ようこそ、吸血相談所へ!!
ドッペルゲンガーの仮さんが消えて、早一か月。
二人はいつものように通常業務を行っていた。
「ハク~、今日は牛頭鬼の村長さんが相談に来るんだけど!」
「……嫌な予感しかしない……」
その予感は大的中。
なんと今度は牛頭鬼の連中、ゴブリン族とのいざこざを起こしたらしい。
その理由とはゴブリン達が牛頭鬼用スマートフォンを買い占めたことだという。
正直そんなくだらないことに労力を使いたくはなかったが、これも仕事である。
どうにか両者に妥協案を出させ、何とか解決させてやった。
「ハク~、今日はエルフ族が来るよ~~」
「エルフは心が繊細だからなぁ……」
様々な相談事を、白夢を中心に、九緒夢、リキュルと協力し合って解決に導き、次第に光寺吸血相談所は有名になっていった。
収入も増えて嬉しいが、その反面、業務も多くなり、ここしばらくゆっくりとした休暇が取れずにいた。
そんな忙しい日々を送る相談所だったが、今日はたまたま予約がない。
「……暇だなぁ……って言っていた頃が羨ましい……」
「……だね……。最近は忙しすぎてね……」
昼下がりのバラエティ番組から響く無機質な笑い声を、久しぶりとばかりに聞き流しながら、甘いマックスコーヒーに口をつける。
バラエティ番組にはいつもの馬面の司会者と、これまた同じような顔をした馬面が映し出されていた。
『いやー、それにしても牛頭鬼には困ったものですな! 私を見るたびに甘党人参を差し出してくるのですから~。まったく、迷惑な話だとは思いません? 甘党人参ですよ? 甘党人参』
やれやれとため息をつく司会者。
『それ、嫌な事なんですか?』
『実はね……。私、こう見えても甘党人参が大嫌いでして!! 馬なのに!!』
『いや、そんなわけないでしょうよ。馬はみんな好きですよ? 人参』
『……えっと、これ『饅頭怖い』って話の応用なんですけど……』
『饅頭が怖いわけないでしょ。甘いだけです』
『いや、だから……』
『それよりも最近、また新しいタクシーを作りやしてね! なんと今度のリヤカーには羽が生えて、空を飛ぶことが出来るんですよ! まさにユニコーン!』
『ペガサスでしょ!? それ!』
どどっと会場から笑いが起こり、一通りトークが終わると、お友達紹介の後、番組はコマーシャルへ移った。
「…………今の、スーホさんだよね…………」
「……うん。由紀さん達を追いかけている時のリヤカーがあまりにも面白かったから、お笑い芸人としてスカウトされたんだって」
「へぇ……」
あれからわずか数か月しか経っていないのに、随分と色々変わった気がした。
中でも一番の変化は、新しい家族が出来たことだろう。
「はくにぃ! B型のせーしが少なくなってきたから買いに行こーーー!!」
「だから売ってないって……。そもそもB型の精子って何さ……」
「リキュルちゃん、せっかくの休みだし、どこか遊びに行こうか?」
「うん! 行く! はくにぃも!」
「判った判った! だから引っ張らないで!」
その時、玄関の方からボトっと音がした。
「あ、宅配便が来たみたいだよ!」
九緒夢が取りに行くと、それは小包だった。
「なんだろうね?」
九緒夢が自慢の爪で封を切り、中を見てみると。
「手紙が入っている」
「ねぇ、このパターン、デジャヴュを感じるんだけど」
あの時は箱一杯にマックスコーヒーが詰め込まれていて、全部消化するのに難儀したもんだ。
「どうも違うみたい。差出人は……仮さん!?」
「ええ!?」
箱の表を見ても間違いなくそう書いてある。
早速手紙を開けてみてみた。
そこにはこう記されていた。
『お二人とも、本当にありがとうございました。おかげで僕は幸せでした。この手紙を読んでいる頃、僕はこの世界にいません。ですから、このような形で報酬を用意しました。是非とも受け取って下さい』
手紙の下に置いてあった小さな箱。
九緒夢が開けてみると。
「……これ、婚約指輪じゃない……!? 名前とかは彫られていないけどさ……!!」
控えめな大きさのダイヤモンドに、赤いルビーが少しずつ装飾されている指輪。
「……こんなもの、いただけるわけないよ……」
「そう、だね……」
これは勇樹さんが由紀さんに送るために買ったはずの指輪。
だとすれば受け取れるわけがない。
二人が戻そうとして箱を覗いた時、もう一枚手紙が挟まっていることに気が付いた。
『追伸 この指輪は僕が由紀さんに渡そうと思って買ったものです。でも、由紀さんには本物の婚約指輪をつけて欲しかった。だから渡せずじまいになったものなのです。ですから遠慮なく受け取って下さい。お二人の相談員としての御健闘、ずっと期待しています!』
「……そうだったんだね。仮さんが買ったんだ」
「私も仮さんの意見に賛成だよ。由紀さんは勇樹さんからの婚約指輪以外受け取っちゃいけないよ。だからこの指輪、貰っておこうね」
「うん、そうだね」
またしても現物報酬。
二人の実績としてはカウントされず、実績はゼロと一緒だ。
それでも、この指輪には、二人にとってとても重要な思いが込められている。
仮さんの気持ち、ドッペルゲンガーの由紀さんの気持ち。
二人分の期待を背負い、これからもカウンセリングを続けていこう。
「ボクにも見せてよぉ!」
新しく増えた家族と共に、これからも。
――チリンチリン……。
「あれ……?」
来客を告げるベルが部屋に鳴り響く。
「お客さん……? 今日はお休みって札、出しているのになぁ……」
そう呟く白夢に九緒夢がくっつく。
「まあいいんじゃない? ちょっとやる気も出たし!」
九緒夢は早速指輪をつけて、にやけていた。
「ボクも欲しいよぉ!」
「リキュルも頑張ればもらえるよ」
「本当!? じゃあ頑張る!!」
「さぁ、キュー、仕事だよ。おもてなしの準備、お願い!」
「了解したよ!」
嬉々として準備を始める九緒夢とリキュルに、身だしなみを整える白夢。
だいぶ慣れてきた手順を進め、客を迎え入れる準備を済ませた。
「すみません、どうしても今日カウンセリングをお願いしたいんですけど……」
恐る恐る扉を開きながら、尋ねてくる人影。
そんな人影に、待っていました、と言わんばかりに九緒夢が叫んだ。
「ようこそ! 光寺吸血相談所へ!!」
無事完結いたしました!
ご愛読ありがとうございました!




