吸血鬼のお姉ちゃんのスキンシップは激しかったり。
――その帰り道、スーホのリヤカー上でのこと。
「ハク、あんな約束して大丈夫?」
九緒夢が心配そうに白夢の顔を覗き込む。
「うん。大丈夫だよ、キュー」
九緒夢の心配とは裏腹に、平然とした顔で白夢が言う。
「でも、もし失敗したらただじゃ済まないかもよ? 〝こんなもの〟も手に入れてきたんだから」
九緒夢は白夢の手に握られている、先程牛頭鬼の村長から手に入れた〝あるもの〟をじっと見つめた。
「そうだね。でも失敗はないと思うよ?」
「え? どうして?」
キョトンとした顔で九緒夢が問う。
「だって、もう対処方は思い浮かんだからね。それに原因が原因だし、元々は誰が原因かも判ったし。大丈夫だよ」
「……そう? ハクがそこまで言うなら大丈夫かな……?」
しばらく白夢を心配する素振りを見せていた九緒夢。
白夢と九緒夢。二人は双子である。
そして九緒夢は姉なのだ。
例え彼女がイレギュラーで、自分が人間でも。
それでも姉と弟という関係が崩れることはなく、二人は理想的な姉弟の関係を築いてきたのだ。
九緒夢は他人からよく妹と間違えられる。
見た目も然る事ながら、態度、性格から判断されることも多い。
よくはしゃぎ、よくミスをする。明るく、騒がしい。
傍から見れば落ち着いている白夢の方が兄だと見られるのは、仕方のないことかも知れない。
だが、白夢には九緒夢はしっかりと姉なのだ、と実感できることが多々ある。
今のような心配性な一面もそうだし、様々な相談事を積極的に受けていく姿勢もそうだ。
姉ゆえの暖かさを感じることが出来たし、弟として大いに信用、安心出来るのだった。
そして、そんな姉を心配させるのは白夢としては好ましくない。
「……大丈夫だよ。あっ! キュー、見てよ! 夕焼けが綺麗だよ!」
九緒夢には安心していて貰いたい。これが白夢の行動理念の一端なのだ。
心配していた九緒夢だったが、白夢のいつもと変わらない態度を見てホッとしたのか、ようやくいつもの調子を取り戻してきた。
「そうだよね! ハクが言うなら間違いないよね! それにしても格好良かったなぁ」
「……何が?」
「ハクが村長に『光寺吸血相談所相談員、光寺白夢にお任せ下さい!』って言っていたところ! 周りの牛頭鬼さん達も驚いていたよ!! 格好良かったよ! ハク!!」
「……それはどうも……」
努めて冷静に返事してみたものの、白夢は顔が熱くなるのが判った。
周囲にどう思われていようと、弟として姉に褒められるのはやはり嬉しい。
「ハク、顔赤くなってるよ? もしかして……照れちゃってる……!?」
「……夕焼けのせいだよ」
「嘘! 照れちゃってるんでしょ? 本当にハクって可愛い~~! うりゃ、うりゃ!!」
九緒夢が白夢に抱きつき、指で頬をつつく。
「ちょっと、痛いって、キュー!!」
「んもう! ちょっと抱きついてるだけじゃない! この軟弱者め~!! 頬ずりしてやる!! すりすり……」
「もう、くすぐったいよーーー!!」
二人の激しいスキンシップの様子を前で聞いていた馬頭鬼は笑いながら呟いた。
「いやはや、本当に仲の良い双子さんですなぁ……」
――スーホの独り言が、白夢達の耳に入ることはなかった。