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ヴァンパイア・かうんせらー‼ ~吸血鬼があなたのお悩み解決します~  作者: ふっしー
相談者:ドッペルゲンガーの仮さん 『偽物の恋』
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プラネタリウム

 九緒夢は顔を抑え、白夢も目頭を熱くさせていた。

 リキュルは、涙する九緒夢を抱きしめていた。彼女なりの慰め方だった。

 ドッペルゲンガーの仮は、雪の舞い振るこの瞬間に、消えてなくなってしまった。

 最後に見せた仮の顔が、とても幸せそうで、白夢は心から安堵した。

 目を擦り、これからどうしようか考えた、その時。


「そこの貴方達、出てきてくださいますか……?」


 由紀さんが、真っ直ぐにこちらを見据えていたのだ。

 これ以上隠れる意味もないと、白夢が前に出る。


「……僕達のこと、知っていたんですか……?」


 白夢が問うと、彼女は優しく微笑んだ。


「はい。だって、あれだけ面白いリヤカーで追っかけてくるんですもの。誰だって気づきます」

「そ、そうですよね……」


 やはり気づかれていた。

 気づかない方がおかしいと言えばおかしいのだが。


「貴方達が、あのドッペルゲンガーさんを連れてきてくれたのですか?」

「……はい」


 白夢は首を縦に振り肯定する。

 九緒夢も泣きながら首を振った。

 白夢はひっぱたかれることを覚悟した。

 たとえ仮の依頼だったとはいえ、彼女の心を傷つけたことは事実だからだ。

 近づいてくる由紀さんに、白夢は思わず目を瞑る。

 しかし、いつまでたっても痛みを感じることはなかった。

 代わりに感じたのは、肩への暖かさ。


「……ありがとうございました」

「……え……?」


 思わず顔を上げる白夢。

 逆に由紀さんの顔の方が申し訳なさそうにしていたのだ。


「貴方達には本当のことを話したいの。聞いてくれる……?」


 何故か由紀さんが頭を下げる。


「ゆ、ゆき、さん……?」


 未だ目が赤い九緒夢は、想定外の出来事に困惑していた。

 頭を上げた由紀さんは、ゆっくりと、そしてあまりに衝撃なことを口にする。


「実はね。私もドッペルゲンガーなんだ……」

「…………え!?」

「ドッペルゲンガー!? 由紀さんが、ど、どうして!?」


 思わず声が荒ぶる九緒夢。その目が丸々と見開くほど、驚愕していた。


「由紀さん、勇樹さんが交通事故で亡くなった事を知ってね。追いかけたんだよ。……自殺、しちゃったんだよ……」

「……由紀さんが……!?」

「そう。由紀さん、今日のデート、本当に楽しみにしていたんだ。だから、こんなことドッペルゲンガーの私がしてもいいのか判らなかったけど、由紀さんが行くはずだったデートコースを回ってみようと思っていたんだ。待ち合わせもきっちりとしてね。そしたら、亡くなったはずの勇樹さんがいたんだもの。本当にびっくりしたわ。でも少し話してみたら判ったの。彼が偽物だってことに」

「……どうして判ったんですか……?」

「本物の勇樹さんはね、一人称が『俺』なの……。だからすぐに判った」


 そうだ。仮はずっと自分自身を僕と呼んでいた。

 それだけで本人じゃないと明白だったわけだ。


「私はね、本当に嬉しかったわ。だって、亡くなった由紀さんが為し得なかったことを、代わりに出来たんだから。私ももうすぐこの世から消える。天国に行ったら、由紀さんに自慢するの。自殺なんかするから、こんなに素敵なことが出来なくなっちゃったんだよって。そう、自慢するんだ……!」

「由紀さん……」


 舞い落ちる雪の勢いは、段々と強くなってきた。

 そんな荒れ始めた空を、由紀さんはじっと眺めていた。


「きっとこの雪は、由紀さんが私に嫉妬しているんだ。私だけこんなに幸せな時間を過ごすことが出来たんだから。偽物でもいい。本物じゃなくたって、幸せになることは誰にだって出来るんだから……!!」


 それからしばらく、彼女は由紀さんのことを色々と教えてくれた。

 数々のエピソードに、三人は笑い、羨ましく思い、そして涙した。

 雪降る深夜の公園はとても寒かったけど、見知らぬ二人の話の数々に、不思議と暖かみを感じていた。

 話に夢中で時間なんて忘れてしまいそうだ。

 それでもやはり、時間は待ってくれない。

 夜も終わり、朝が来る。

 由紀さんが勇樹さんの死を知ったのは、勇樹さんが交通事故を起こして三時間後のことだったらしい。

 現場に駆け付けた救急隊員が、彼の携帯電話から身内に連絡したそうだ。

 後から聞いた話だが、勇樹さんの携帯電話には、由紀さんの登録名にすでに自分の苗字を当てていたらしい。

 真っ先に由紀さんが連絡を受けたそうだ。

 絶望した由紀さんは、その後、後を追ったそうだ。


「楽しかった。でも、そろそろ時間だわ……」


 朝日が昇り始めた。

 由紀さんの体が、徐々に光り輝き始める。

 雪が朝日を反射させて、とても幻想的なプラネタリウムを作り出した。

 由紀さんは最後に白夢に言ってくれた。


「――ありがとう、優しい優しい、相談員さん――」と。


 光が消える。

 公園に残ったのは、白夢達三人だけだった。


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