうですかな? スノーマンの世界では私しかいない名前ですぞ? 自分の名前でググッた事もありますからな。あ、そうそう、私、こんな本を書いておりまして。是非とも読んでみてください」


 ヒロはどこからともなく本を取り出し、白夢に手渡してくる。

 タイトルは『USUBAKAGEROU』だった。

「うすば……かげろう?」

「そうです。ウスバカゲロウという虫の一生について淡々と語るライトノベルなんですよ。自費出版ですが」

「そ、そうですか……」


 全然ライトノベルじゃないし、何より売れなさそうだ。


「あ、本の代金をいただきたいのですが」

「いや、別に本は要らないのでお返しします」

「そうですか? おもしろいのに……」


 この、スノーマン。実に自意識過剰である。白夢はそう判断した。

 このような客はプライドが高いことが多い。とても面倒なタイプの客である。


「それで、本日はどのようなご相談で……?」

「…………」


 黙りこくるスノーマンのヒロ。

 白夢と九緒夢は、じっと彼を見つめた。


「…………あ、コーヒーを頂けますかな? もちろん、ホットで」


 手袋の手でサムズアップをするスノーマン。九緒夢にウインクまで投げかけた。


「ええ!? コーヒー飲めるんですか!?」

「もちろんですよ? 私ほどの紳士なスノーマンなら当然です」


 九緒夢が驚くと、ヒロは当たり前のように答えた。

 スノーマンはコーヒーなんて飲めないだろうと、あえて気を利かせてコーヒーを出さなかったのだ。


「体が茶色くなったりしませんか?」


 九緒夢が心配したのがこれ。雪ダルマが汚れるような気がしたのだ。


「ふはははは、そんなこと大丈夫ですよ! たまにカキ氷のシロップを飲むこともあるくらいですから! 体が鮮やかになって綺麗なもんです!!」


(さすがに茶色はまずいだろう……)


 と二人は思ったが、彼がよいというのなら別に構わないのだろう。


「コーヒーをどうぞ。あ、ハクも」

「ありがとう」


 九緒夢は急いでコーヒーを淹れ、ヒロと白夢に出した。


「おお、これですよ。やっぱりコーヒーはホットに限りますなぁ……」

「どうぞ、シュガーとミルクです」


 九緒夢が薦めると、


「いえ、結構。こう見えても私、コーヒーの違いが判るスノーマンでね。よくコーヒーを飲んでいるんですよ」

「へ、へぇー、そうなんですか……」


 思わず苦笑する九緒夢。

 ヒロは手袋の手で器用にカップの取っ手を掴んで、そして一口。


「――……ズズ……!? うわ! にげぇ!! なんだこりゃ!? 甘くないぞ……!?」

「そりゃあ……ねぇ……」


 コーヒーのブラックが甘いわけがない。

 呆れる九緒夢と白夢。

 そんな視線を感じ取ったヒロは急に取り繕うと、咳払いをして言い直した。


「……ふっ! ……ん! ……ふう……。……いや、中々に美味なコーヒーですな。良い豆を使ってらっしゃる。ふむふむ。香りも申し分なし。……しかし、私がいつも飲むコーヒーはもっと甘いもので、少々驚いてしまいました」

「……うちのコーヒー、インスタントですけど……」

「ほほう。インスタントという銘柄ですか。いや、もちろん知っていますよ!? あれですよね? ブラジル原産の豆ですよねぇ?」


 白夢が噴出しかける。


(危ない危ない……。もう少しで吹いてしまうところだった……)


 九緒夢も持っていた盆で顔を隠して笑いを堪えていた。


(コーヒー豆は全部ブラジルって言っておけばいいと思っているのかな……?)


 九緒夢はもう少し話に付き合うことにした。


「ヒロさんはどんな銘柄が好きなんですか……?」


 九緒夢に質問されたヒロは、自慢げに語り始める。


「私ですか? ふむ。無論、様々なコーヒーを口にするが……一番はマックスコーヒーですな!!」


 それを聞いて、白夢は鼻からコーヒーを噴出した。


「ハク、大丈夫!?」

「ゲホッ、ゲホッ!! ちょっと、マックスコーヒーって……!! 反則でしょ、それ……!!」

「うむ! マックスコーヒーは反則なくらい美味であるからな!!」


 それを聞いた二人は、ついに腹を抱えて笑い転げたのだった。


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